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知取気亭主人の四方山話
 

『BLACK FRIDAYと恵比須講』

 

2023年11月22日

先月下旬、妙に気になったニュースがある。渋谷の街のハロウィン対策だ。金沢に住んでいるとまるで異国の話題の様でなんだか不思議な感覚だったが、このイベント目当てに集まる群集による混乱を避けるため、「渋谷には来ないでください」と区が呼びかけたり、待ち合わせ場所として人気の高い忠犬ハチ公像が見えない様に目隠しをされたりと、渋谷区があの手この手で事件・事故防止に躍起になっているというのだ。それもこれも、この老人が子どもの頃にはトンと聞いたことがなかった、そのハロウィンというキリスト教に関連したお祭りで、どうやら渋谷が日本での聖地になったらしく、外国からの観光客も含め近年尋常でない人出が続き、中にはバカ騒ぎをする集団もあって、酒を飲んだ群衆が羽目を外す問題行動が目立ってきたからだという。

本来のハロウィンは、そうした問題行動とはまるっきり違い、秋の収穫を祝い、先祖の霊をお迎えするとともに、先祖の霊と一緒にやって来る悪霊を追い払うお祭りだという。仮面をつけたり奇抜な格好の仮装をしたりするのは、悪霊の仲間と見せかけて身を守るためらしい。キリスト教としての“宗教行事”ではないらしいが、諸外国で楽しんでいる人たちにとっては、伝統文化になっている様子が窺える。お祭り本来の意味・意義が受け継がれているからだろう、テレビで放送される欧米の国々では、主役はあくまでも子供たちで、日本に比べずっと穏やかなお祭りの印象が強い。

しかし、本来の意味を知ってか知らずか、このお祭りを楽しむ日本人は、近年急に増えて来たように思う。日本人は、万物に神が宿るという八百万の神々を信ずる大らかな思考が身に付いているせいか、海外の宗教に対してあまり嫌悪感を抱かないからなのだろう。ましてや、楽しめるイベントだけを取り出し、宗教色を薄めてしまうことも得意ときている。仏壇の前でクリスマスケーキを食べるなんてことは、もう何十年前から普通の光景になっている。クリスマスプレゼントなども、サンタの気持ちになり切って子供の枕元に置くのは、最早何の違和感も持たないでやっている。そしてハロウィンも、町会や学童保育の行事として行われる様になり、それを楽しんでいる孫たちを見ると、クリスマスと同じ様にやがて国民的行事として根付いていくのだろうな、と思う。同じ様に根付き始めたなと思わせる外国由来のイベントの喧伝が、ここ数日やかましい。「BLACK FRIDAY」だ。

先週あたりから、新聞の折り込みに、でかでかと「BLACK FRIDAY」と印刷されたチラシが次々と入って来る。衣類も電化製品も生活雑貨も、そして食品まで、あらゆる小売店がこのイベントに乗り遅れまいと躍起になっている。ネット情報によれば、元々はアメリカで始まった文化で、感謝祭の翌日となる11月の第4金曜日(今年は24日)に小売店が大忙しになることに皮肉を込めて「真っ黒な金曜日」と呼んでいたのが語源らしい。その文化を見事なまでに取り入れている。しかも、FRIDAYと銘打ってはいるが、実際のセール期間は大体1週間ほどもある。「BLACK WEEK」とでもすべきところなのだが、そこは発祥の地アメリカに敬意を払っているのだろう。

それにしても、商魂逞しい。ただ、外国の文化を取り入れなくても、日本にも伝統的文化と呼べる、似た様な商売に関するお祭りがある。その我が国伝統の行事を差し置いて、多くの日本人にとってさして馴染みのない感謝祭の、しかもその遊びの部分だけ堂々と行うとは、「さすが日本だなぁ!」と感心する。と同時に、とても勿体ない気がしている。我が国伝統の行事ならば、外国からの観光客に対して魅力ある観光資源として使えるのではないか、と思っているからだ。その伝統行事とは、「恵比須講」(戎講、恵比寿講とも書く)である。

「恵比須講」とは、七福神の一人である恵比須様をお祀りする行事のことで、陰暦の10月20日(新暦だと、今年は12月2日に当たる)に行われている地方が多いらしい。「二十日(はつか)恵比須」と呼ばれるもので、西日本では「十日(とおか)恵比須」と呼ばれ、1月10日に行われているらしい。家業のある妻の実家では、その日は家族や住み込みの従業員など全員で御膳を囲み、恵比須様に感謝していたという。また、近隣の商店街では大売出しのセールが行われていたというから、正に今の「BLACK FRIDAY」と同じ趣旨のイベントが行われていたのだ。しかも、日本独自の伝統文化として。

日本の豊かな自然や美味しい食事、そして島国として独特な発展を遂げた伝統文化、それらを求めて訪れる海外からの観光客は多い。自国で慣れ親しんだ文化や行事は、敢えて日本まで来て楽しむ魅力は無いと思う。だとすれば、輸入イベントである「BLACK FRIDAY」に換えて「恵比須講」をもっと大々的に、国民的行事ぐらいに盛り上げる、というのはどうだろう。恐らく、地方色豊かな催事も残っていると思う。外国人観光客にとっては魅力的な観光資源となるし、日本人自身にとっても伝統文化を継承していく大切さに気付くのではないか、と思っているのだが、読者諸兄は如何だろう?

尤も、『日本の伝統を読み解く 暮らしの謎学』(岩井宏實著 青春出版社 2003)によれば、恵比須は戎とも書く様に、異郷(尊王攘夷の夷)からやってきて幸福をもたらす神様だと信じられていたという。だとすると、今の「BLACK FRIDAY」のことをとやかく言うことも無いのかもしれないのだが…。


【文責:知取気亭主人】


ツワブキ
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