2024年4月24日
世の中にはマルチな才能を持っている方が結構おいでる。少し前に亡くなった歌手の八代亜紀は、十週勝ち抜いた本職の歌の実力ばかりでなく絵の才能も豊かで、フランスの絵画展で5年連続入賞した実力の持ち主だったらしい。また、歌手として、そして女優としても活躍しているジュディ・オングは、版画家として何度も日展に入選しているという。一度テレビで彼女の作品を見たが、その見事な出来栄えに圧倒されたのをよく覚えている。もっと身近なところで言えば、子供たちに大人気のアンパンマンの声優として知られている戸田恵子も、女優や歌手としても活躍していて、マルチな才能を発揮している。
女性に負けず劣らず、男性にもたくさんいる。稀有な二刀流選手として世界の耳目を一身に集めている大谷翔平選手も、その内の一人だろう。また、お笑い芸人の又吉直樹は、芥川賞作家としてつとに有名で、二足の草鞋を履きどちらも第一線で活躍している。同じお笑い芸人仲間で言えば、ビートたけしも才能あふれるマルチタレントだ。俳優、映画脚本家、映画監督などにも才能を発揮していて、彼の手による映画作品は、ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞するなど海外での評価も高い。異才、と言っても良いのかもしれない。
世の中には、まだまだ数え上げればきりがないほどマルチタレントは居る。平凡な小生としては羨ましい限りなのだが、つい先日の“ある集まり”で、ビートたけしも真っ青の“我が家のマルチタレント”を発見した。しかも、まだ小学6年生だ(以下、H)。そのH、小学生ながら、脚本、演出、大道具&小道具作り、人形操作、語り、その上司会進行迄、出し物全てを一人でこなしてしまった。しかも、こなしただけではなく内容もとても愉快で、鑑賞していた年長さんの孫(以下、M)からは、何度もアンコールの声が掛かったほどだ。ある集まりとは、我が家の誕生会である。
4月は、小生と昨年生まれた7人目の孫の誕生月である。歳の差74歳の二人を先週の土曜日、金沢市在住の子供や孫達が祝ってくれた。大人7人に孫6人の賑やかな誕生会だ。到着するなり、Hが嬉々として誕生会のプログラムを書き始めた(F-1)。今見返すとユニークな順番だが、細かなところまで気が回っている。しかも、絵まで添えてある。日頃から創作意欲溢れる彼らしい。また、学校で催し物の際司会進行を任されている事が多いと聞いているので、きっと手慣れているのだろう。思い描いている事が一杯あるらしい。
会も進み、いよいよ楽しみな誕生日プレゼントの時が来た。小学3年の孫娘(以下、Y)が、姉(以下、A)の手助けを得て初挑戦したチョコレートケーキに添えて、可愛らしい花束をくれた(F-2)。いつも二人は、女の子らしい手作りの花などをプレゼントしてくれるのだが、今回はちょっと趣向が違う。Aの説明によると、落ちていた本物の桜の枝に紙で造った桜の花を飾り付けたという。写真では花が萎れてしまっていて少し残念だが、思わず二度見するほど良く出来ていた。凄く素敵な花束だ。何より、二人のその気持ちが嬉しい。
そして、次女からは優れもののリモートワークグッズを、長男夫婦からは何よりのビールを貰い、頬の筋肉がタップリ弛んだところで、いよいよHによる出し物が始まった(F-3)。
F-1.プログラム
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F-2.花束 |
F-3出し物の舞台(H劇場?) |
後から送ってもらった写真によると、出し物は、『今日も一日 お花見屋』という何とも楽し気な演目だ。テーブル上に用意された舞台も、勿論主役となる二人のキャラクターも、桜の花以外全て段ボールで作ってある。Hが作り慣れている材料だ。部屋の電気を消し、スポットライトを当てて始まった。人形劇の雰囲気はばっちりだ。Hは背景の後ろに立ち、右手に「カメ爺」(F-3で3色団子を持っている向かって左の人形)を、左手に「ガメ爺」(F-3の右手の人形)を持ち、そして三色団子を下に置き、語り始めた。時々愉快な踊りも入れる。「カメ爺」が落ちていた三色団子を拾い「ガメ爺」にあげる、という奇想天外なストーリーなのだが、二人の爺さんの動きと語りの面白さに、全員が引き込まれていく。Mがアンコールを連呼したのも頷ける。
小生の筆力ではその面白さを十分お伝え出来ないのが、誠に残念だ。ただ、気が付けば大人全員が写真を撮ることも録画することも忘れていたことからも、面白さの一端は分かってもらえると思う。この人形劇、全てHのオリジナルだ。それに加えて、準備から演じるまで全てを一人でこなしてしまった。日頃から時間さえあれば段ボール紙を材料に色々なモノを作っていて、「カメ爺」も「ガメ爺」も周知のキャラクターだが、こんな風な物語に登場するとは思ってもみなかった。その豊かな発想には既成概念が邪魔していない。それが、全員を引き付けた大きな要因なのだろう。
実はH、発達障害があって特別支援学校に通っている。でも、こんなにも豊かな才能がある。家では時間さえあれば段ボールを切って何かを作っている。家に来られた支援学校の先生に彼の作品を見せたところ、その出来栄えに驚いていた。学校生活ではそうした作品を作る時間もなく、知らなかったという。逆に我が家の住人は、学校という集団生活の中で見せる彼の才能を知らない。今回の人形劇で彼のマルチタレントぶりが再認識できた格好だ。ただよくよく考えると、文章に登場したAもYもMも含めて、子供はすべからく皆マルチタレントの芽をいっぱい持っているのだと思う。どうやってそれらを潰すことなく伸ばしてやれるか、それが大人に課せられた重要な使命である。
【文責:知取気亭主人】
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