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知取気亭主人の四方山話
 

『生活の知恵』

 

2024年5月8日

「チュピチュピチュピジー」とか、「ツピーツピー」などと鳴いているそうな。ツバメのことである。どんな風に表記したら良いかと悩んでいたところ、ネットで上記のような表記を見つけ、拝借させてもらった。今頃の季節になると毎年この鳴き声を楽しみにしているのだが、連休に入り家庭菜園の準備をしていたら、聞き覚えのあるくだんの鳴き声が聞こえてきた。見ると、すぐ近くの電線に止まっている。今年も、忘れずお隣のガレージに巣作りをし始めたのだ。何千キロも旅をしてきてよく舞い戻れるものである。飛行能力の高さも位置認知能力の高さも、我々人間には到底真似のできない特殊能力だ。

ツバメは、実った稲穂をついばんでしまうスズメと違い、稲の害虫などを捕食してくれる益鳥だと教えられていて昔から農業を営む人たちから大事にされ、そして多くの日本人にもファンが多い大変身近な鳥である。そうした身近さもあってだろう、旧国鉄の時代には、特急列車の名前に使われていたこともあった。またもっと古いところでは、宮本武蔵の好敵手佐々木小次郎が編み出した剣法に「ツバメ返し」との名前が付けられていたと言われている。

そうした馴染み深さに加え、人の生活する直ぐ近くで巣作りするので観察しやすいということもあって、愛鳥週間(5月10日〜16日)に合わせ、「ふるさとのツバメ総調査」と称して、石川県内各地の小学校でツバメの生息状況の調査をやっている。県によれば、昭和47年(1972年)から地元の自然環境や生き物に関心を持ってもらおうと、コロナ禍で実施されなかった2020、2021年を除き毎年行われてきた、とある。こうした調査を県の全域で続けているのは全国でも珍しいという。ただ継続してきたおかげで、個体数の減少(県発表の調査データによれば、1972年に33,332羽確認できたものが2011年には11,708羽まで減少している)だとか、その原因となっている環境の変化・悪化を知る事ができる。したがって、こうした動植物を継続して調査・観察するということは、人間にとってもとても大事な事だ。時には彼らの持つ特殊能力により、将来を予見することも出来る。

5月2日、八十八夜(5月1日)に合わせ、父の実家でお茶農家を継いでいる従兄から新茶が送られてきた。翌日、お礼の電話を入れると、とても90歳間近とは思えない元気な声で近況を話してくれた。何にでも興味を示し、チャレンジする従兄らしく、話題が豊富で話は尽きない。そんな中、ツバメに関して面白い話を聞かせてくれた。

『爺さんが元気だった頃、ツバメの巣が深いと夏はそんなに暑くならないが、逆に浅い巣を造った時の夏は暑いと良く言っていたのだが、今年の巣は“例年に比べ深い”』と言うのだ。そして、『もう少しすると雛が孵るが、その雛を寒さや暑さから守るために、寒い夏が来ると感じ取った時には巣を深くして保温効果を上げ、逆に暑くなると感じ取った時には浅くして熱を逃がしてやる、そんな対策をやっている』と続け、『だから今年の夏は然程暑くならないかもしれない』と今夏の気温を予想して見せた。長年に亘る観察から得られた生活の知恵みたいなもので、説得力がある。

説得力があるのには、別な意味で訳がある。最近、電話で話すたびに、『今年のお茶は天候が不順で随分と遅れている』と嘆いていたからだ。先月末に話した時には、既に県内のお茶市場は開かれたものの、生産量が極端に少なくて茶どころ静岡なのに形ばかりの初市だった、と恨み節とも聞こえる話をしていた。新芽や若葉がどんどん出てくるような気温になってくれないらしい。したがって摘み取れる量も少なく、送ってくれたお茶もギリギリだったという感じらしい。そんな事からしても今年の夏の天候不順が予想され、ツバメの巣の深さによる夏の気温占いは結構的を射ているのではないか、と思っている。それもこれも、長く観察していればこそ会得できた生活の知恵と、言えるだろう。

もう一つ、習得したとっておきの生活の知恵を教えてくれた。キウイフルーツの収穫時期の見定め方だ。市場に出回っている商品の様に完熟前に収穫する場合は難しくもないが、蔓になったまま完熟させるとなると、結構面倒臭いらしい。キウイを静岡県内でいち早く栽培し始めた従兄は、あれやこれやと工夫を重ね、お茶と同様無農薬で栽培している。そして、子供や孫達が採ってすぐに食べられる様にと完熟させることを目指し、実の一つ一つに袋掛けをしているというのだ。そして、この袋が見定めに重要な役割を果たしてくれる、と笑う。説明を聞くと、当を得た上手い方法だと感心してしまう。

シカやイノシシも闊歩する自然豊かな田舎ならではの光景なのだろう、実が熟し収穫できそうな時期がやってくると、匂いを嗅ぎつけたタヌキやハクビシンが失敬しに来るらしい。美食家(?)の彼らは、食べられない紙袋はゴミとして捨ててしまい、実だけを堪能していく。翌朝その落とされた紙袋を見て、収穫時期が来たなと判断するのだという。成る程、である。嗅覚の優れた、そして味にうるさい動物の手を借りて判断している、と笑う。しかし、褒美として2、3個は味見してもらうのだから、お互い様だろう。それにしても上手い方法を考え付いたものだ。鋭い観察眼の賜物だ。

この様に長年かけて習得した生活の知恵、便利さを追求するあまりに自然との関わりが薄らいできた我が身故か、すごく新鮮に感じてしまう。反省しきりである。


【文責:知取気亭主人】

ツルオドリコソウ
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