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知取気亭主人の四方山話
 

『何が大事?』

 

2024年6月26日

新聞の折り込みチラシを見ながら、『食料品が軒並み値上がりをしている!』と我が家の大蔵省が嘆く。値上がりは滅多に買わない物にも波及していて、驚かされる。最近驚いたのは、浄水器だ。以前に比べると2割ほども高くなった。しかし、安全な水を確保するためには、多少の出費増は諦めるしかない。如何せん“命の水”だからだ。

それはそうと、我が家で水道の蛇口に浄水器を付けて使い始めたのはいつ頃からだっただろうか。確か、我が子が生まれた頃からだったと思う。それまで飲み水には頓着なく、現場に行けば野山を流れる清水を平気で飲んでいたし、蛇口を捻れば安全で美味しい水が出てくるのは極当たり前だと思っていた。また、故郷も金沢の水道水も、東京や大阪に比べると遥かに美味しかった。したがって、浄水器を利用するなんて発想は全くなかった。ところが結婚して子供ができると、義母が「安全な水を孫達に飲ませてあげて」と、浄水器を手配してくれたのが始まりだった。それ以来だから、かれこれ45年近くになる。

今はその当時とは違うメーカーの物を使っているのだが、買い替えの時、なるべく多くの不純物を除去できしかも手ごろな価格の物をと、あれこれ悩んだ末に今の商品を選んだ。手元にある交換用カートリッジのケースには、「19もの物質が除去対象」と書かれている。その19種類を下記の一覧表に示してみた。除去対象物質のうち「濁り」を除いて、他は全て80%除去できるという(濁りは50%としている)。それが飲み水の安全性を十分に担保できている性能なのかは詳らかではないが、こうして一覧表にしてみると、聞き慣れない化学物質が驚くほど多いことに気付かされる。しかし深読みすれば、これだけ多くの化学物質が除去対象として明記されているということは、山紫水明と言われてきた日本の河川水や地下水が、欧米に追い付き追い越せと必死になって追求してきた効率化や便利さと引き換えに、今やすっかり化学物質まみれになってしまっていることの証左なのかもしれない。それって結構恐ろしいことである。

表-1、我が家で使っている浄水器の除去対象物質
除去対象物質除去対象物質除去対象物質除去対象物質
遊離残留塩素濁りクロロホルム総トリハロメタン
プロモジクロロメタンジブロモクロロメタンブロモホルムテトラクロロエチレン
トリクロロエチレンCAT(農薬)2-MIB(カビ臭)溶解性鉛
1,2-DCEベンゼンジェオスミン(カビ臭)フェノール類
PFOSおよびPFOA鉄(微粒子状)アルミニウム(中性)

水道水に関して言うと、その恐ろしい状態に輪をかけるような話が、数年前から聞こえ始めている。発がん性があるとされる有機フッ素化合物(PFAS)が、全国各地で高い濃度で検出されているというのだ。それに関連して、6月23日の北陸中日新聞(以下、新聞)に、『PFAS 全国の水道水調査』と題する記事が載った。欧米などでは基準の厳格化を進めているのに、日本では「発がん性や免疫などへの影響については証拠不十分」として1日に接種する許容量を現行の水準に据え置く考えを示した、と後ろ向きの姿勢に警鐘を鳴らす内容だ。実際に、浄水場で国が定めた暫定目標値の28倍ものPFASが検出された自治体もあるらしく、現場では待ったなしの状況に苦慮しているという。

環境省のホームページに掲載されている『PFOS、PFOA に関するQ&A集  2023 年7月時点』(https://www.env.go.jp/content/000150400.pdf)によれば、PFASと一言で言っても、1万種類以上の物質があるという。中でも代表的なものが「ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)」と「ペルフルオロオクタン酸(PFOA)」で、前者は半導体用反射防止剤や金属メッキ処理剤、泡消火薬剤などに、後者はフッ素ポリマー加工助剤や界面活性剤など、幅広い用途で使われてきたとある。しかも両者には難分解性、高蓄積性、長距離移動性という性質があるため、既に北極圏なども含め世界中に広く残留しているというから厄介だ。その上、人体に悪影響を与えるとも指摘されている。

そうした人体への悪影響を考慮して各国は規制への動きを加速していて、新聞には、日本、ドイツ、米国の3カ国を比較する形で、飲料水の規制値が示されている(表-2参照)。これを見ると、ドイツ、アメリカと比べると規制が甘いという指摘も否めない。何しろ、アメリカに比べると7倍近くも甘いことになる。

表-2
飲料水の規制値(日本は暫定目標値)
日本PFOAとPFOSの合計で1g当たり50ng(検討を進めている)
ドイツPFOAとPFOSなど4種類合計で1g当たり20ng(2028年適用)
アメリカPFOAとPFOS、各々1g当たり4ng(2024年4月)
新聞記事から筆者作成(ng:ナノグラム=10億分の1グラム)

ところが、環境省は、「どの程度の量が身体に入ると影響が出るのかについてはいまだ確定的な知見はなく、現在も国際的に様々な知見に基づく検討が進められています。(原文のまま)」として動きは鈍い。本来、人体への影響が疑われるのであれば、安全性が確認されるまで厳しく監視・規制する、それが国民の命を守る基本姿勢だと思うのだが、違うだろうか?産業も確かに大事だ、しかし、国民の命と健康、これがあってこその国家であり産業だと思う。イタイイタイ病や水俣病、同じ過ちを繰り返してはならない。


【文責:知取気亭主人】


羽化直後のオオシオカラトンボ
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