2024年7月31日
手元に、土屋健著『カラー図説 生命の大進化40億年史 古生代編 生命はいかに誕生し、多様化したのか』(群馬県立自然史博物館監修 講談社BLUE BACKS 2022)という本がある。化石という痕跡を頼りに、約5億3900万年前から約2億5200万年前までの「古生代」と呼ばれる遥か昔の時代を、生命の進化に焦点を当てて読み解いた本だ。貴重な化石の写真などが豊富に挿入されていて、読む者を飽きさせない。「大人の絵本」とでも言えそうな作りになっている。
地球の歴史は約46億年と言われている。そして当該本によれば、現在の地球上で知られている(確認できる)最も古い岩石は、約40億3000万年前のものだという。しかしその岩石には、一切の生命活動は記録されていないらしい。最も古い生命の痕跡が記録されているものとしては、それから8000万年程経った約39億5000万年前の岩石だという。ただこれも生物起源の微粒子で、生物そのものの化石ではない。では、我々人間を含めた地球上の“生きとし生けるもの”の始まりはいつどこだったのだろうか、AIが人間に取って代わろうかというこんな時代になっても、確定した答えは見つかっていない、と言われてきた。
ところが、先日たまたま観ていたNHKテレビで、「南アフリカの地下に広がる20億年前の地層から、今も生きているとみられる微生物を採取することに成功した」という驚きのニュースが報じられていた。今年の5月、国際プロジェクトに参加していた東京大学の研究チームが、採取した岩石内部の亀裂から多数の微生物を確認したというのだ。しかも、DNAを確認できる細胞も見つかり、その細胞内から生物が作り出すたんぱく質も検出されたというから凄い。こうした発見によって、“この微生物は岩の中で生きている”と判断できるとしているらしい。研究チームの鈴木准教授は、テレビの中で「天と地がひっくり返る発見」と大興奮していた。
それはそうだろう。これまで見つかった最も古い生きた微生物は約1億年前のものだというから、一挙に19億年も遡ったことになる。そして夢のある話だが、今回発見されたその微生物が地球上の生きとし生けるものの起源なのかもしれないのだ。もし仮にそうだとすると、顕微鏡でしか見られない極々小さな微生物が20億年もの間連綿と進化を続け、今の我々生物を形作っていることになる。正に進化の神秘である。何故かと言えば、進化の途中で獲得した様々な機能や能力には、環境もそうだし様々なビタミンや微量元素なども不可欠で、何が欠けても今の自分には辿り着けなかったと思うからだ。
そうした事に気が付いたのには理由がある。実は私事で恐縮だが心臓の手術を受けることになっていて、先日その術前準備として体の隅々まで検査を受けたのだが、その検査があまりに多岐に渡っていて、改めて進化によって獲得した人体の複雑なメカニズムに驚いたからだ。また、忘れかけていた過去の病気や手術の痕跡ではないかと思われる検査結果もあって驚いている。いずれにしても、進化そのものにも、そしてその進化によって獲得した人体の神秘にも驚いている。
さて、前ぶりが長くなったが、この1092話がアップされる直前の7月29日、小生は大動脈弁狭窄症の手術を受ける。テレビコマーシャルでも流れている弁膜症の一つだ。健康診断で『心音に雑音が聞こえる』と言われていたのだが、数年前にエコー検査や心臓カテーテル検査を受け、その原因が大動脈弁狭窄症である事を告げられていた。まだ手術するほどではないからと言われ様子を見ていたのだが、看護師をしている次男の嫁からの助言もあって、体力的にも時期が来たと判断し、手術を前提に検査入院をした。1週間の入院だ。
この時に受けた検査は、心臓カテーテル検査、ヨード性造影剤使用検査(CT検査)、心臓の筋肉の状態を調べるピロリン酸シンチグラフィ(ピロリン酸は極わずかな放射性薬品)、この他に心臓と頸動脈のエコー検査、呼吸機能検査、胸のレントゲン、そして採血だ。聞いたことも無い検査もあって、多岐に渡っている。恐らく、手術の際に起こりうるリスクを事前に把握し、打てる対策を講じておこうということなのだ。
検査はこれで終わりかと思っていた。ところが、いざ手術のための入院をしてみると、更なる検査が待ち構えていた。改めての採血が2回、撮る向きを少し変えての胸のレントゲン、下肢動脈のエコー検査、腹部のエコー検査、麻酔科蘇生科の受診(主にインフォームドコンセント)、歯科口腔外科の受診、消化器内科の受診だ。未検査の実施と、詳しく丁寧に調べなければならないリスクが見つかっていたらしい。
リスクの一つが、B型肝炎の抗体が見つかったというものだ。詳しい検査の結果、病原菌はなく抗体だけらしい。消化器内科の先生から自分も含めた親族の肝臓に関する病歴を聞かれたが、思い当たる様な病歴はない。思い当たるとすれば、40年程前、滞在していたネパールからの帰国直後に原因不明の高熱を出して40日ほど入院したことがあって、その時肝機能の数値が高いと言われていたから、その痕跡ではないかと疑っている。ただ、渡航前にγ-グロブリンを接種していたと話すと、その抗体かもしれないと先生は言う。いずれにしても、40年も前の痕跡が残っていた可能性が高い。その仕組み、本当に神秘だ。
元々、人体は小宇宙だと良く言われる。進化の痕跡が星を散りばめるが如く残っているその様は、正にその通りだ。でも一朝一夕で獲得したものではなく、そうした小宇宙を作り上げたのは、綿々と続けられた進化の賜物である。神秘だなぁ〜!
【文責:知取気亭主人】
ヨウシュヤマゴボウ
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