2024年8月14日
本文を始める前に、先週(8月7日)お休みしてしまった理由を簡単に申し開きしておきたい。先々週の第1092話『進化の神秘、人体の神秘』でも少し触れておいたが、(事前に書いておいた)その「第1092話」のアップ前に入院し、7月29日大動脈弁狭窄症の置換手術を受けた。手術は成功し、今こうして再び駄文を書く喜びを味わっている。とは言うものの、重要な臓器である心臓を手術した訳で、術後一週間は集中治療室(ICU:Intensive Care Unit)に入っていて、キーボードを叩ける状況には無かった。
術後一週間経った8月5日に一般病棟に戻った後も、携帯電話などの電波の影響を受ける「体外式ペースメーカ」のお世話になっていたこともあり、日頃使っていたIT機器とは無縁の状態だった。その後ペースメーカを体内に植え込む手術も受け、「体外式ペースメーカ」は外れたのだが、その後暫くは点滴の管などが繋がれていて、長時間パソコンに向かうのは少々苦痛だったのだ。それに加え、それまでの投薬のせいか、元々速くもなかった頭の回転がすこぶる鈍かった。そんなこんなで、8月7日分は予告も無く休刊とさせていただいた。
以上、前話休刊の理由をあれやこれやと並べたが、新しい“牛さんの心膜”を貰ったこの体、これからは気分も新たに、“モウ牛の如く”気になるものには首を突っ込んで、四方山話をお届けするつもりである。乞うご期待!
さて繰り返しになるが、小生の病名は「大動脈弁狭窄症」という。よく健康診断で、『心音に雑音がありますね』などと言われる際に疑われる病気の一つで、弁膜症の一つだ。「大動脈弁」とは、左心室から大動脈を通して全身に血液を送る際に、逆流を防ぐ大切な“弁”である。この“弁”が加齢や石灰化などによって動きが悪くなり、閉じたり開いたりが中途半端にしか行われなくなってしまうと、血液を送り出す際に弁が完全に開かなくなり血流が速くなって雑音が発生する。この雑音が健康診断で指摘される訳だ。
この弁の面積、性別や体格などによって個人差はあるらしいが、日本人の男性だと平均して3.0〜4.0㎠だという。凡そ10円玉(直径2.35cm、面積4.34㎠)ほどの大きさだ。『これが1㎠を下回ると治療の対象となるのだが、貴方の弁は0.89㎠しかありません』と、手術を決めた際の先生が驚きの検査結果を教えてくれた。自覚症状が無いのにも驚いておられたが、もう治療を受ける、つまり手術を受けるしかない状態であることを告げられた。違う病院で直前まで受けていた検査では「中等症と重症の中間位」と言われてきただけに、ビックリだ。いずれにしても、もう様子を見る余裕はさしてないらしい。手術を受けることに決め、手術方法としては、孫と一緒に酒を飲める年齢(凡そ90歳)まで弁が持ってくれる可能性が高い、開胸による生体弁置換術、正式には「スーチャレス生体弁を使用した大動脈弁置換術」で受けることになった。
そして7月25日、いよいよ入院だ。入院と共に、手術に向けての具体的な準備が始まった。特に患者にとっても病院にとっても重要なのが、「インフォームドコンセント」だ。聞き慣れない人いるかもしれないが、生命保険の契約時に、「保険金が支払われない事態など保険契約者にとって不利益になる様な重要事項の説明を受けました」という書類にサインすると思うが、要するにあの一連の行為のことだ。もっと簡単に言えば、「内容とリスクの説明」である。その「インフォームドコンセント」が、今回の小生の手術でも実施された。大元の病気である「大動脈弁狭窄症」を治療するために、全身麻酔、開胸、弁の置換手術など、大きなリスクを伴う治療を受けることになるからだ。今回丁寧な「インフォームドコンセント」を受けたが、特に開胸による弁の置換術について概要を述べてみたい。
それによると、開胸による通常の心臓手術に伴うリスクとしては、@輸血を必要とする出血、A糖尿病や腎不全の人などは感染症の危険性が増す、B一般的に1%の頻度で術後脳梗塞や脳出血を起こす可能性がある、C腎臓や肝臓などの機能悪化、などがあるという。小生については、これらのリスクは何れも回避できたらしい。
次に、通常の大動脈弁置換術については、JAPAN Score(日本心臓血管外科学会データ)の値を示しながら、㋐2.2%の死亡率、㋑死亡と主要合併症の発症率を合わせると11.0%、㋒再開胸止血を必要とする場合が4.1%、㋓脳卒中の発症率が1.8%などに加え、㋔1週間以上のICU滞在率が3.9%ある、と説明してくれた。小生はICUに8日滞在したことになり、最後の㋔が該当したことになるが、そんなもんだろうなと思っている。
更に、欧州26施設での実施データを基に、「スーチャレス生体弁を使用した大動脈弁置換術」によるリスクに対しても、Ⓐ留置不成功が4.8%、Ⓑ重大な弁周囲の逆流が0.2%、©再手術が2.3%、Ⓓ置換した弁による電気信号の伝導障害が5.4%の確率で発生して、ⒺⒹのうちの4.3%にペースメーカを植え込む必要が生じる、との説明があった。この中で、どうやらⒺⒹが小生に該当してしまったらしい。ただ、細かな数値はさて置いてペースメーカを植え込む必要性が生じることは、頭の片隅に残っていた為、植え込むことを告げられた時もさして驚きはなかった。
それよりも、「インフォームドコンセント」の重要性を再認識した次第である。そういう点では、何かにつけ丁寧な説明をしてくれる小生の担当医師団は、その重要性を十分認識し、患者の不安を少しでも和らげようと努めているのが良く分かる。お蔭で、孫と美味しい酒が飲めそうだ。
【文責:知取気亭主人】
クワイ
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