いさぼうネット
賛助会員一覧
こんにちはゲストさん

登録情報変更(パスワード再発行)

  • rss配信いさぼうネット更新情報はこちら
知取気亭主人の四方山話
 

『プロフェッショナル』

 

2024年8月28日

20年ほど前に放送していたNHKのテレビ番組に、『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』というのがあった。日本の高度成長期に様々な困難に立ち向かい、プロジェクトを成功裏に収めた技術者たちの姿を描いた、ドキュメンタリー番組である。困難に挑戦する技術者たちの姿が眩しく、そして格好良くて、好んで見ていた。中島みゆきのテーマソング『地上の星』の曲も詩も、番組の内容と良くマッチしていて、気に入っていた。このテーマソングが聞こえると、何をさて置いてもテレビの前に陣取り、食い入るように見ていたものだった。

その番組も終わり、もうすっかり忘れかけていたところ、今年の4月から『新・プロジェクトX〜挑戦者たち〜』という新たな番組がスタートした、と知った。勿論、今回の番組の主人公も、幾多の困難を乗り越え目的を遂げようとするその道のプロフェッショナルたちである。いつの時代も、どんなに経験豊かなプロフェッショナルたちでも、新たな挑戦には乗り越えなければならない困難が待ち受けていて、その困難を乗り越えるための苦悩や苦労を知ると、人々は自然と胸を打たれ熱くなる。それは、身近にいる市井のプロフェッショナルに対しても同じ事が言える。テレビなどでは取り上げられない多くの市井の人々にもその道のプロフェッショナルはあまたいて、人知れず苦悩や苦労を乗り越えていることだと思う。そして、そうした人たちにも語れるほどの物語がある。

今回は、大動脈弁狭窄症の手術(大動脈弁置換術)を受けてひと月ほど入院した時に大変お世話になった、病院に勤めるプロフェッショナルたちの話をしたい。ある意味においては比較的身近な人々であり、他方人の命の命運を握るという点においては特殊で、担当する患者の具合によっては日々の緊張感が半端ない職業の人たちだ。そうした緊張感は慣れによって多少は緩和される様になるのだろうが、そうかと言って、慣れからくる“うっかりミス”はほぼ許されない職場でもある。

全国の病院で発生した過去のミスを教訓に、“うっかりミス”を発生させない工夫を、どこの病院でもしてきているのだと思う。しかし穿った見方をすると、致命的なミスには至っていないだけで、恐らくゼロにはなっていないものと思う。それは我々が所属する建設関連業でも同じで、いまだにミスは根絶されていない。毎年のように、どこかでミスが起き、会計検査院にその瑕疵を指摘されている。どの業界でも、ミスは無いに越したことはない。でも、なかなかゼロにはならない。しかしそれでも、病院の場合は、人の命と直結する場合が多いだけに、許されるミスの許容範囲は極端に狭いと思う。

そうした緊張感ある職場、中でも集中治療室(ICU:Intensive Care Unit)に一週間お世話になり、命と向き合う真剣勝負の現場を垣間見る事が出来た。とても貴重な体験だった。そして、スタッフの皆さんの、うっかりミスを防ごうとする工夫と連携の良さに感心するとともに、後輩を育てようとする機運に満ちた風通しの良い組織にも感心した。人の命を守るという一丁目一番地が明確であるだけに、目標がはっきりしていて、小生のような患者が安心して身を委ねることができたのは、何よりだった。

朝から手術を受け、ICUのベッドで麻酔から目が覚めたのは、午後の3時頃だっただろうか。ボーっとした頭で体の周りを見渡すと、口、胸、腹、両腕、首から太さも色も様々な管が出ていて、色々な装置と繋がっている。どうやら、体はまだ自由に動かせそうもない。麻酔の影響も残っている様だ。ただそのためなのだろう、夢か現(うつつ)か判然としない。そこで、管が付いたままの両腕をゆっくりと上に上げ、空中で力を入れずとグー・パーを繰り返してみた。有難いことに、意志通り動く。そして続いて、何度か両腕をゆっくりと持ち上げる動作を繰り返してみた。これも痛みもなく動く。声には出せないけれど、ヤッターの気分だ。7月29日のことである。

と、ここまでは自分の意思で動作確認をしたのだが、それから一般病棟へ移るまでの7日間は、ほぼ自分の意思とは関係なく、医療スタッフからお世話されるままの状態が続いた。体に繋がれた装置の値が良くなった、と言われ少しずつ管が外れていく。しかし、24時間体制で見守られている身、スタッフが入れ替わる度に、全ての装置の確認&引継ぎが行われる。その引継ぎが実にスマートだ。ミスが無いよう3人で立ち会い、装置と書類を見ながら声に出し、確実にチェックをしていく。3人、そして声に出すというのが味噌で、これなら引継ぎにおけるミスは起こり難いだろうな、といたく感心した次第である。

また、スタッフの中にはまだ慣れていないなと思われる若い人もいて、そうした若いスタッフには、ベテランのスタッフが丁寧に教えている。殆ど仕切りがないだけに、そうした様子は手に取るように分かる。しかも教え方が高圧的でなく、嫌味もない。つくづく、良い組織だなあと思う。いち入院患者の一方的な見方なのかもしれないが、風通しもすこぶる良さそうだ。とは言え、小生には見えていない課題もきっとあるに違いない。そうした課題はこれから解決していただくとして、この雰囲気だけは、この先も維持し続けて欲しいものである。

さて、小生が寝ていたベッドの横に、ICUをもじった標語が貼られていた。そこに書かれていたのは、これまで述べてきた内容について、「だからか!」と納得させる素敵な標語だった。勝手に引用したことお許し願いたいが、その標語を紹介して終わりとする。
 I:愛情いっぱいの  C:ケアを  Y:あなた(you)に届けます


【文責:知取気亭主人】


ほおずき(鬼灯)
ほおずき(鬼灯)

Copyright(C) 2002- ISABOU.NET All rights reserved.