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知取気亭主人の四方山話
 

『迷走台風』

 

2024年9月4日

これほど迷走した台風が、これまであっただろうか。台風10号のことだ。この台風、国際機関「台風委員会」の加盟国などが提案した名称では、「サンサン(Shanshan/珊珊)」と命名されているらしい。この名前は、香港が提案した名称で、少女の名前が由来だという。“少女の心は移ろいやすい”ということでもないだろうが、8月21日にフィリピンの遥か東の海上で発生して以来、こっちに来ると思えばあっちに、あっちに行ってそのまま過ぎ去ってくれるのかと思っていると、またこっちに戻って来ると言った具合で、毎日毎日予想コースをチェックしていなければならないお騒がせな台風だった。

9月1日には熱帯低気圧にまで衰えたが、紀伊半島近くの洋上でそれまでの東に向かっていたコースから突然鋭角に向きを変えて北上し、驚かせている。今もその影響下にある地方もあるが、先週には台風から遠く離れていた東北や北海道でも大荒れの天気に見舞われた。その影響で、飛行機や電車などの交通機関は乱れに乱れ、日本列島全体が迷走台風に翻弄された一週間だった。

とにかく、進路が読めない台風だった。発生当初に予想されていた“真っすぐ北上して日本の東海地方に上陸”のコースを大きく外れ、先々週の間は、九州南部の方向に向きを変え西向きに進んで行った。そして、先週の週明けには奄美大島や屋久島などに最接近し、勢力もグングン発達して(28日水曜日の12時で935hPa)非常に強い台風になり、平均風速25m以上の暴風域は九州の半分を覆いつくすほど、また平均風速15m以上の強風域となると九州と四国、そして中国地方をもすっぽり覆うほどの広域だった。当然、これらの地域では雨も風も強烈だった。またこの台風に引っ張られる形で、雨雲が遠く離れた東海地方や東北地方に間断なく押し寄せ、線状降水帯を発生させて猛烈な雨を降らし、各地で被害をもたらした。台風から遠く離れているからといって全く気が抜けない日本列島だった。

また、絶妙な(?)気圧配置の影響らしいのだが、移動スピードが一向に上がらず、鹿児島県の薩摩川内市付近に上陸した後、九州をノロノロと3日間も掛けて縦断して行った。その後どのコースを辿るのか日本中が注目していたのだが、テレビで報じられていた台風情報では、九州を過ぎ近畿辺りまでくると、突然予報円が巨大化して、1日前の予報円を包含してしまう様な、初めて見る予報が示されていた。最近は天気予報の確率が随分と上がって的中するようになったと思っていたのに、気象庁も民間の気象予報会社も、ほぼ『予測できません!』と敗北宣言しているようなものだった。

進路予報を難しくしていたのは、台風を挟む形で両側に張り出していた、東側の太平洋高気圧と西側のチベット高気圧のせいで、その位置関係が絶妙だったらしい。元々台風自身には移動するエネルギーがなくて、移動する際の推力となるのは、周辺にある高気圧の時計回りの渦(台風は反時計回り)や西から東に吹いている偏西風(ジェット気流)だ。ところが今回は、台風周辺に高気圧が二つ張り出していたのだが、いつもなら推力となる東側(太平洋側)高気圧が離れすぎていて渦に乗れなかったのと、西側に張り出していたチベット高気圧が近くて縁の渦が台風を押し下げる方向に働いていたせいだという。また、通常大きな推進力となる日本付近に吹いている偏西風が、高緯度方向にズレてしまっている影響もあるという。これも地球温暖化の影響らしい。

そうした特殊な気圧配置が、進路予報を難しくしていたらしい。テレビの気象コーナーでは、日本の気象庁に加えヨーロッパ中期予報センターとアメリカ海洋大気庁の予想モデルも時々報じられていたが、どれもスッキリとしたコースではなかった。そして、予報に少しずつずれがあった。これまでのデータから得られた最新の理論式とスーパーコンピューターを駆使しても、地球規模の気象現象はまだまだ不確かな部分が多いとみえる。こうした事態は益々増えるのではないかと思っていて、近年の地球温暖化による急速な気象の変化によって、今後も過去の事例には当てはまらない気象現象が多発する可能性は極めて高い。

我々人間の欲望がこうした事を増長させていることは疑いの余地がないところだが、さりとて今の生活を捨てて50年前、100年前の生活に戻ります、という訳にもいかない。ではどうするか。それには、我々にできる温暖化防止対策を愚直に一つ一つやっていくしかない。そのひとつとして、他の先進諸国に比べて遅れていると言われる、戸建て住宅の高断熱化と太陽光発電の設置を義務付けることなど、有効だと思うのだが如何だろう。家庭用蓄電池の設置を義務付けるのも良い。何しろ、日本政府は2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指しているのだが、果たしてその進捗状況は如何なものだろう。穿った見方かもしれないが、甚だ疑問が残る。

RICOHのサイト(https://blogs.ricoh.co.jp/RISB/environment/post_839.html)に、リコー経済社会研究所の『住宅性能は先進国で最低レベル 遅れている日本の省エネ対策』と題する一文がある。それによると、日本の現行基準をドイツと比べると相当遅れている上に義務化もされていない、と断じている。今回の迷走台風、我々の欲望のなすがままの生活が一因だとすると、熱中症対策にもなる住宅の省エネ化を義務化する、そんな政策が取り急ぎ必要だと思うのだが、皆さんどう思います?


【文責:知取気亭主人】


唐辛子
唐辛子

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