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知取気亭主人の四方山話
 

『氏素性』

 

2024年9月18日

今、政治の世界がかまびすしい。テレビの報道番組では、他にニュースは無いのかと思える程、齋藤元彦兵庫県知事のパワハラ問題を、多士済々のコメンテーターを登場させて連日報道している。これだけ続くと、兵庫県民には申し訳ないが、少々食傷気味になってしまう。また国政では、自由民主党の総裁選挙(9月27日に投開票)と立憲民主党の代表選挙(9月23日に投開票)が間近に迫っていて、報道の目玉となっている。先週に入ると、立候補者が勢揃いしたこともあり政策や主張も報道されていて、賑やかさを増している。

他方海外の政治に目を転じても、11月に行われる米国大統領選挙(投票日は11月15日)の行方が、ここ日本でも頻繁に報道されている。誰が大統領になるかは、世界の政治情勢や経済情勢に大きな影響を与えるだけに、恐らく日本以外の国でも注目の的だ。何かと話題の絶えない共和党のトランプ前大統領と女性初の大統領を目指す民主党のハリス副大統領の一騎打ちは、各局とも最重要ニュースのひとつとして捉えている様だ。10日夜に行われた前哨戦のテレビ討論会の様子は、どちらが優勢だったかも含め詳しく報じられていた。

これら政治の話題は、小生にとっていずれも権利を行使できる立場にない話ばかりである。しかし、間接的あるいは将来的に影響を受ける可能性があるものも多く、“知らぬ存ぜぬ”を決め込みそっぽを向いてはいられない。中でも国政に係わる話題については、関心を持って注視していく必要がある。各候補者が掲げた政策や主張は、どれも我々の国民生活にとって重要な課題ばかりだからだ。そうした数ある課題の中で気になったのが、「選択的夫婦別姓問題」である。何故気になったかと言えば、この問題に関して、「多くの国民が名字を名乗れたのは明治以降で、家族制度が壊れると言っても、それ以降、たかだか100年ちょっとしか経っていないのだから…」との意見をネットで見たのだが、「以前読んだ本にも果たしてそう書いてあったかな?」との疑問を持ったからだ。

そこで、我が家の本棚から、武光誠著『名字と日本人 先祖からのメッセージ』(文芸春秋 1998)を探し出し、読み返してみた。読み返して、あまりに忘れていることが多くビックリしてしまったのだが、名字の成り立ちに関する記述内容を何となく思い出した。本話では同問題について私見を簡単に述べるつもりであるが、それはそれとして、「世界でも一二を争う名字の多さは、どのような思考からそうなったのか?」などの側面から名字の歴史を考えると、日本人の柔軟な考え方やそれとは真逆のこだわりが見えてきて面白い。そうした面白さは実際手に取って読むのが一番だが、自由民主党総裁選挙の争点の一つになるほど重大だと捉えられている「名字」について書かれた当該本を、皆さんに紹介したい。

先に「世界でも一二を争う名字の多さ云々」と書いたが、本書によれば、日本には29万余りの名字があるという。5千年とも言われる悠久の歴史を誇るお隣中国の漢民族の名字は、僅か約5600なのだそうだ(https://tutty527.hatenablog.com/entry/2021/08/02/205902)。韓国はもっと少ないと言われている(本書によると249)。それに比べると、日本のあまりの多さに驚かされる。本書では、こうした多種多様な名字が伝わったのは先祖からのメッセージを重んじてきたからだとしつつも、曖昧な部分が多く、家の由来を表すとも表さないとも言える、と冒頭に記している。これが著者の結論だとも言えそうだ。読んだ小生の感想も同じだ。恐らく、氏素性(名字)を重んじてそれを守っていこうとすれば、これほどまでに数は増えなかったのだろうと思うからだ。

「名字」に関連する表記として、「名字」以外に、「氏」、「姓」、「苗字」がある。これらは、歴史的に以下の様に区別できるのだという。

 氏 :古代の支配層を構成していた豪族を指していた(藤原氏、大伴氏など)
   姓 :天皇の支配を受ける豪族など全ての者が名のる呼称とされた(山部など庶民も含む)
  名字:平安時代末に武士の間で生まれた通称(北条時政は公式行事では平朝臣(たいらのあそん)
     時政と名乗っていた。“平朝臣”が姓で、“北条”が名字)
  苗字:名字の「名」は領地を表していたのが(名主はここからきているのかも)、中世になって時に出
     自を表す「苗字」と書かれるようになった

この様に、一口に名字と言っても詳しく掘り下げると、色々な歴史やいわれがある。ところが、江戸時代に入るとこうした由緒のある名字を勝手に名のる農民や町民が現れ、武士にも適当に名字を改めるものまで出て来てしまったのだという。そして明治の「苗字必称義務令」で名字の在り方は出鱈目になってしまったのだと嘆く。その結果として、全てではないだろうが、「名字と家の由来が結びつかなくなった」とも指摘している。要するに、由緒正しいものを除けば、今の名字は氏素性がハッキリしないのが多い、ということなのだろう。

だとすると、「選択的夫婦別姓」を頑なに反対することもない様な気がする。加えて、少子化によって一人っ子が増えていて、その子が女性で嫁いでしまうと家が途絶えてしまう場合も出てくる訳で、それを防ぐにも選択的夫婦別姓は有効だと思う。皆さんはどう思います?なお、本書にはもっと興味深い情報もたくさん網羅されている。是非一読を!


【文責:知取気亭主人】


先祖からのメッセージ 名字と日本人先祖からのメッセージ 名字と日本人
名字と日本人先祖からのメッセージ

【著者】  武光 誠
【出版社】 文藝春秋
【発行年月】 1998/11/20
【ISBN】 9784166600113
【頁】 206ページ
【定価】 726円(税込)

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