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知取気亭主人の四方山話
 

『まさか』

 

2024年9月25日

日本語には「まさか」という言葉がある。思ってもみなかった事を経験したり、見たり聞いたりした時などに使われる。この「まさか」、平仮名表記しかないと思っていたのだが、漢字表記もあって「真逆」と書くらしい。尤も、「現代国語表記辞典」(三省堂 2003)によると、旧表記でも仮名書きが一般的だとあるから、小生の様に知らなかったとしても不思議ではない。でもこうやって漢字表記を見ると、平仮名表記に比べると何となく言いたいことが伝わってくるから、元々はこう書いていたんだろうなと思う。

さてその意味だが、「新村出編 広辞苑 第四版」(岩波書店 1991)によると、名詞として@「目前の時、まのあたり、目のまえ」、A「物事が目の前に迫っていること」などの意味があり、副詞としてB「よもや、いくらなんでも」やC「まさしく、本当に、はっきりと」の意味があると説明されている。そして、Bには「下に打消・反語などの語を伴って予期しない仮定を表す」の説明が書き添えられていて、漢字表記は、この意味を端的に言い表しているのだと思う。言い換えれば、「想定外」ということになるのだろうか。

このBの用法例としては、「まさかの大活躍…」の様に使われる場合がある。そして、それこそそれとは真逆(まぎゃく)の使われ方をする場合もある。「まさかそんな悲劇が繰り返されるとは…」などだ。どちらも滅多にない事を指す。しかし、良いニュースは別にして、悪いニュースなどあまり聞きたくもないし、知りたくもない。そして、できれば口にしたくもない。ところが、そんな口にしたくもない言い方が、この3連休、ニュースを見ていた多くの皆さんの口から出たに違いない。9月20日から22日にかけて奥能登地方を襲った記録的豪雨による災害の事だ。元旦に発災した能登半島地震からやっと前に向いて歩み始めようかという矢先の、追い打ちをかける再びの自然災害だ。まさに「まさかそんな悲劇が繰り返されるとは…」と、二の句を告げないでいる。

台風14号が発生して暫くはその予報コースを気にしていたのだが、中国の上海付近に上陸するコースを辿ると知ったあたりから、関心が無くなっていた。20日(金)に上海付近に上陸した台風14号は、そのまま東北東のコースを辿り中国内陸部に向かって行くものと思っていた。ところが、突然真東に向きを変え、日本海に停滞していた秋雨前線に向かって進みだした。さして気にも留めていなかっただけに、次女に言われてビックリだ。その頃問題の秋雨前線は、能登半島上空から福島県辺りを通り、丁度日本列島を横断する形で停滞していた。この前線に温帯低気圧になった台風14号からの暖かく湿った空気が大量に供給され、大雨をもたらしたのだ。しかも、悪いことに奥能登地域には線状降水帯が発生して、未曽有の大雨となってしまった。

23日付の北陸中日新聞朝刊(以下、新聞)によれば、20日18時から22日16時までの降水量は、輪島市で498.5mm、珠洲市で394.0mmを記録したとある。これは、9月の平年値の2倍以上だという。その激しい豪雨の様子は、全国ニュースで頻繁に流されていたから皆さんご存知の事だと思う。輪島市内の様子を伝えようとしているのに、一時、テレビカメラに映し出されたのはレンズを流れる水ばかりで、周りの様子が全く捉えられないほど激しい降りの時もあった。

小河川の多い奥能登地方はこの記録的豪雨に耐え切れず殆どの川(県によると23河川)が氾濫し、地震の揺れで弛んでいた斜面は至る所で崩れた。若い頃から頻繁に通い、見慣れていた道路も川も街並みも一変した。トンネルが開通した当時から良く通っていた、旧輪島市と旧門前町を結ぶ、国道249号線の「中屋トンネル」の坑口の様子が、変わり果てた姿で映し出されている。坑口の下半分ほどが埋まっていて、土砂崩れの激しさを物語っている。地震によって被災した「中屋トンネル」はまだ災害復旧の最中だったのだが、この豪雨災害により、災害復旧工事に携わっていた方が被災されたという。痛ましい。

県の発表によれば、23日現在、死者は7人、行方不明と安否不明者は計6人だという。また、珠洲市、輪島市、能登町の3市町で、56の集落が孤立状態になっていて、停電は3市町に穴水町を加えて約3,700戸、また断水は3市町で5,060戸だという。入居して間もない仮設住宅でも、輪島市と珠洲市の計9カ所で床上浸水した、と報じられている。このうち4カ所は、ハザードマップの洪水想定浸水区域に含まれていたらしい。平地が限られているこの地域ではそうした危険な区域でも建てるしかない、ということなのだろう。

インタビューを受けていた被災者の一人は、『地震よりも酷い』と答えていたが、まさか1年も経たないうちに2回も大きな災害に遭うなんて思ってもみなかっただろう。その心中や察するに余りある。また、今回も床上浸水の被害を受けた食堂の店主が、「被災が続き、やり直す元気はもうない!」と答えている24日付の新聞記事を読んだが、胸が締め付けられる。それ程今回の豪雨災害は、地震で痛めつけられていた奥能登地方に、“これでもか”とばかりに追い打ちをかけることになってしまった。神も仏もないのだろうか?

最後になりますが、亡くなられた方々に哀悼の意を捧げご遺族の皆様にお悔やみ申し上げますとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。


【文責:知取気亭主人】


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