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知取気亭主人の四方山話
 

『本屋さんが消えていく』

 

2024年10月23日

9月の中旬、家から車で30分ほどの距離にあるショッピングモール内の本屋さんに行ってきた。いや、正確に言えば、次女に連れて行ってもらった、と言うべきだろう。大動脈弁の置換手術を受けた際、胸骨を切り開いているため、完全にくっ付くまで車の運転を止められているからだ。3ヶ月ほどはダメだと言われている。だからいまだにいい御身分で、家の近くの散歩以外は、殆ど奥さんに送り迎えをしてもらっている。入院以来奥さんには世話になりっぱなしで、以前にも増して頭が上がらない。と同時に、何とも有難い話である。その送り迎えを、今回は次女にしてもらった、という訳である。

少し横道にそれたが、本屋さんに来たのは、ある本を買いたかったからだ。半年ほど前から中学2年の孫娘への誕生日プレゼント、と決めていた本である。ひと月ほど前にも次女の送迎でこの本屋さんにぶらっと寄っていて、目的の本が置いてあることは一応確認してあった。ただ、その時は別の店が目当てだったので、「結構人気らしいから、どこの本屋にも置いてあるだろう」との思い込みもあり、買わずに帰って来た。ところが、いよいよ孫娘の誕生日が近づいて、近隣の本屋さん2軒で探したのだが、どちらにも置いてない。仕方なく、車を走らせた、という次第である。売れ残っているのを期待してのチャレンジだ。

読み通り、残っていた。お目当ての本を持って精算カウンターに行き、プレゼント用だと言って、簡単な包装をお願いした。待っている間に何気なくカウンター後方の柱に掲げられた店の名前を見ると、見覚えのある懐かしい名前が書いてある。小生が大学生の頃に馴染みだった本屋さんだ。当時は、金沢の中心街(香林坊)に店があり、地下には五木寛之氏が良く通っていたという喫茶店が隣接していて、貧乏学生の間でも結構人気があった。そんな思い出話を店員にすると、『今では中心街の店は無くなり、市内に2店舗だけになった』と寂しそうに言う。学生時代から既に半世紀以上経っていることを考えると、そうした変遷も仕方ないことなのかもしれない。しかし、思わぬところで時の移ろいを感じさせられ、一抹の寂しささえ覚えてしまった。それにしても、本屋さん自体が次々と消えていくこの現状を何とかできないものだろうか。

全国的にもこの減少傾向は顕著で、東京新聞Web版によれば、日本出版インフラセンターの情報として、今年3月時点の全国の書店数は1万918店で10年前の約3分の2に減ったという(https://www.tokyo-np.co.jp/article/322280)。金沢も例に漏れずで、最盛期(今から20年ほど前か)には、中心街の片町・香林坊界隈に、古本屋も含め6軒の本屋さんがあった。それが今では、『ぐりとぐら』などの絵本や『魔女の宅急便』などの童話を刊行し、子育て世代にファンの多かった「福音館書店」の創業店も無くなり(本社は東京に移転している)、小生の知る限り僅か2軒にまで減ってしまっている。活字離れが激しいと言われて久しいが、電子媒体での読書が苦手な当方にとって、手に取って内容を確認できる本屋さんが減ってしまうのは、何とも残念でならない。

活字離れは、若者の間で顕著だと言われている。我が家の界隈でもそれをヒシヒシと感じている。歩いて行ける距離に金沢大学があって、付近一帯には学生が住むアパートも多い。また、金沢美術工芸大学や北陸大学なども近く、我が家界隈は、学生の街と言ってもいいぐらいだ。恐らく、教職員も多いのだと思う。とにかく、紙媒体の本を人生で一番読むであろう人達が集う地域、と言っても過言ではないと思っている。そんな地域に、30年程前小規模ながらショッピングセンターができた。中には小さな本屋さんも入っている。その後、山側環状と呼ばれる幹線道路が開通すると、ショッピングセンター周辺が賑わい始め、比較的大きな本屋さんも出来た。古本屋もやって来た。その後、車で15分ほどの場所に、それなりに品揃えが豊富な本屋さんもオープンした。こうして、我が家界隈には、一番多い時で4軒の本屋があった。

ところが、辺りに住宅も増え、賑わいが増すのと逆行するかの様に、1軒減り、2軒減りして、今では半分の2軒を残すのみとなってしまった。しかも、どちらも店頭に並ぶ本が減って来ている。商圏の人口は増えているのに本のみの販売で商売を続けるのは難しい、ということなのだろう。活字離れが予想以上に進んでいる、ということの証だ。加えて、IT化が進みネット環境が整った今、店頭で本を手に取ることもなく、楽天やアマゾンなどの通販で購入する人が多いのかもしれない。とは言っても、これまでの経験からすると、本の内容を確認しないで通販で購入した時の満足度は7割ほどで、買わなきゃよかったと思うことも結構ある。やはり、事前に内容を確認して購入するのに越したことはない。そうすると、やっぱり近くに本屋さんが欲しい。しかもそこそこ品揃えのある店が。

散歩がてらに行ける本屋さんがショッピングセンター内の1軒だけとなってしまった今、最後の砦とばかりに、ささやかな抵抗活動をしている。なるべくその本屋さんで買うことにしているのだ。店頭に無ければ取り寄せてもらっている。他の店で内容を確認して注文は当該のお店で、なんてこともやっている。つい先日も、注文していた2冊が届いたと連絡を貰い、受取に行ってきた。そんな事でもしないと、いずれ撤退、なんてことも起こりそうで心配だからだ。あと何年続けられるか分からないが、老人のささやかな抵抗である。


【文責:知取気亭主人】


コスモス
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