2024年10月30日
9月3日、環境省から、奄美大島における特定外来生物フイリマングース(以下、マングース)が根絶した、との宣言が出された(https://www.env.go.jp/press/press_03661.html)。環境省の報道発表資料によれば、奄美大島のマングースは、先に導入されていた沖縄島から、1979年頃に30頭ほどが持ち込まれたらしい。沖縄島も含め、噛まれた人が命を落とすこともあったハブを退治する目的で、本来日本には生息していなかったマングースを導入したものだと聞く。沖縄観光の目玉のひとつにハブとマングースの闘いを見せるのがあったが、見せられた観光客は、その通りの事が実際行われているものだと信じていた。
ところが、ハブが夜行性なのに対しマングースは昼行性ということもあって、期待したほどの成果が上がらなかった、と報じられている。それどころか、マングースは雑食性で、国の特別天然記念物に指定されているアマミノクロウサギやケナガネズミといった希少な島固有の動物をも捕食していたという。厄介なハブ対策の切り札として期待されて連れてこられたのに、一転して今度は自分が厄介者扱いにされてしまうという数奇な運命を辿って来たのだ。マングース自身の意思で奄美大島に渡って来た訳ではないのに、である。人間にとって都合の良い身勝手な扱いに翻弄された“生物の代表選手”になってしまった感がある。
この様に人間の身勝手な行いに翻弄される生物は、まき散らされてきた化学物質や地球温暖化などによる環境変化も手伝って、日本だけでもかなりの数に上り、世界を見渡せば枚挙にいとまがない。日本に関して見れば、絶滅してしまった二ホンカワウソ、同じく絶滅させてしまったのに熊やイノシシなどの獣害対策として復活を望む声も聞こえるニホンオオカミ、乱獲のため一旦は絶滅した(2003年)ものの佐渡島を中心に必死で繁殖を試みているトキなどが代表選手で、小さな動植物を含めた絶滅危惧種を数えればキリがない。良く耳にする沖縄のヤンバルクイナや二ホンウナギなどもその代表例だ。
狩猟など乱獲による減少も、人間の飽くなき欲望のなせる業だと言える。今「いしかわ動物園」でも繁殖を試みているトキ、国の特別天然記念物であり国際保護鳥にも指定されているが、乱獲により純粋な国内産は絶滅してしまったという。しかし、中国から贈呈された“つがい”から運良く子が生まれ、やっと人工増殖に成功したのだという。そのお陰で、ゆっくりだがトキは増えつつある。10月25日の北陸中日新聞朝刊23面に、環境省の発表として、「8年ぶりに佐渡島で生まれた16羽を中国に返還する」との記事があったが、そうした経緯があったからだ。こういう交流は大いにやってもらいたいものである。
ところでこのトキ、江戸時代以前は日本全国でその美しい姿を見られたらしい。ところが、明治以降の乱獲によって激減し、先にも書いた様に国内産はとうとう絶滅してしまった。トキと言えば新潟県の佐渡島が余りにも有名だが、ここ石川県も係わりが深く、昭和45(1970)年に穴水町で本州最後の1羽が保護され、佐渡島に移送されている。小生が石川県に来た翌年だ。環境省によれば、2024年2月現在、野生下で532羽が生息しているらしいが、「Nipponia nippon(ニッポニア・ニッポン)」との学名を付けられたその姿を、再び全国で見られる日は来るのだろうか。生きている間に一度は見てみたいものである。
本州最後のトキが保護されたのが、先にも書いた様に1970年、今から50年ほど前だ。この50年間で、人間の生活は随分と便利になった、世界の人口も増えた。1970年にはおおよそ40億人を下回っていたのが、今は80億人を超えているらしい。この50年間でほぼ倍に増えた勘定だ(https://www.stat.go.jp/data/sekai/pdf/2024al.pdf#page=15)。地球の大きさは変わらないのに、生物界の頂点に君臨している人間の数は倍になってしまった。欲望のなすままに生きて行けば、地球に与える負荷が甚大なものになってしまうことは、今なら容易に想像がつく。しかし、早くからそうした危惧を訴え警告していた人がいたにもかかわらず、大多数の人はその警告を我が事として真剣に捉えなかった。恥ずかしながら小生もその一人だ。その結果は皆さんご存知の通りだ。そして、先進技術を使いこなせない生物たちが、真っ先に影響を受けることになり、一部は既に絶滅してしまっている。
10月11日の北陸中日新聞朝刊3面に、世界自然保護基金(WWF)が発表した報告書の概要が紹介されていた。「2020年の生物多様性の豊かさを示す指標が、自然環境の損失や気候変動などにより、1970年に比べて73%も低下した」というものだ。1/3以下になってしまった、というのだから酷い。生物多様性の豊かさとは生態系の豊かさとも言えるもので、地域によって大きな差がある。中南米やアフリカ、そして東南アジアなどの低下率が高い、とある。発展途上にある国々における近年の急激な開発は生態系の豊かさを犠牲にしていることが、容易に想像がつく。そこには先進国の資本も大きく係わっていることだろう。
いずれにしても、人間の身勝手な営みによって翻弄されるのは、弱い立場の生物たちである。ただ最近は、その生物たちの行く末は案外人間の行く末をも暗示している、そう思えて仕方がない。「人間は自然に対してもっと謙虚でなければいけない、そうしなければ必ずしっぺ返しが来る」、その言葉は真実だなぁ、と思う昨今である。
【文責:知取気亭主人】
セイタカアワダチソウ(外来植物で厄介者扱いされている)
|
|