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知取気亭主人の四方山話
 

『嫌われ者』

 

2024年11月13日

「ヘクサンボ」、「ヘコキムシ」、「ヘッピリムシ」等々、聞いただけで鼻をつまみたくなるような名前の主がいる。言わずと知れたカメムシのことである。地方によって様々な呼び方があるようだが、ちなみに英語では、「Stink bug(臭い虫)」と言うらしい。そのまんまのネーミングで笑えてしまう。あの強烈な臭いへの嫌悪感は、どうやら万国共通らしい。さもありなんだ。あの臭いが好き、という人は余程のモノ好きだ。カメムシの研究者、しかもあの臭いガスの研究者ならあの臭いの魅力を熱く語る人もいるかもしれないが…、いやいや余り想像しないでおこう。

さてこのカメムシ、米や果物など農産物の樹液や果汁を吸い、時には収穫に甚大な被害を与えてしまう、農家にとって頭の痛い厄介な害虫である。その上、危険を察知するとまき散らすその強烈な悪臭を武器として使う、なりは小さいが結構なつわものである。そして、その悪臭故に、怖さは感じないものの圧倒的な“嫌われ者”だ。恐らく昆虫好きの子供でも、その独特の模様に惹かれる子はいても、カブトムシやクワガタと同様に“家で飼育して見よう”と試みる子はいないと思う。十中八九、親も許可しないだろう。図鑑によれば、中にはとてもカラフルで独特の模様をしたカメムシもいる。臭いの印象も強烈だが、図鑑に載っているそれらの色も模様もなかなか強烈だ。しかしそれらとは反対に見た目は地味であっても、カラフルカメムシ同様、臭いはどれも強烈だ。ネット情報ではあるが、自らの臭いで死ぬのもいるというほどだから、我々素人は姿を見ただけでギョッとしてしまう。

その嫌われ者のカメムシが今年大発生していて、「農作物に甚大な被害を与えている」と報じられている。小生が生まれ育った静岡県西部の遠州地方は甘柿として知られる「次郎柿」の産地で、周智郡森町には「次郎柿」の名前の由来となった原木があって、柿農家も多い。その森町で農家を営む従兄によると、今年はカメムシが大量発生していて、多くの柿の実が果汁を吸われ、収穫する前に殆ど落ちてしまったり、落ちなくても商品として出荷できるような品質でなくなったりしているという。大不作だ、と嘆いている。たくさん実は付けたらしいが、収穫・出荷できたのはほんの僅かで、あまり実のつかない裏年なんてものではないらしい。

その様子を聞くと、どうやら今年は大好きな次郎柿の味を味わえそうもない。温暖化の影響だとも聞こえて来るが、カメムシの天敵である寄生蜂やカマキリ、クモ、小鳥などが減ってしまった影響もあるのだと思う。“気持ち悪いから”と言って滅多やたらにこれらの虫を駆除してしまうと、今年の様にしっぺ返しを食らうことになる。やっぱり、生物の多様性の中で我々人間も生きていることを、謙虚に自覚すべきだと思う。人間の手で崩された生物の多様性は、気が付いた時には手遅れ、ということが多い。しかも、「これって自然のしっぺ返し?」、と“思うか思わないか”が大きな違いなのだが…。

そんな“臭いしっぺ返し”を、皆を代表して食らった家族がいる。長男家族だ。LINEで全く違う話をしていた時だ。中2の孫娘が、思い出した様にカメムシ騒動の話をし始めた。外に干してあった洗濯物を取り込んだら、何とカメムシが一杯くっ付いていたというのだ。後で調べてみたところ、「マルカメムシ」という種類だったらしい。我が家に来た時、『これだ!』と言って見つけたのが、巻末の写真に写っている可愛らしいカメムシだ。よく目にするカメムシよりもかなり小さい。体長は5mmほどしかない。長男家族が詳しく説明してくれたが、この小さな体を生かして、どこにでも身を潜めてしまうのだと言う。外に干していた洗濯物を取り込んで、衣類をたたもうとした時に気が付いたのだが、ギョッとするほどの数だったと顔をしかめて話す。

臭いが取れずに洗い直した衣類もあった、と悔しがっている。それでも、衣類に付いたカメムシはまだ良い方で、悪臭は諦めるとして、見つけやすいし駆除もそれほど苦労しなかっと言う。小生が新潟の温泉旅館で伝授された、ガムテープの粘着部分を表にして持ちこれに貼り付けて取る方法、言うなれば「蠅取り紙ならぬカメムシ取りガムテープ」を我が家の家族には伝授していて、その方法で楽に駆除できたらしい。ところが、苦労したのは、隠れているカメムシだ、と声を大にする。洗濯物を干すハンガーの取手やクリップの溝になったり空洞になったりしている部分など、5mmほどの体が入る隙間があればそこに入り込んでいるのがたくさんいた、というからビックリだ。この駆除には、細い棒を用意してガムテープを巻き付け(勿論粘着部を表にして)、これを隙間に突っ込んでは貼り付けて捨てる、これを何度も繰り返したと、思い出し笑いしながら話してくれた。

マルカメムシは、丁度今頃の季節に越冬場所を求めて分散し、天気が良くて洗濯物を外に干す時などに、洗濯物に止まったり開いている窓や隙間から室内に入り込んだりすることが多いのだという。その通りの状況だったらしい。彼らも生き残りを賭けて必死なのは分かるが、もう少し人里離れたところでやってくれるとありがたいのだが…。或いは、あの臭いをまき散らさないでくれたら…。それもどだい無理な話か!


【文責:知取気亭主人】


ガムテープに貼り付いているマルカメムシ
ガムテープに貼り付いているマルカメムシ

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