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2025年5月7日
個人情報がやかましく言われるようになってからというもの、周りに他人がいる中で、自分の名前を呼ばれることはめっきり減った。金融機関や市役所の窓口などでも、最近は受付番号で呼ばれることの方が圧倒的に多い。特殊な例としては、この四方山話(第446話『厄払い』2012.1.25)で紹介したように、『八方塞がりの方』などと祈祷の目的に応じた呼び方をする神社もある。神社はそのように、お参りする目的に応じた呼び方ができるため、敢えて個人名を呼ばなくても済むから個人情報対策としては楽だ。
ところが、病院はそうはいかない。神社と同じ様に『糖尿病の方』などと病名で呼ぼうものなら、私も私もと診察室に集まり、収拾がつかなくなる。したがって、特に掛かりつけ医などのこぢんまりとした医院では、『○○さま』とか『○○さん』とか、名字で呼ばれることが多い。ところが、掛かりつけ医から紹介状を持っていく地域の中核病院になると、患者数も多く、受付番号(以下、番号)で呼ばれることが殆どだ。つい先日、その中核病院の患者の呼び方に関連して、一瞬病気のことを忘れ、ホッコリすることがあった。今でも時々この話題を出して、家内とひと時の笑いを楽しんでいる。
先月、掛かりつけ医の紹介状を持って、中核病院の眼科に行ってきた。眼科がある2階には、他に内科や耳鼻科など複数の科があって、フロア全体では結構な数の患者が順番待ちをしている。病院だけあって、患者が多い割に静かだ。耳をダンボにしていると、あちらこちらから、番号を読み上げる声が聞こえる。それを聞いて、改めて自分の番号を確認した。四桁だ。「今呼ばれた番号からするとまだまだ先になりそうだな」と早々の受診を諦め、家から持参した本を読み始めた。
30分ほど経った頃だろうか、受診科ではないところから、番号を読み上げる通る声が聞こえてきた。しかし、声がした方を見たが、反応する人はいない。すると、暫く間をおいて、『お名前にて失礼します、○○さま、〇〇さま』と、驚きの名字を読み上げたのだ。しかも二度も。最近は、“さま”ではなく『〇〇さん』と呼び掛ける病院が増えてきているので、もしかしたら“さん”だったのかもしれない。しかし、申し訳ないがよく覚えていない。ただ、内容の核心には大きな影響が無いから、思い込んでいる“さま”で話を進める。
さて、いよいよ本題に入るが、『○○さま』と呼ばれたのは、何と『だいこくさま』だったのだ。どんな漢字を書くのかは定かでないが、何とも“めでたい名前”が呼び上げられ、思わず一人微笑んでしまった。どんな人だろうと見渡すが、誰も立たない。しかし、何となく所在なさげにしている人の多い待合室で、笑顔が増えた瞬間だ。
すると、ここから小生得意の妄想が始まった。「そう言えば、漫画家で麻雀好きのあの人は、病院では“えびすさま”と呼ばれるんだなぁ」、「名字で人を幸せな気分にさせるとは、ご先祖に感謝しなければ」などと、楽しいだけにもう止まらない。更に、暫く前に起きた、東京上野での事件で知るところとなった「宝島」という名字を思い出した。あの忌まわしい事件のことを抜きにすれば、子供でも喜びそうな目出度い名字だ。この様な夢のある言葉を病院で耳にすれば、誰しもオッと顔を上げるに違いない。
目出度い名字と言えば、「かみ」と呼ばせる名字もある筈だから、その人たちは、何と何と「かみさま」と呼ばれることになる。「待合室でそう呼ばれたら皆注目するだろうな」とか、「呼ぶ看護師も、診察する医師も、思わず拝んでしまうのではないか」などと突拍子もない考えが浮かんでくる。自然とにやけてしまう。そんな小生に気付いた人は、「気持ち悪い奴だな」と思ったに違いない。こうなると、手には持っているものの、もう本など余分な荷物でしかない。妄想は益々勢いを増す。
「かみ」で言えば、上と書いて「かみ」と読ませる場合もあるだろうが、「うえ」と読む名字もあるのではないか。そうなると必然的に呼ばれるのが、恐れ多くも「うえさま」だ。これも大勢の中で呼ばれたら、時代劇の中の主人公の様で、華やかな心持ちがして、何気なく胸を張りたくなってしまうのではなかろうか。「うえさま」があるなら「とのさま」、なんていうのもありそうだ。また、「わか」と読む名字もありそうだから、「わかさま」なんて呼ばれたらやっぱりうれしいだろうな、とニヤついてしまう。ただ、女性だったり、若様と呼ばれるには少々お歳を召していたりしたら、ちょっと気恥ずかしいかな、などといらぬお世話まで気を回してしまう。
そうした目出度い呼び名以外だと、病院だけに「ほとけさま」は呼びにくいだろうな、と心配してしまう。できれば受付番号で済む様にしてあげたいものだ。その他、「えんま」と読む名字の知り合いもいて、皆の前で「えんまさま」と呼ばれたらきっと良い気はしないだろうな、と思う。患者の命を脅かす病気が「えんまさま」との呼び声で逃げ去った、なんてことがあれば良いのだが…。と、ここまで妄想したところで、私の番になった。
なお、後日念のためと次女が調べてくれたところによると、拠り所とした『名字由来net』(https://myoji-yurai.net/)では文中に登場した全ての呼び方が可能だということが分かり、ホッとしている。「だいこくさま」、ネタをありがとう。
【文責:知取気亭主人】
水仙(綺麗だけど毒があるそうな)
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