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2025年10月29日
もう半世紀近くも前だが、『♪わたし祈ってます…♪』と何ともやるせない歌詞から始まるムード歌謡が流行っていたことがあった。今の若い人たちには、ムード歌謡と言ってもどんなリズムで雰囲気の歌だったのか、知らない人が多いと思う。今では、早いビートの楽曲に押され、音楽番組で放送される事など殆どない。それでも聴いてみたいという方は、ぜひネットで視聴していただきたい。なかなかムードのあるメロディーだ。当時は、結構な数のグループがこうしたムード歌謡を得意としていた。この楽曲は「敏いとうとハッピー&ブルー」というグループが歌っていて、ネオン街のカラオケスナックなどでよく歌われていた一曲だった、と記憶している。私もたまにだが、酔いに任せて歌ったことがある。
ところで、何もなくそんなやるせない楽曲を思い出したわけではない。最近、歌いだしの『♪わたし祈ってます…』をもじって、『わたし使われてます!』と愚痴りたくなるような心境に陥ることが増え、どういう訳だかあのメロディーが浮かんでくるのだ。そして、その度に“寄る年波”を実感させられている。高齢者のご同輩はどなたも、多かれ少なかれ似たような体験をしていることだと思う。そばで見ている家内も同じような経験が目立つようになり、思い出しては二人して憤慨したり笑い飛ばしたりしている。
ここまで書いたら、勘の良い人は、「もしかしたらこの事かな?」と想像したのではないかと思う。そう、かく言う体験とは、多くのご同輩が経験している、ハイスピードで進むIT化の波に翻弄され泣き笑いさせられている事だ。特に、頻繁に使う機会が増えた自動精算機(セルフレジ)やスマホなどIT機器の操作、中でも初物に四苦八苦させられている。パソコンは日々使っているから、ITが全く苦手という訳ではない。しかし、IT機器の急速な進化に錆び付いた脳が追い付いていかないのが現状だ。四苦八苦するたびに、機械を使っている筈なのに逆に機械に使われている感がして仕方がない。すると、浮かんでくるのがあのメロディー、という訳だ。
今や、効率化や人手不足解消の対策として、我々庶民が使うあらゆる店のキャッシュレス化が凄いスピードで進んでいる。久しぶりに買い物したら、前回とは違ってセルフレジが導入されていて初めての操作に戸惑った、なんてことも増えてきた。しかも、どの店も同じ機械が導入されていれば戸惑うことは一回で済むのだが、同業の店でも系列毎に違うシステムを導入している場合が多く、「この店ではこういうやり方」、「あの店ではあんなやり方」と操作性が若干違うから始末に悪い。統一してくれれば良さそうなものだが、精算機のメーカー毎に、カードを挿入したりかざしたりする位置が微妙に違う。すると、IT機器に慣れない我々老人は、スムーズに決済できず戸惑うことが増える。
私の場合は、カードを差し込む位置だったり、スマホに表示されているバーコードやQRコードを読み取るカメラの位置だったりが、すぐに見つけられない場合が結構多い。緑内障によって一部視野が欠けているため、見つけにくい可能性もある。どうしても見つけられない時には、迷わず店員を呼んで解決してもらう。先日も、セルフのガソリンスタンドで、バーコード読み取りカメラの位置が分からず、往生したばかりだ。教えてもらったカメラは、「これが?」とびっくりするほど小さかった。いずれにしても、操作の一つ一つの理由も機能も理解しているのにシステム全体として使いこなすことができないと、“機械に使われている感”は強くなる。
また、スマホの普及率が上がり生活の一部にしっかりと入り込んでからというもの、あらゆる点で凄く便利になった。また、いろいろなお店の決済やポイント付加など、スマホを使うシーンも急激に増えてきた。その一方で、スマホ自体の使用頻度が低い我々老人は、次から次へと生まれてくる新しいサービスや機能に翻弄されっぱなしだ。そしてスマホ自体も進化していて、新しく付加される機能やサービスは、衰えていく脳に必死で抗っている身にとって、「付いて行くのに必死」というのが正直な感想だ。「えっ、こんな事も出来るようになったんだ!」という“新鮮な驚き”が確かにあるものの、自由に使いこなせるかと問われれば、残念ながら「?(はてな)」なのだ。
先日、町会のごみステーションで、家内が中国人の留学生に出会った。リサイクルごみの出し方が分からず、困っていたらしい。日本に来てまだ1ヵ月、片言の日本語しか喋れず、家内の説明は殆ど理解できない状況だったという。そこで、身振り手振りで何とかしようとしたのだが埒が明かず、気が付いたのがスマホだ。家内が取り出したスマホに(彼は持ち合わせていなかったらしい)、通訳の役目をしてもらったらしい。おかげで何とか意志の疎通ができたという。その時の様子を、『スマホの翻訳機能を使って、コミュニケーションをとったんだよ!』と嬉しそうに話す。ただスマホ操作は彼の指示任せだったと笑う。家内にとって初めて使う機能だったが、教えてくれる人がいたからなのだろう、私のように“使われている感”がしなかったらしい。にこやかなその話しぶりからも分かる。そう、どんなIT機器も、教えてくれる人がいればあのメロディーが浮かばなくて済むのだが…。
【文責:知取気亭主人】
柿(甘柿か渋柿か、聞いてから食べた方がいい!)
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