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知取気亭主人の四方山話
 

『天敵』

 

2025年11月12日

我々人間も含め、この地球上で生きとし生けるものにはすべからく天敵がいる、と思っている。だから、当然小生にもいる。小生の天敵は、『夕方の分一回ぐらい薬飲まなくても大丈夫だから、お酒飲もうぜ!』と毎晩甘い言葉をささやく、もう一人の自分だ。時には、『そうだな、一回ぐらい飲まなくてもいいか!』と同調し、誘惑に負けてしまう。それくらい何ともしつこい奴なのだ。だから天敵なのだが…。

そんな冗談はともかくとして、手元にある『岩波 国語辞典 第四版』(岩波書店 1986)を引くと、「天敵」の意味として、「ある動物が他の動物(まれには植物)に捕食・寄生などによって殺される場合、後者を前者の天敵という(原文のまま)」と説明されている。この説明からすると、どうやら「天敵」という言葉は、お互いが動物であることに限定して用いるのが一般的とされているらしい。

しかし、殺す・殺されるという殺生の類は動物に限ったものではないだろう、と勝手に思っている。辞典の説明に「まれには植物」とあるように、動物の天敵となる植物も確かにある。その例として、虫を捕食する食虫植物がよく知られている。もっと違う関係性で言えば、弊社の庭に植えた芝生が、はびこってきた苔に殆ど駆逐されてしまった事実からすれば、「動物だけに限らず植物にも天敵がいる」と信じている。例えば、侵略的な植物として知られるセイタカアワダチソウは、葉や根から周りの植物の発芽や成長を阻害する化学物質を分泌し、その旺盛な繁殖力も加わって、周りの在来野草を駆逐してしまう。そのため、関係省庁から警鐘さえ出されていて、まさに在来野草にとっての天敵だと言える。この例は、「植物の天敵は植物」の典型かも知れない。

敢えて天敵という言葉を使いたくなる関係は、他にもある。この四方山話にも度々登場している茶農家の従兄によれば、地区周辺のササユリはイノシシによってユリ根を食べられてしまいほぼ絶えてしまったという。小生風に言えば、 “植物ササユリ”の天敵は“動物のイノシシ”ということになる。他にも、植林した苗木を始め生活の糧である茶葉など、毒のある樒(しきみ、別名:香ノ木)以外手当たり次第に食べてしまうシカは、多くの植物にとって天敵以外の何物でもない、と言いたい。そんな大食漢のシカだが、中でも何が美味いのか合歓木(ねむのき)の樹皮が大好物で、太い木でも奇麗に剥ぎ取り、ついには枯らしてしまうと嘆いていた。大木も何のその、らしい。奇麗な花を咲かせ、人の心を和ませてくれる合歓木にとって、シカは大天敵なのだ。このように拡大解釈すれば、動物以外、植物にも殺されて(枯らされて)しまう天敵と呼んでもいい相手はいて、その相手(天敵)は、植物の場合もあるし動物の場合もある。

また少し視点を変えると、これまでに登場したシカやイノシシは、食される植物にとっての天敵としてばかりでなく、間接的にではあるが、我々人間にとっても天敵と呼びたい動物だ。よく知られているように、ウリボウなどと呼ばれ成獣になる前は人気のあるイノシシも、また公園にも放たれ古くから日本人に馴染みの深いシカも、増えすぎると我々人間に思わぬ害をもたらす。俗に言う獣害だ。先に述べたササユリの件や茶葉が食べられる件など、生活の糧となる田畑に被害を与えるばかりではない。時として、斜面の植物を食べ尽くしたり、掘り返したりすることによって山を荒らし、結果土砂災害の原因を作ってしまっている場合がある。発生した土砂災害によって人が亡くなるケースも、勿論ある。そういう意味では、「人間にとっての広義の天敵」と言っていいのではないだろうか。

では、人間に災いをもたらすイノシシやシカにとっての天敵は、いないのだろうか。人間という天敵によって駆逐されてしまったニホンオオカミが生息していた時代は、そのニホンオオカミが天敵だった。ところが、ニホンオオカミが駆逐されてしまった結果、今では従兄の畑や庭先などのように、人間が暮らす目と鼻の先にまで出没し、我が世の春を謳歌し始めている。そうした獣害を減らす(?)ために、ニホンオオカミと同じDNAを持つハイイロオオカミを導入しようと訴えている、そんな活動をしているグループもある(日本オオカミ協会:https://japan-wolf.org/faq/)。しかし、残念ながら、話題としてテレビで取り上げられた記憶はない。

その一方で、クマによる被害のニュースは、ほぼ毎日ニュースに取り上げられている。その中で、先日、衝撃的なニュース映像を見た。北海道に生息するヒグマがエゾシカを襲い、山に引きずり込む映像だ。「そうかシカの天敵はクマだったのか」と認識した瞬間だった。しかし、「人間の天敵ともなったクマの天敵は?」と考えると、日本に生息している動植物では思いつかない。唯一思いつくのは人間、中でもハンターだけが候補に挙がる。

結局、今のところ、先の述べたイノシシやシカにとっても、またクマにとっても、ハンター(人間)が天敵にならなければ人間を守る手立てはない、というのが実情ではないだろうか。ところが、ハンターの高齢化や後継者不足で、そうした構図の未来は心細い限りだと報じられている。だとすれば、ここは真剣にハイイロオオカミの導入を検討してみてはどうだろう。「オオカミはクマの天敵ではない」とも聞くが、子連れのクマにはそれなりの脅威を与えると思う。さすれば、我が物顔で徘徊するという事も無くなるのではないだろうか。ダメかなぁ?


【文責:知取気亭主人】


カマキリ(天敵にも被害側にもなる)
カマキリ(天敵にも被害側にもなる)

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