|
2025年12月3日
50年ほど前、あるパニック映画を観た。当時アメリカの人気映画俳優だった、ポール・ニューマンとスティーブ・マックイーンが共演した映画で、題名を『タワーリング・インフェルノ』(日本語に訳すと『そびえたつ地獄』になるらしい)という。
半世紀も経った今でも、大まかなストーリーや手に汗握って観たシーンを、ところどころだが覚えている。超高層ビルが、落成式のまさにその当日、電気系統の不具合から出火し、やがてビル全体に燃え広がりパニックとなっていく、そんな映画だ。
ポール・ニューマン演ずる設計技師と、スティーブ・マックイーン演ずる消防士が大活躍して何とか鎮火するのだが、原因となったのは、設計とは違う規格外の製品を使ったことだった。
そして、映画を観てから凡そ7年後の1982年(昭和57年)、「実際に映画のようなビル火災って本当に起こるんだ」と思わせる火災をテレビ中継で見て、ショックを受けた。しかもアメリカではなく、この日本で起こったのだ。同年2月に発生した「ホテルニュージャパン」の火災だ。
映画に比べればさして高い建物ではなかったが(地下2階、地上10階)、東京の中心街(東京都千代田区永田町)に建っていたビルの火災だっただけに、その様子は長時間にわたりテレビ放映されていた。窓から必死で助けを求める宿泊客の姿も映し出されていて、胸を締め付けられる思いで見ていたのが思いだされる。飛び降りた人もいた、と記憶している。
結局、死者33人、負傷者34人を出す大惨事となった。直接の原因は宿泊客による寝タバコの不始末だったそうだが、消防法で決められていた消火設備の設置義務を怠るなど、社長だった横井英樹(1913-1998)の利益優先の経営姿勢が被害拡大を招いた大きな原因だとして、糾弾する声が日増しに大きくなっていった。そして、最終的に社長は実刑判決を受けた。
直接の原因であるタバコ火の不始末は完全にそうだし、延焼を食い止めることのできなかった間接原因としての消火設備の設置義務違反も、人が深く関わっている。過失、故意にかかわらずそんなことが多い。他人事ではない。
今大々的に報じられている、香港の高層マンション群の火災も、出火原因として人が関わっているのは間違いないらしい。作業員のタバコ火の不始末が原因ではないか、と報じられている。
しかも不運なことに、建築中ではなく修繕中での出来事だというから始末に悪い。住民が居住したまま工事が行われ、その工事期間中に火災が発生したとされる。
12月1日の北陸中日新聞朝刊(以下、新聞)によれば、(香港警察の発表として)死者146名、行方不明者は40人を超え、死者はまだ増えるだろうと報じられている。何とも痛ましい。
ニュース映像を見ていると、炎を上げて燃え上がる様は、乾燥した木造の建築物の火災と見紛うほどだった。林立する高層ビルが、まるで煙突のように燃え上がっていた。本当に恐ろしい。しかも、幾ら近接だとは言え、ビル群8棟のうち7棟も燃えてしまうとは、高層ビルなど無いに等しい金沢に住んでいると、俄かには想像しがたい。
映画『タワーリング・インフェルノ』のシーンどころの話ではない。どうやら、修繕のために使われていた竹製足場と目隠しのために張られた可燃性のシートが、激しい類焼原因の一つだと報じられている(竹製足場は安全だとする香港市民の声もあるらしい)。加えて、窓ガラス保護のために発泡スチロールが張られていたというのも、延焼スピードを激しくさせた要因だとも報じられている。
もし報道が正しければ、まさに“燃えてください”と言わんばかりの資材を使っていた訳で、素人考えでも『それはないでしょ』と言いたくなる。
こうした修繕に使われていた建築資材を聞くと、どうやら施工業者は安全施工,特に火災に関しては、殆ど注意を払ってこなかったのではないかと思われる。また、行政の指導もあまり熱心ではなかったのではないか、と疑いたくなってしまう。
30年ほど前、香港旅行をした際にも竹製足場の施工現場を至る所で見かけたが、あれから建物はどんどん高層化していったのに足場は当時のまま変わらずとは、正直びっくりしている。しかもその足場を使っていながら、「作業員はタバコの吸い殻を投げ捨てていた」との情報も聞こえてくる。大らかと言えば大らかだが、何とも危なっかしい。いずれにしても、今回の香港の大惨事も出火原因は人だった、と断定できそうだ。
そんな中、燃え上がる高層ビルの近くで必死に放水する“はしご車”の奮闘する様子が映し出されていた。ところが、ビルの高さに比べるとその低さが際立ってしまっていて、「何とかならんのかな?」と思いながら見ていた。
出火原因の多くに人が関わっているとすれば、今回の香港に限らず、どこの国の大都会でも高層ビルの火災というのは起こりうる話で、はしご車が届かないというのも起こりうる事だ。
であるならば、ビル内に設置される消火設備の機能向上に加え、二重の備えとして、外からの消火というのも真剣に考えておく必要があると思う。例えば、放水銃の機能アップとか、消火活動ができるドローンの開発とか、あるいは自己消火する壁紙や断熱材など建築資材の開発とか、いろいろと面白そうな糸口が見えてくるのだが…。
【文責:知取気亭主人】
季節外れのケイトウ
|