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2025年12月10日
平社員から始まって、係長→課長→部長→取締役→社長、言わずと知れたサラリーマンの出世街道だ。会社によって、或いは業種によって、その役職の呼び方は多少異なることはあるだろうが、おおよそこの様な階段を上っていく事になる。「昔に比べると上昇志向の若者は少なくなった」と言われて久しいが、それでも今なお多くのサラリーマンは、一つでも上の役職を目指していることだろう。ただ、本人の努力のみならず、上司や先輩の覚えが良い人が出世街道を順調に進んで行く事が多い。したがって、「俺こんなに頑張って、成果もあげているのに…」と自己評価だけでは何ともならないこともある。それどころか、どちらかと言うと自己評価よりも周りの評価が重要視されることが多く、本人にとっては理不尽極まりないと思える人事も少なからずあるのではないかと思う。
そこにいくと、実力次第のスポーツの世界、中でも大相撲の出世街道である番付はシビアだ。そして、傍から見ても至って分かり易い。実力次第、成績次第で上がったり下がったりする仕組みだからだ。序ノ口から始まって、序二段→三段目→幕下→十両→前頭→小結→関脇→大関、そして最高位の横綱へと、一段一段自らの力で上り詰めていくしかない世界である。この出世階段の多さを知ると、横綱の凄さを改めて思い知る。横綱の手前の番付、小結、関脇、大関を三役と呼んでいるが、この三役になるだけでも凄い事なのだと思う。だから、大相撲の出世街道を上り詰めた大の里、豊昇龍、この二人の横綱は、他の力士に比べて安定して強いのだと思う。
出世街道は、こうした人の世界の話ばかりでない。日本には、魚の世界にもある。勿論人が名付けたものだが、魚好きの日本人ならではの呼び方とでも言える。酢で締めたコハダは、酒の肴にしてもよし、寿司ネタでもよし、小生の好きな魚のひとつだが、大きくなるとコノシロと呼ばれるようになる。そう、コハダは、このように成長するにつれ呼び方が変わっていく出世魚なのだ。関東地方ではシンコ→コハダ→ナカズミ→コノシロと変わっていくのだという。誰が決めたか、面白いものである。ただ当魚には申し訳ないが、上り詰めてコノシロと呼ばれる大きさになると、たくさんある骨が硬くなってあまり好きではなくなってしまう。したがって滅多に我が家の食卓には上らない。
また、「とどのつまり」の語源になったと言われる“トド”は、ボラが大きく成長して出世街道を上り詰めた呼び方だ、と昔ラジオで聞いたことがある。それでは、と調べたところ、関東地方ではハク→オボコ→イナ→ボラ→トドと出世街道を上っていくらしい。山育ちの小生は食べたことはないが、能登では、「ボラ待ち漁」と呼ばれる、櫓の上から海底にセットした網の上を通過するボラをひたすら待つという古式豊かな漁法が盛んだったらしい。今でも、観光用としてだと思うが、「ボラ待ち櫓」が岸近くの浅瀬に設置されている。そして、卵巣は「カラスミ」と呼ばれる珍味になる。今では店先に並んでいるのを殆ど見かけないが、昔は出世魚にするほど馴染みの魚だったに違いない。
出世魚は他にもある。北陸地方で冬の雷鳴が轟く今頃の季節になると、天然物の寒ブリが、脂がのって大変美味しくなる。ブリ好きには堪らない季節だろう。カニと並んで、北陸の代表的な海の味覚とも言えるこのブリも、出世魚の代表選手だ。石川県では、成長するにつれて、コゾクラ→フクラギ→ガンド→ブリと呼び名が変わる。お隣の富山県では、ツバイソ→フクラギ→ガンド→ブリと呼ばれているらしい。この様に、北陸、特に石川、富山両県にとっては、ブリは最も身近な魚のひとつなのだ。
この美味しいブリを何とか全国ブランドにしたい、と両県は取り組んできた。ただ石川県は、これまで富山県氷見漁港のブリブランドの後塵を拝してきた。これではならずと、何年前からだったか、石川県も寒ブリのブランド作りに力を入れ始め、「天然能登寒ブリ」として売り出している。そして、これまで出世街道の頂点だったブリの更に上に、最高級ブランドを設けてしまった。その名を「煌(きらめき)」と言う。
「煌」には条件があって、この12月から翌年1月の間に県内の定置網で取れた、重さ14s以上、形が良く鮮度管理が徹底されていること、などの条件があるのだという。この厳しさ故か、12月1日に行われた初競りでは、「煌」と認定されたのはたった一匹だけだった、と報じられている。ただ、その競り落とされた金額に驚かされる。何と、400万円。お祝い相場ということもあるのだろう。しかし、それにしても、である。競り落としたのは、地元の食品スーパーだという。チェーン店で販売すると報じられているが、切り身で売るのか柵で売るのか、そして幾らで売るのか、興味は尽きない。
初競りがこれだけ大きな話題になっているところをみると、石川県のブランド戦略は、比較的順調だと言えるだろう。これまでの出世街道の頂点を超える新たな頂を設けてしまったのだから、とにかく頑張るしかない。ただ、県内だけの盛り上がりにならなければ良いのだが…。
【文責:知取気亭主人】
胡蝶蘭の唇弁(しんべん)
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