いさぼうネット
こんにちはゲストさん

登録情報変更(パスワード再発行)

  • rss配信いさぼうネット更新情報はこちら
知取気亭主人の四方山話

『時短のお手本?』

2026年3月18日

「マネジメントの父」と言われるピーター・ドラッカー(1909−2005)は、「企業の目的は顧客の創造である」と説いた。そして、8つの目標領域を提案した。(1)マーケティング、(2)イノベーション、(3)人的資源、(4)資金、(5)物的資源、(6)生産性、(7)社会的責任、(8) 条件および制約としての利益、の8つである。その中で少し分かりにくい社会的責任については、@環境に配慮する責任、A法律や規制を遵守し公正に事業を行う倫理責任、B社会貢献活動や慈善活動を通じて社会の発展に貢献する慈善責任、C存続し続け成長する経済責任、の4つがあると説いた。どれも成る程と腑に落ちる提言だ。

ぼんくらな小生など、民間企業にとっての主な目的は利益を上げることだ、などと漠然と思い込んでいたが、ドラッカーの提言はさすがに奥が深い。ただ、これらの提言を実行、或いは実現するには、やはり利益を上げて雇用を守り、社会的責任を全うするために存続し続けることが基本条件だ、と信じている。そういう意味においては、「主な目的は利益を上げること」との短絡的な思考もあながち的外れではないのかな、と思っている。

金儲けしか頭にないブラック企業は別として、多くの民間企業も似たり寄ったりの考え方に立っているのではないかと思う。そうしたこともあって、民間企業の多くは、利益を上げて雇用を守り存続し続ける為に、いろいろな手立てを考え改善に取り組んでいる。いかにして生産性を向上させるか、或いは効率化させるか、尽きることのない命題だ。殆どの企業は、日々これに取り組んでいると言っても過言ではない。その取り組みの合言葉ともいえる「改善」は、世界における日本企業の代名詞と言われるほど、その言葉と精神は多くの日本企業に浸透した。ところが、国ごとの時間当たり労働生産性を比べてみた場合、残念ながら、日本は他の先進国よりも劣っているのが実情だ(2025年の調査では、OECD加盟38カ国中28位:https://www.jpc-net.jp/research/detail/007846.html)。勿論、円安がその要因の一つであることは疑いの余地もないが、意思決定の遅さやIT化の遅れなど、他にも劣る原因がいろいろと指摘されている。

そんな実情を受け、労働生産性を何とか上げようと、企業ばかりでなく時の政権も躍起になって対策を講じてきている。ところが、なかなか効果が表れないでいる。かじ取りを担う政府も躍起になっている筈だ。そんな中、高市第二次内閣が今回、思わぬ形で、「効率化、時短とはこういう風にやるんだよ」との手本を示してくれた。ただ、手本などと“よいしょ”してみたものの、実は少々気が引ける。どちらかと言えば、対峙する野党や政治評論家たちの中では、「強引だ」との批判の方が多いからだ。さて、皆さんはどう判断するだろう。「時短のお手本」と揶揄してみたのは、2026年度予算案の審議についてだ。

13日の夜、衆議院本会議に於いて、2026年度の予算案が与党の賛成多数で通過した。総額122兆3,092億円、前年度当初予算を7兆円余り上回る、これまでで最大となる予算だ。この予算の審議が衆議院で行われたのだが、審議時間が近年最短となる59時間だったという。この59時間が短いのか長いのか、我々国民には判断しづらいが、時間当たりに直すと、1時間の審議で2兆7,730億円もの予算が決まったことになる。確かに、時短という意味においては優れた成果なのかもしれない。しかし、回りまわって我々国民の肩にのしかかってくるものだと考えると、「近年最短」に複雑な思いが湧いてくる。大丈夫なのだろうかと。因みに、歳入と歳出の大枠は次表のようになっている(単位は億円)。

歳    出(1,223,092) 歳    入(1,223,092)
社会保障関係費 390,559 税収 837,350
社会保障関係費以外 310,998 その他収入 89,902
防衛力整備計画対象経費 88,093 新規国債 295,840
一般予備費 10,000 建設国債 67,160
その他 212,905 赤字国債 228,680
地方交付税交付金等 208,778
国債費(利払い+償還費) 312,758

細かな話は置くとして、見ての通り、今回の予算のうち約29.6兆円(24.2%)は借金で賄うことになっている。国債費の大枠だけを比較すると借金は減ったようにも見えるが、歳出の約31.3兆円には国債の利払い(約13兆円)が含まれていて、実際の借金返済に相当する償還(約18.2兆円)は、新たに発行される国債の約6割にしかならない。逆に増えているのだ。都合、新たな国家予算の24%強は新たな借金という訳だ。

こうして増え続ける赤字国債、積みあがった額は、今年度末に1,129兆円にもなる見通しだという。「日本国債は自国通貨建てだからこれだけ積みあがっても大丈夫」との説もよく聞くが、「大変だ」と心配する専門家もいる。どちらが正解なのか、小生には良く分からない。ただ、歳出に無駄はないか、歳入には無理がないか、十二分に審議を尽くして欲しいと思うのが国民感情だ。そんなことを考えると、今回の衆議院における予算案審議、「時短のお手本」と揶揄してみたが、実際はどうだったのか凄く気に掛かる。

とにもかくにも、新年度予算は成立する見通しとなった。これで、経済運営に空白の恐れはなくなった。そういう意味では、確かに「時短のお手本」と言えるのかもしれない。しかし、本当にこれで良かったのか、不安と疑問は残ったままだ。ドラッカー先生だったらどんな評価を下すのだろう?


【文責:知取気亭主人】

沈丁花

沈丁花


Copyright(C) 2002- ISABOU.NET All rights reserved.