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2026年3月25日
「浅学菲才(せんがくひさい)」という四字熟語がある。学びや知識が浅く、才能も乏しいことを指し、多くは自身を謙遜して紹介する際に使われている。最近はあまり聞かれなくなったが、『浅学菲才ではございますが…』などと、就任挨拶などの冒頭に、耳にした方もいるだろう。つい先日、特段自己紹介するような状況に置かれたわけではないが、小生自身その浅学菲才を痛感させられる出来事があった。妻のお供をして、近くのスーパーマーケットに買い物に行った時のことだ。
妻と離れ、うろうろと見て回っていて、冷凍食品のところで足を止めた。たくさん並べられた、見たこともない色鮮やかなパッケージが目に留まったからだ。最近は驚くような冷凍食品が開発されていて、電子レンジでチンすればすぐ食べられる調理済み商品は言うに及ばず、解凍するだけで食卓に並べられる果物や野菜などの品揃えも豊富で、「へ〜こんなものまで!」と、商魂の逞しさに感心することが多い。その日も興味津々で見ていたのだが、幾つも並べられた商品の中に、読み方が分からない漢字で書かれた見慣れないパッケージを見つけた。中身を確認しようとしたが、見下ろすだけでは良く分からない。何だろうとあれこれ考えてみても、一向に候補すら浮かばない。浅学菲才どころか、「あれかな?これかな?」と食品を思い浮かべる想像力も乏しくなってきたらしい。
お手上げ状態になり、妻の近くに行って、『“焼く”という漢字に“売る”という漢字、二文字で何と読む?』と訊いた。ちょっと考えていたが『シュウマイじゃない?』と迷わず言う。『エッ、シュウマイ?』とおうむ返しに小生。『東京駅でよく見かけたシュウマイ弁当に“焼売”なんて書いてあったかな?』とぶつぶつ言いながら、商品を手に取り、裏側から中身を確認してみると、確かにシュウマイらしいものが見える。
恥ずかしながら、その時初めて、「“シュウマイ”は漢字で“焼売”と書く」ということを知った(漢和辞典(※)によれば、売の音読としてはバイで、マイという読み方は、漢音と呼ばれるほぼ奈良時代から平安時代初期にかけて伝えられた音ではなく、漢音以前に伝えられた呉音と呼ばれる音だという)。後で次女にも訊いてみたが、考える間もなく答えていた。どうやら、小生が知らないだけで、「焼売=シュウマイ」は一般常識らしい。悔しいけれど、その一般常識が小生にはなかったということだ。でも、「マイ」という読み方を習った記憶はない。その曖昧な記憶を頼りに「習わなかったし、“焼売”は読めなくても仕方がない」と負け惜しみを決め込んでいて、どうにも素直になれない自分がいる。
※『新版 漢語林』(大修館書店 1995)
そんなモヤモヤした気持ちを持ったまま、彼岸の3連休に、安曇野に住む長女夫婦の家に行ってきた。昼食に信州名物の蕎麦をご馳走になったのだが、その店の看板を見ながら婿殿が、『お義父さん、この地名読めますか?』と訊いてきた。看板には、店の所在地として「高家」と書いてある。『こうか、たかや…』と思いつくまま答えたのだが、どれも違うと笑う。何だろうと思案していると、『“たきべ”と読むんですよ』と教えてくれた。「高」を「たき」と読むのも難しいが、「家」を「べ」と読むのは、小生の知識と想像力の域を遥かに超えている。婿殿曰く、安曇野難読地名の一つらしい。
他には、温泉の「温」一文字の地名もあって、『そこも難読地名の一つだ』と続ける。「温水」と書いて「ぬくみず」と読む俳優(温水洋一さん)がいることを昔のテレビコマーシャルで覚えていたので、『“ぬく”じゃないか?』と当てずっぽうに言ってみたのだが、またも違うと言う。そして、「ゆたか」だと笑う。温泉が滔々と湧き出ていた所だったのだろうか?そんないわれを想像してみたが、「ゆたか」だとは、とてもじゃないが読めない。
そしてもう一つ、『一日市場(いちにちいちば)と書く地名も難しい読み方ですよ』と、ニヤリとする。あれこれ考えてみたが、一向に思い浮かばない。小生の様子を見ていた婿殿、『一日市場と書いて“ひといちば”と読むんですけど、とても読めないですよね』と教えてくれた。「ついたち」なら分からないでもないが、「一日」を「ひと」とは、確かに読めない。お手上げだ。
ところが、難読地名だとは言いながらも、この四方山話を書くのに使っている「Microsoft IME」(以下、変換ソフト)でひらがなを入力し漢字変換すると、何とこれら三つの地名はいずれも変換候補として表示されるではないか。とても一般的に知れ渡っている地名とは思えないのに、変換候補にちゃんと入っている。ビックリ仰天だ。変換ソフトの作成者や編集者に安曇野出身の人がいたのではないか、と疑ってしまう。小生が「読めません!」とバンザイした難読漢字、勿論浅学菲才であることは承知の上だが、既に変換ソフトに組み込まれているとは、何とも不思議な気分だ。皆さんの地方にある難読地名、変換ソフトの候補に出てきますか?
【文責:知取気亭主人】
ここはどこでしょう?
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