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知取気亭主人の四方山話

『冬将軍の置き土産』

2026年4月15日

12日の金沢、朝からたっぷりの日差しで気温は徐々に上がり、昼頃には20度を超えた。4月の今頃の時季としては、20℃超えはいささか早い気がする。とは言え、朝晩はまだまだ冷える日もある。お陰で、日々の服装選びに苦労している。でも自然界の温度センサーは、人間よりも遥かに敏感で、その上寒さにも強いらしい。辺りは、もうすっかり春の装いだ。

それにしても、昔に比べると桜の見頃は随分と早くなった。もう四半世紀以上も前に、今頃よりもうちょっと後の4月の中旬、寒さに震えながら花見をしたのが嘘のようだ。嘘のようだと言えば、ほんのふた月ほど前に大雪で苦労したことなど無かったのではないか、と勘違いするほど今の日差しは暖かい。そんなギャップもあって、早くもその大雪絡みの記憶が薄らぎ始めている。人間の脳は上手くできているものである。

ところが、そんな大雪の記憶の多くは薄らぐ一方なのだが、雪国には春の訪れと共に目立ってくるものがあり、それが忘れそうになった記憶を呼び起こす役目を果たしている。冬将軍の置き土産だ。兼六園や金沢城公園のように管理が行き届いた公園や施設はそうでもないのだが、管理が行き届かない街路樹やショッピングモールの駐車場に設けられた緑地帯などでは、雪が消えて無くなると、あちこちで雪の重みで折れ散らばった枝が目立つようになる。雪害だ。近くのショッピングモールや我が家の庭木の傷み具合を見ると、特に今年は傷ついた木々が多いように思う。

また冬将軍は、時としてとんでもない置き土産を残していく。除雪の際大活躍してくれた除雪車がうっかり道路面に付けた傷跡などもそうだ。雪解けの最中に、会社近くの橋には、座摩(あばた)のようになった無数の傷跡が、今でも残されている。 また、郊外に行くと、ガードレールなどの道路付帯構造物が破損されているケースもある。我が家の前の街路では、(置き土産というよりは除雪後すぐに気が付いたが)地下埋設物の蓋(水道)が除雪車でめくられかってしまった。

除雪作業後の道路の様子
2018年春に残っていた傷跡

いずれのケースも、雪に隠れて見えなくなってしまったり、除雪車の運転席からは死角になって見えない場合があったりするからだ。そういう意味では、除雪車の運転はかなり熟練度が求められる仕事なのだ。

道路ばかりではない。気を使ってくれなくてもいいのに、冬将軍は、我々市民にも土産を残していく。身近なところでは、第1166話で紹介したような車の破損などがまず浮かぶ。雪道や凍結した道路で急増するスリップ事故による破損もそうだ。お世話になった保険代理店(以下、Aさん)の話では、今シーズンは例年以上に多かったという。また、我が家では、物干し場となっているベランダのポリカーボネート製の屋根が一部割れてしまう土産も置いて行ってくれた。雪解け後、洗濯物を干そうとして気が付いた。

破損したベランダの屋根
破損したベランダの屋根

Aさんの話では、カーポートも含めて、ポリカーボネート製屋根の破損による保険金申請がとても多いという。修理もなかなか手が回らないらしい。我が家も、既に見積もりは受け取っているのだが、実際の工事は5月の上旬になってしまうとの連絡があった。いやはや、ここまで後遺症を残しているとは、手ごわい冬将軍であった。

このように、冬将軍の置き土産は大体が迷惑なものが多い。ところが先日、思わぬ土産を貰い、ほっこりとしてしまうことがあった。スタッドレスタイヤからノーマルタイヤに交換した時のことだ。「冬将軍のせい」とは無理やりの感もあるが、こうしたタイヤ交換は雪国の宿命、また冬将軍を雪と読み替えれば、許容範囲だろうと勝手に思っている。

長男にタイヤ交換をしてもらい、空気圧のチェックをしにガソリンスタンドに行った。先客がいて、終わるのを待った。ところが、一向に終わらない。痺れを切らして様子を見に行くと、女性が一人しゃがんで何やら奮闘している。訊くと、『キャップ(エアバルブキャップ)が固くて、どうやっても外せない』と言う。『それはいけませんね』と言いながら、事務所からペンチを借り、少しだけ緩めてやった。『これで外せると思います』と伝え、ペンチを返しに行った。ところが戻ってみると、まだしゃがんで奮闘している。

訊くと、『外れたけれど、今度はキャップがホイルカバーの内側に落ちてしまって取れない』と半べそを掻いて言う。どれどれと、ホイルカバーを外そうと試みるが、固くて外れない。バールのようなものを借りに行くが、『無い』との返事。そのうち事務所の人も出てきて、『車を前後に動かすとポロッと出てくることがありますよ』と女性にアドバイスしてくれた。『やってみます』との言葉を聞いて、やっとのことで女性からコンプレッサーノズルを譲り受け、自分の車の空気圧を調整し始めた。

そして、もう終わろうかと言う時に、女性が声を掛けてきた。『キャップも出てきてやっと終わりました』と恥ずかしそうに言う。そして、『これ食べてください』と、お孫さんか誰かへのお土産であろうお菓子をくれるという。「富山限定 富山ブラック棒」と書かれた包みが見える。大したことはしていないが、ありがたく頂戴した。空気圧のチェックをしに来ただけなのに、思ってもみなかった愉快な事態に遭遇し、人の繋がりも含めなんとなくほっこりすることができた。冬将軍も、最後の最後になって、存外粋なお土産を置いて行ってくれたものである。


【文責:知取気亭主人】


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