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知取気亭主人の四方山話

『衰えゆく記憶力に抗う』

2026年6月10日

年を取ると、面倒な事が多くなる。頭と体が思うに任せなくなるからだ。車の免許更新もその一つだ。75歳以上の後期高齢者が更新をしようとすると、必ず受けなければいけないのが、70〜74歳の人も受ける高齢者講習と、認知機能検査と呼ばれる検査だ。まだ受けたことのないお若い人たちに少しばかり説明すると、前段ともいうべき高齢者講習には合否の判定が無く、受講すれば必要最低限の要件は満たすというもので、@交通ルールなどの知識を確認する座学(多くはDVDの視聴)、A動体視力など目に関する運転適性検査、B教習所コースを実際に運転してみせる実車指導の3つがある。小生は既に2度受けた。小生自身は視力が落ちてきたという若干の不安はあるものの、日頃運転している人であれば、この高齢者講習はさして気に掛けるほどのものではない。ただし、75歳以上はこれだけで免許証が当たるというものではない。本命の認知機能検査が残っている。

この認知機能検査には、「手がかり再生」と「時間の見当識」と呼ばれる2つがある。「手がかり再生」と呼ばれる検査は、身の回りの物や動物などが4種類描かれたイラストが4枚、都合16種類を覚え、記憶とは関係のない課題を一定時間行った後、描かれていた動物や物などの名前を思い出して書き出す、というものだ。小生は問題なくできてほっとした記憶がある。一方の「時間の見当識」とは、「今日は何年、何月、何日?」、「何曜日?」など、時間に関する質問に答える検査だ。これも問題なくできた。1回受けると、こんなものかと自信が湧くのだが、初めて受ける時はそうはいかない。「俺はまだ大丈夫!」と思っていても、一抹の不安が消えないまま検査に臨むことになる。

年を取ると誰しも気に病むのが、認知症だ。そして誰もが、「どうか認知症にはなりませんように」と願っている。テレビのニュースやドラマで家族や周りの人が困惑している姿を見ると、尚更その思いは強くなるし、年を取る毎に切実になる。物や人の名前がすぐに思い出せなくなると、「それは加齢のせい」と思い込むようにしているのだが、そう思い込みたい心の横で、「でもそれって、やっぱり認知症が少しずつ進んでいるのじゃないのか?」、と囁く憎たらしい奴がいる。「俺は認知症にはならない」という自信は持っているものの、あまりにも頻繁に名前が出てこないと、「でもなぁ…」と弱気にもなって来る。そして、憎たらしい奴も俄然元気になって、囁く声も大きくなる。『そろそろ気をつけろよ!』と。

名前がすぐに出てこない小生の症状は、嫌なことに、徐々に進行しているように感じている。口には出さないが、「何とかしなければ…」と常々思っている。かといって、時々思い出したように脳トレ本を攻略するぐらいで、これまで特段本格的な対策をしているわけではない。そんな時、友人が実践しているという良い方法を知った。「成程!」、と思わず膝を打った方法だ。年々衰えゆく記憶力に抗う方法として、即座に取り入れた。

その方法とは、日記を書くことだ。しかも、寝る前に当日の出来事を書くという一般的な方法ではなく、一晩経って前日の出来事や食事の内容を思い出して書くという、一工夫加えた方法だ。確かに、認知症の判断方法の一つとして、「前の日、何を食べたか思い出せますか?」というものがある。それを、日記という形で毎日実践しているというわけだ。毎日実践すれば、記憶をつかさどると言われる海馬がこれまで以上に刺激されることは、まず間違いない。そして恐らく、長期記憶の保管先だと言われる大脳皮質も刺激を受けることになる。それは、使っているのが普通の日記帳ではないからだ。

友人が愛用しているのは、5年日記だと教えてくれた。この日記帳を使えば、最長5年前の、同じ日の出来事を振り返ることができる。基本的に、同じページに同じ日にちの出来事を書くようになっているから、最終5年目の日記を書く時には、過去4年の同日の日記を読み返すことができるのだ。同じページだから、いやが上にも目に入る。よく聞く10年日記帳というのも同じ仕組みなのだろう。調べてみると、3年間という小生には手ごろな短い期間の商品もあった。いずれにしても、前の日の事を思い出す訓練と、1年前、或いは2、3年前の出来事を思い返すことによって、古い記憶を思い出す訓練にもなるのではないか、そう信じて「3年メモ」なる商品を買った。

実は、一昨年の夏に心臓の手術を受けて以来、主治医の指示で、毎朝、体重と血圧、脈拍を測定して記録している。また、虚血性大腸炎になったことから、便通も記録している。したがって、毎日記録するということを2年近く続けていて、日記をつけるという行為自体は、自分にとってそんなに高いハードルとは思えなかった。書くことが思い浮かばなければ、最悪体重と血圧を記録するだけでも良いか、と気楽な気持ちで始めた。

書き始めてやがて10日ほどになる。A5サイズで、書くスペースは6行、だから本当にメモ程度の内容で良しとしている。それでも、前日の朝、昼、晩の食事内容と主だった出来事を頑張って思い出し、書いている。すると不思議なもので、覚えようとする意識も生まれて、思い出しも何となくスムーズになったような気がしている。早とちりかもしれないが、憎たらしい奴の声も、心なしか小声になったような気がしている。実際、そうだと良いのだが…。


【文責:知取気亭主人】


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