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知取気亭主人の四方山話

『雷様』

2026年7月29日

夏の風物詩と言えば、見物客の色とりどりの浴衣姿と共に、夜空に大輪の花を咲かせる花火大会が、まず目に浮かぶ。子供たちが夏休みに入る頃になると各地で催されるようになり、先の土日(25、26日)には東京の隅田川でも行われた。大変な賑わいだったらしい。それに合わせた訳でもないだろうが、雷様が「花火の音に負けてなるものか!」と大いに発奮したのか、隅田川では終盤近くになってピカリと光り雷鳴を轟かせたと報じられている。ここ金沢でも、25日に行われた花火大会では花火に花を持たせたのか鳴りを潜めてくれていたものの、翌日26日の日曜日には、「昨日は俺様のいない間によくも楽しんでくれたな!」とばかりに強い雨と共に雷鳴を轟かせていた。

その26日は全国高等学校野球選手権大会(以後、夏の高校野球)の石川県大会の決勝戦が行われていたのだが、強い雨とその雷の影響で、長い中断を余儀なくされた。テレビ中継を観ていて、雨が小降りになった様子に「再開するのかな?」と期待したのだが、雷のためにその後も暫く中断されてしまった。夏の高校野球が雷のために中断されたのを初めて観たような気がする。雨での中断は何度も観たことはあるのだが…。ただ、全くの予想外という訳ではない。当日は本州の広い範囲で高い発雷確率が予想されていたから、安全の面から言えば当然の措置だ。おまけに、石川県には大雨警報も出されていた。感覚で申し訳ないが、災害級の大雨の増加と共に、発雷頻度も以前に増して高くなった気がしている。これも温暖化の影響なのだろう。

ところで雷は、人に落ちれば死に至らしめてしまうことがあったり、建物に落ちれば火災を発生させたり、立木に落ちた場合には木を裂いたり発火させたりして、人間にとってコントロールできない恐ろしいものだと思われてきた。だから日本では、「地震、雷、火事、親爺」と、恐ろしいもののベスト4に名を連ね、堂々の2位にランクされている。また、小生の子供の頃には、家に雷が落ちないように祈る迷信さえあった。当時母親からは、「いわれのない罪で大宰府に左遷された恨みから雷神となった菅原道真、その道真の屋敷があった地名の「桑原」にちなみ、『くわばら くわばら』と一所懸命唱えれば雷様は落ちないで避けてくれる」、と教えられたものだった。子供心にもそれを信じて、よく祈っていた。そんな迷信がまことしやかに広まるほど、恐れられていたのだろう。

ところが、そんなにも怖い自然現象なのに、今回の表題にも書いたように、「雷様」と、日本人は「様」を付けて畏敬の念をもって呼んでいる。また、イナズマを「稲妻」と書き、あたかも人間の様に扱っている。それも大事な稲(米)の“連れ添い”だと任じている。これはどういう発想からなのだろう。恐らく、稲など大切な食料の出来不出来を左右する得体のしれない自然の凄まじい力を、畏敬の念を込め神と崇めたのだろう。被害を出さないように、暴れず穏やかにしてほしい、と祈ったのに違いない。

こうして、民間信仰としての「風の神」と「雷の神」が誕生したのだと思う。そして、これだけ科学技術が発達しても、風神への鎮魂を願ったのが始まりとされる、越中八尾の「風の盆」などに見られるように、その名残が残されている。だからなのだろう、「雷神」の仕業ではないと分かっていても、気が付けば親しみを込めて「様」を付けて呼んでいる。しかも、何ら違和感がない。

手元にある『新村出編 広辞苑 第四版』(岩波書店 1991)(以下、広辞苑)を紐解けば、「雷」は「神鳴の意」と表記されている。俵屋宗達が描いたとされる「風神雷神図屏風」に倣えば、雷鳴や稲妻は雷神様が怒りで暴れている状況、ということになるのだろう。また同広辞苑によれば、「稲妻」は「稲の夫(つま)の意」と表記されている。稲が結実する頃に雷が多く発生して、稲妻が光ることによって結実すると考えられていたかららしい。今となれば、何とも神秘的でほほえましい発想だ。

そんな呼び方からも、恐ろしいけれども大切な食料を与えてくれる不思議な力を持った雷様、と崇めていた様子がうかがえる。一瞬に解き放たれるあのとてつもないエネルギーを間近に見せられると、確かに不思議な力を持っていると感じてしまう。でもよくよく考えれば、AIの登場で電力不足が叫ばれている昨今、勿体ない話である。今のところ、その膨大なエネルギーを有効利用するまでには至っていないが、人間の英知をもってすれば、いずれ有効利用できる時が訪れるだろう。それまでは「雷様」と崇めて、「あまり暴れないでいてください!」と祈るしかなさそうだ。この拙文を最終校正している今(今日は28日)も、すぐ近くで稲妻が光り、恐ろしげな雷鳴を轟かせている。『くわばら くわばら』だ。

なお、語源に興味ある方は、『遠藤食品株式会社』のWebサイト(※)をお勧めする。広辞苑とほぼ同じ説明がなされている

(※:https://www.endo-foods.co.jp/mamechisiki/seasons_mame_kaminari.htm


【文責:知取気亭主人】

ムクゲ


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