私が経験した落石の動態観測業務は、とある山岳地帯における工事現場内での業務だった。現場内には岩盤がそそり立ち、岩盤には無数のクラックが発達していた。
観測は、その岩盤が崩落するかどうかを常時観測し、ある一定量の変位が生じた場合に現場内の作業者を待避させる業務であった。観測所は観測する地点から約400m離れている。観測所はプレハブ造りであり、高さは一般家屋の2階程度の高さがあった。観測所に入るためには脇にあるハシゴを使って登らなければならない。室内に入ると中のスペース
はそれほど広くは無い。今は少なくなった公衆電話ボックス程度の広さで、その中に光波測距儀と湿度計および一般家庭用のエアコンが備え付けられていた。エアコンは気温・湿度による誤差をなくすため、常時17°Cを維持している。光波測距儀は、400m離れた岩盤に設置されたターゲット(プリズム)を眺めていた。
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(写真提供:ライカジオシステムズ(株)) |
ターゲットは全部で7個あり、その一つは観測所から100m程度離れた箇所に存在する不動点も含まれている。光波測距儀は自動的にこれら7つのプリズムを順番に観測できるように設定されている。また、光波測距儀内部に気泡管があり、観測所の地盤が多少偏っても自動的に補正できるものだった。ターゲット一つ当たりの観測時間はおよそ3分程度で、30分以内には全ての観測が終了する事となる。
観測データは、別の場所に設置された現場事務所に送られ、パソコンで直ちに変位量が計算される。私はこの現場事務所でそのデータを確認していた。光波測距儀はターゲットに光波を当て、(X,Y,Z)の座表値を観測している。この3つの座標値が全て10mm以上の変位を確認した時点で、「岩盤が移動している」つまり、岩盤の剥離が行われていると判断し、ブザーが鳴りランプが点滅する。このブザーが鳴った時点で、即座に現場に連絡を入れ、作業員を待避させなければならない。
このブザーは時折エラーで鳴る場合もある。例えば、降雨・降雪時および霧が濃く、ターゲットを確認できない時や、近傍で建設重機が動くと、その振動で異常値が観測されブザーが鳴る場合もある。このため、観測機械のみで待避の判断を下す事が適切でない場合があることから、私以外のもう1人が、双眼鏡でターゲット付近の状況を確認していた。よって、ブザーが鳴った時、どのような状態であったかを把握するため、30分おきに気象データをノートに控える必要があった。
気象データは外気温、外気と内気の湿度、風速や雨量をまとめていった。それにより、落石かエラーであるかの予測をある程度把握する事が可能となった。作業に集中していた(していたと思いたい)為、幸いにして作業員達への被害は全くなかったものの、作業が終了した後で作業員の人命を預かっていた事に気付き、この業務の重要性を再確認したのは言うまでもない。
後日、社内にて落石調査について上司や先輩方と話していたが、落石を調査する際に小さな石を足で蹴ってしまい、斜面下方の同行していた同僚を危うく直撃しそうになった話も聞いた。落石の調査・観測する際には、ある程度の危険を予想した上で実施する必要があることを痛感した次第である。
最後になりましたが、現場でお世話になった監督者および作業関係者の方々に感謝申し上げるとともに、この貴重な経験を次回の業務で生かそうと思う次第であります。
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