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■法律制定の背景

 今回法律が制定された土壌汚染を始めとする環境問題は、科学の発達とともに顕在化してきており、日本においては近代化が始まった明治以降に多くの事例がある。 中でもよく知られた公害事件として、天皇直訴事件で有名な田中正造が時の政府と激しく対峙した日本最初の公害問題といわれる足尾鉱毒事件や、熊本や新潟の水俣病事件、富山のイタイイタイ病事件など があるが、痛ましい症例とともに解決までに極めて永い時間がかかったことが特徴である。

 我々はこれらの公害事件を対岸の火事としがちだが、決して他人事ではなく、極めて身近なところにも有害汚染物質は潜んでいる。有害汚染物質の健康への影響は怪我や一般的な疾患と違い、微量であっても深く静かに時間をかけて進行し、体力のない子供や老人などに発症しやすく、特に胎児への影響は深刻であることが近年数多く報告されている。

 本来人間が安全で豊かに生活できるようにと考え出され、利用されてきた物質が、実は生命を脅かす危険性をはらんでいたとは、なんということだろうか。しかも、一旦汚染されると、自然の力で汚染される前の状態に戻ることは不可能に近い。しかし戻さなければ、我々大人への健康被害はもちろんのこと、将来を託す子ども達に重大な健康被害を生ずる危険性がある。健康への被害を最小限に、あるいは未然に防ぐ為に法律が制定されたわけであるが、これらの事件や有害汚染物質の健康への影響を取り上げた本を幾つか紹介し、読んでいただくことによって「法律制定の背景」を読み取っていただきたい。

沈黙の春 レイチェル・カーソン著 新潮書店
ISBN4-10-207401-5 1974/2/20 560円
◇概要:自然を忘れて近代化の発展に力の限りを注いできた人類だが、刻々と自然は破壊され、人類の体は蝕まれている。そして今、人類は何をしていくべきかを訴えかけた、自然保護と公害問題を主に書かれた環境のバイブルとも言える一冊。 五大湖の周辺では何が起こったのだろうか?
複合汚染 有吉 佐和子著 新潮文庫
ISBN4-10-113212-7 1979/5/25 640円
◇概要:工場からの汚染や合成洗剤の使用で河川汚濁が進行し、化学肥料や除草剤の大量投資で土壌は死んでいく。近代社会の発展と共に密かに進行してきた様々な汚染による影響はとどまる様相すらみせない。そのような状況から自然と生命の危機を訴え、多くの読者を震駭させた問題の作品。
辛酸 城山 三郎著 角川文庫
ISBN4-04-131013-X 1979/5/30 350円
◇概要:明治時代、渡良瀬川流域・谷中村では、足尾銅山から排出される鉱毒の遊水地計画が強行されようとしていた。この物語は、日本最初の公害問題に激しく抗議した正造のすさまじい生き様を鮮やかに描いた名著。 一人の国会議員“田中正造”が、被害住民とともに闘った鉱毒反対運動を扱い、埋もれていた史実に再び光を当てた。
奪われし未来
【増補改訂版】
シーア・コルボーン、 ダイアン・ダマノスキ、
ジョン・ピーターソン・マイヤーズ
翔泳社
ISBN4-88135-985-1 2001/1/31 1400円
◇概要:合成化学物質が人体へ与える影響としてこれまで言われてきた発ガン性だけでなく、ホルモン阻害作用をも示すという驚愕の事実を世間に訴えかけた本であり、多様な合成化学物質が、ホルモン分泌系の繊細な作用をどのように攪乱しているのかを鮮やかに描かれている。まさに今良く聞かれる「環境ホルモン」はこの本から始まったと言っても過言ではない。
 
土壌汚染対策法の概要

 土壌汚染対策法は、42条の条文と附則(5条)からなり、平成14年5月29日に公布された。施行は、本年2月15日である。同法の内容を簡単に紹介する。
1.法律の目的(第1条)
 本法の目的は第1条に明文化されており、「この法律は、土壌の特定有害物質による汚染の状況の把握に関する措置及びその汚染による人の健康に係る被害の防止に関する 措置を定めること等により、土壌汚染対策の実施を図り、もって国民の健康を保護することを目的とする」と国民の健康保護を最終目的とすることが書かれている。

2.有害物質の定義(第2条)
 第1条で言うところの「特定有害物質」については、第2条において「・・・政令で定めるものをいう」と定義している。「政令」とは「土壌汚染対策法施行令」のことで、カドミウム及びその化合物や六価クロム化合物など25種類の物質を特定している(詳しくは、当特集の【有害物質と基準値】に記載してある)。

3.土壌汚染状況調査(第3,4条)
 第3,4条には、「どの様な土地に、土壌汚染の状況を把握するための調査が義務付けられているか」が述べらている。調査が義務づけられているのは、次の2つのケースである。

(1)使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場又は敷地であった土地の調査
 使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場又は敷地であった土地の所有者、管理者又は占有者は、環境大臣が指定する調査機関に環境省令(※1)で定めた方法で調査させ、その結果を都道府県知事に報告しなければならない。ここでいう「有害物質使用特定施設」とは、水質汚濁防止法の第2条第2項で規定する特定施設で、詳しくは「水質汚濁防止施行令」に記載されている(環境省ホームページ参照)。なお、跡地利用の方法からみて人の健康被害が生ずる恐れがない旨の都道府県知事の確認を受けた時は、調査義務はない。
 
  ※ 1 「土壌汚染対策法施行規則」(環境省令第29号)

(2)土壌汚染による健康被害が生ずる恐れがある土地の調査
 現在使用中の土地であっても土壌汚染により人の健康被害が生ずる恐れがあると認められた場合、都道府県知事は、当該土地の所有者等に対し、「指定調査機関による汚染状況調査の実施とその結果報告」を命ずることができる。

4.指定区域の指定と台帳の調製(第5,6条)
 調査を実施した結果、汚染されていると判明した土地については、次のような対応をすることになる。
都道府県知事は、土壌汚染状況調査の結果を踏まえ、環境基準に適合しない土地については、汚染されている区域として指定・公示するとともに、指定区域の台帳を調製・保管しなければならない。また、閲覧請求は正当な理由がなければ拒否することはできない。

5.健康被害の防止措置(第7,8,9条)
 汚染している区域として指定され、しかも健康被害を発生させる可能性がある土地については、健康被害を防止するための措置を講じる必要がある。

(1)措置命令
 都道府県知事は、指定区域内の土地の土壌汚染により健康被害が生じたりその恐れがある場合には、土地の所有者等に対し、汚染の除去等の措置を講ずる命令を出すことができる。
ただし、明らかに所有者等以外の者の行為が汚染原因になっている場合であって、この原因者に防止措置を講じさせることに所有者等に異議がないときは、汚染原因者に対し、汚染の除去等の措置を講ずる命令を出すことができる。
なお、汚染の除去等の措置に関する技術的基準は、環境省令(※1)で定めている。

(2)措置に要した費用の請求
 都道府県知事の命令を受けて土地の所有者などが汚染の除去等の措置を講じたときは、汚染の原因者に対し、措置に要した費用を請求することができる。ただし、「措置を講じ、汚染原因者を知った時から3年間請求をしないとき」と「措置を講じてから20年を経過したとき」は、時効によって請求権は消滅する。

(3)土地の形質の変更届出及び計画変更命令
 指定区域内における「無秩序な土地利用」に歯止めをかける条文である。指定区域内において土地の形質を変更しようとする者は、着手する14日前までに施行方法等環境省令(※1)で定める事項を都道府県知事に届けなければならない。都道府県知事は、その施行方法が環境省令で定める基準に適合しないと認めるときは、届出を受理した日から14日以内に限り、施行方法に関する計画の変更を命ずることができる。

6.指定調査機関(第10〜19条)
 指定調査機関としての指定(※2)は、土壌汚染状況調査を行おうとする者の申請により、環境大臣が行う。指定をしたときは、その旨を公示しなければならない。指定調査機関は、土壌汚染状況調査の業務に関する規定(業務規定)を定め、調査の業務開始前に環境大臣に届けなければならない。

※2 環境省環境部管理局水環境部土壌環境課のホームページに掲載されている 「土壌汚染対策法に基づく指定調査機関の指定手続き等について」によれば、指定機関の第1回申込は、昨年の12月13日に締め切られている。第2回は、今年の4〜5月頃に予定している 。

7.指定支援法人(第20〜28条)
 全国を通じて1個に限り支援指定法人(※3)が環境大臣により指定され、次の業務を行う。

・ 措置を講ずるものに対して助成を行う地方公共団体に対し、助成金を交付する。
・ 土壌汚染状況調査や措置等についての助言を行う。
・ 汚染が人の健康に及ぼす影響に関し、知識の普及と啓発を行う。
・ 基金の設置。

※3 新聞報道によれば(日刊工業新聞、2003年1月24日)、(財)日本環境協会が指定された。

8.そ の 他(第29〜42条)
 土地の所有者等に対する「土壌汚染に関する調査や措置の実施状況についての報告や立ち入り検査」に関することや、違反したものへの罰則規定等が定められている。また、都道府県知事の権限の一部は、政令(※4)で定める市(例えば中核市)の長に委譲できる。

※4 「土壌汚染対策法施行令」

【附    則】(第1〜5条)
 附則には、施行期日に関する「この法律は、公布の日(※5)の日から換算して9月を超えない範囲で政令の定める日(※6)から施行する」や制令への委任、あるいは法律の施行後10年経過したときの検討などが明文化されている。

※5 平成14年5月29日
※6 平成15年2月15日

○「土壌汚染対策法」に係わる法律、政令、省令

 「土壌汚染対策法」に係わる法律、政令、省令は、対策法の条文を読んで行くに従い「幾つあるのか?」疑問に思うほど随所にでてくる。
 そこで、「いさぼう」では対策法に登場する法律や政令、省令をまとめ、どこに何が書いてあるのか把握することにした。主立った内容をまとめたのが次の表である。
 なお、「水質汚濁防止法」に関するものについては、土壌汚染対策法に規定された内容だけ記載した。また、「排水基準を定める省令」については、参考として掲載した。



法 律 政 令 省 令
 国会で制定された規範を示し、憲法・条約・命令などから区別される法の一形式
 
 内閣が制定する命令で、「憲法および法律の規定を実施するためのもの(執行命令)」と、「法律の委任した事項を定めるためのもの(委任命令)」の二種がある。   各省大臣がその主任の事務につき発する命令。








土壌汚染対策法
平成14年5月29日

 

土壌汚染対策法施行令
  平成14年11月13日

・特定有害物質の規定
・土壌汚染状況調査の対象となる土地の基準
・措置命令の対象となる土地の基準
・土地の所有者等に対する措置命令
・土壌汚染を生じさせる行為をした者に対する措置命令
・調査、指定区域の指定、措置の命令を使用とするときにあらかじめ協議を必要とする土地の規定
・都道府県知事の権限の一部が代行できる市長の規定

 

土壌汚染対策法施行規則
平成14年12月26日

・汚染状況の調査方法
・汚染状態の基準
・指定区域の指定の公示
・指定区域台帳の記載事項等
・汚染の除去等措置の技術的基準
・土地の形質の変更の届出、施工方法に関する基準
 

土壌汚染対策法に基づく指定調査機関及び指定支援法人に関する省令
平成14年11月15日

・指定調査機関の指定の基準
・業務規定の記載事項








水質汚濁防止法
昭和45年12月25日
  

(「土壌汚染対策法」第三条にて規定)
・有害物質使用特定施設
・特定施設の使用廃止の届出

水質汚濁防止法施行令
昭和46年6月17日
(最終改正:平成14年11月1日)

・特定施設の規定(別表第一)
 

 

水質汚濁防止法施行規則
昭和46年6月19日
(最終改正:平成13年11月28日)

・特定施設の使用の廃止に係る届出の様式と部数
 

排水基準を定める省令
昭和46年6月21日
(最終改正:平成13年6月13日)

 

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