 【出版社】:新潮社
【ISBN】:
4101117039
(1985/08出版
)
【ページ】:230p (文庫判)
【本体価格】:\400(税別)
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『高熱隧道』 【著】吉村 昭
初夏の新緑から秋の紅葉まで渓谷の自然美を堪能させてくれる黒部峡谷鉄道が、太平洋戦争開戦の5年も前に開通したことを知っている人は意外と少ないだろう。黒部峡谷鉄道は、昭和11年6月に日本電力株式会社(戦争遂行のために設けられた電力国家管理法にもとづいて、後に解体された)によって開通された資材運搬用の軌道である。
土木分野に携わる人達に読んでいただきたい一押しの一冊が、その日本電力株式会社が計画した黒部第3発電所工事を扱った吉村昭の小説『高熱隧道』(新潮社)である。工事は、昭和11年8月に始められた。千人谷での取水用ダムの構築・取水口・沈砂池の建設、千人谷から欅平までの水路・軌道トンネル(総延長約5.2q)の掘削、欅平の発電所建設工事が主なもので、3工区に分けて発注され最も下流側の工区は現在のスーパーゼネコンである大林組が受注している。最上流工区のトンネル705bが、タイトルにもなっている高熱隧道である。ダイナマイトの自然発火など、作業は困難を極め、第一工区と第2工区を請け負った佐川組の犠牲者は233名に及んでいる。岩盤温度は想像を絶するもので吉村は、
『岩盤温度は、特に千人谷側坑道で上昇がいちじるしく摂氏130度を突破、また阿曽原谷側坑道でも140度台を常時記録するようになっていた。そして熱湯の噴出による火傷事故も何度か起こって………』
と書いている。また、黒部のような山岳地帯では、地下深部の高温岩盤だけではなく全てを包み込む純白の雪も時として牙をむく。第二工区の志合谷では、音速の3倍以上の速さを持つとされる爆風を伴うホウ(泡)雪崩が発生し、鉄筋5階建て宿舎の2階以上が忽然と消え、75名の尊い命を奪っている。
資材、機械、工法、どれを取っても現在よりもはるかに劣る状況の中で、工事は昭和15年11月21日に完工した。自然の圧倒的な力と人間の持つ可能性を改めて感じさせてくれる本である。知取気文庫に1冊揃えたので、是非読んでもらいたい。 【文責:知取気亭主人】 |