現在行われている地すべりの機構解析・安定解析は、地表地質踏査→主断面を設定→ボーリング調査→すべり面形状の推定→地下水位の観測→すべり面挙動の計測の後、それらを総合的に判断し地すべりモデルを構築して計算を行なっています。
また、その中で土質試験が行われることもたまにありますが、その試験結果をそのまま安定計算に適用すると現状の安定度が説明できないことがあり、結局は逆算法による安定計算が実施されているのが大半です。
RocScience社の「Phase2」ではこれらの問題を解決するため、FEMを用いた斜面安定評価手法であるせん断強度低減法を用いています。フェレニウス式に代表される極限平衡法と比べると、FEMの最大の特徴は、“変形”が評価できる点にあります。これを更に拡張すると、「最危険すべり面が自動的に求まる」、「局所破壊を取り扱える」など、FEMならではの利点が生まれてくるのです。
せん断強度低減法では、まず、斜面の抵抗力R を過大評価するところから始めます。先ず、Fs =0.10のように小さなFs を与え、低減率1/Fs =10(増幅になる)をR に乗じます。この場合、本来のR の10倍のせん断強度(10倍の粘着力、10倍の摩擦係数)を地盤に見込んだこととなり、実質的に地盤は破壊しません。次に段階的にFs の値を増加(例えばFs=0.10、0.20、0.30など)させていきます。逆に言えば、これは、地盤のせん断強度を徐々に下げていくことになります。すると、FEMモデルの中ではこのように徐々に強度を下げることにより、斜面の潜在的に弱い部分から地盤の塑性化が始まるのです。そしてさらに、せん断強度を低下させていくと、地盤内の塑性域が斜面上部から末端までつながり、すべり面が完成します。その時点ですべりが生じたと判断すれば、徐々に増加させたFs の、そのときの値が安全率Fs となります。
せん断強度低減法の長所としては、@変形量、変位量の議論ができる、Aすべり面の形成過程を表現できる、B局所すべりを表現できる、などその利用範囲は技術者のノウハウに追随し、大いに拡張することができます。ただその一方でCすべりが生ずると判断する明確な基準がなく、解析者によって、判定がずれる危険性もありますが、技術者にとって自らの考えを表現するまたとないツールと言えます。
ここで「Phase2」で行う、具体的な処理・扱いを簡単に説明します。せん断強度低減法は全応力解析手法であり、斜面の強度定数を徐々に低減し、斜面全体が崩壊した時点で全体安全率を定義する方法です。具体的な計算方法を示します。土のせん断強度τfは下式のモールクーロン式により与えることができます。ここに、cは粘着力、φはせん断抵抗角、σはすべり面上の垂直応力です。

せん断強度低減法では土のせん断強度を係数Fで割った形で示されます。
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Fに小さな値を与えるとせん断強度は大きな値となり、モールの応力円はモールクーロンの破壊線から外れ、応力状態は弾性状態になります。Fが徐々に大きくなると、せん断強度は徐々に小さくなり、次第にモールの応力円はモールクーロンの破壊線に近接します。あるFに対して、モールの応力円は、モールクーロンの破壊線を越えてしまいますので、モールの応力円とモールクーロンの破壊線が接するように応力補正が行われます。この応力補正を行った際のアンバランスな力は、残差力として節点に与えられます。残差力による変位が所定の収束判定に収まるまでこの計算を繰り返し行います。ある時点でFEM計算が発散しますので、この時点のFの値を全体安全率として定義します。
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