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 スーパーコンピュータの活躍と次世代スーパーコンピュータ
 

 前回から数ヶ月過ぎてしまいましたが、その間に前回の記事でご紹介したTOP500とGraph500の最新ランキング(2015年11月)が発表されました。今回はそれらのランキングと次世代スーパーコンピュータについてお伝えしようと思います。

 表1と表2は、それぞれTOP500とGraph500の上位5位までのランキングです。TOP500は密行列の連立1次方程式を解く性能のランキングで、Graph500は交通渋滞問題の解決やビックデータ解析などで用いられるグラフ理論の処理性能によってランキングされています。(詳しくは前回の記事を参照して下さい。)

表1 2015年下半期のTOP500
順位 スーパー
コンピュータ
1 天河2号 中国
2 Titan アメリカ
3 Sequoia アメリカ
4 日本
5 Mira アメリカ
表2 2015年下半期のGraph500
順位 スーパー
コンピュータ
1 日本
2 Sequoia アメリカ
3 Mira アメリカ
4 JUQUEEN ドイツ
5 Fermi イタリア

 TOP500とGraph500共に、前回のランキングと同じ結果になりました。日本の京は、 TOP500では4位、Graph500では1位となりました。

 また、電力対性能のランキングGreen500も発表されました。これはTOP500の結果を元に、キロワットあたりの性能でランキングされています。ということは、上位のスーパーコンピュータほど、一定の性能を達成するための電力が少なく、低消費電力なスーパーコンピュータであるといえます。

 表3はGreen500の上位5位までのランキングです。

表3 2015年下半期のGreen500
順位 スーパー
コンピュータ
1 Shoubu(菖蒲) 日本
2 TSUBAME-KFC/DL 日本
3 ASUS ESC4000 FDR/G2S ドイツ
4 Sugon Cluster W780I 中国
5 XStream アメリカ

 なんと!1位は理化学研究所に設置されているShoubu(菖蒲)、2位は東京工業大学のTSUBAME-KFC/DLとなり、日本のスーパーコンピュータが1位と2位を獲得しました。前回(2015年6月)のGreen500では、日本のスーパーコンピュータは1位から3位まで独占していました。日本が2期連続でGreen500の上位を獲得したのです。

 スーパーコンピュータはとんでもない電力を必要とします。京の場合、一般家庭の約3万世帯に相当する電力が必要と言われている※1ため、電力コストは一般家庭では考えられないぐらいの価格になります。したがって、スーパーコンピュータ開発において消費電力を抑えることは、電力コストを抑えることを意味するため至上の命題なのです。

 日本がGreen500で上位を獲得できたということは、日本には消費電力を抑える技術が他国より優れているということです。これらの技術を応用することで、低消費電力で地球に優しいエコなスーパーコンピュータが期待できます。

 さて、京が稼働してから既に2年以上経ちました。その間に、大学や企業が京を利用して、土木建築、医療、材料解析、自動車産業など様々な分野で大きな成果を上げています。それらの成果は、高度情報科学技術研究機構のホームページで公開されています。(http://www.hpci-office.jp/pages/user_report)

 例えば、土木建築分野では、阪神高速道路株式会社が「巨大地震による阪神高速道路湾岸線の地震応答シミュレーション」と題した高架橋の損傷把握に関する研究で、京を利用して地震応答解析※2を行っています。計算時間の観点から一般のコンピュータでは非現実的な大規模モデルの解析が、京を使うことで可能となりました。この研究では、路線レベルでの大規模な地震応答解析を行っています。

 また、防災分野では、東北大学災害科学国際研究所が「津波の予測精度の高度化に関する研究」に京を利用しています。この研究の成果の1つとして、京の処理能力により東北地震津波の2時間分の浸水シミュレーションを96秒で完了できたと報告しています。これは、大規模な地震が発生した直後に、京で浸水シミュレーションを行うことで、即時に浸水ハザードマップが作成でき、住人の避難の大きな助けになるといえます。

 話は変わりますが、先日、知人との会話の中で「京の後継機は開発していないの?」との質問を受けました。

 実は数年前から既に、エクサスケールコンピュータというキーワードを掲げて、日本だけなく、アメリカ、中国やヨーロッパで次世代スーパーコンピュータの開発と研究が行われています。

 エクサスケールコンピュータとは、1秒間に1018回の浮動小数点数演算※3を行うコンピュータです。これは京の100倍です!

 

 日本のエクサスケールスーパーコンピュータ開発は理化学研究所が中心となり、東京オリンピック開催年である2020年完成を目標としています。

 エクサスケールスーパーコンピュータが実現されたらどんな成果が得られるでしょうか?先で述べた浸水シミュレーションや地震応答シミュレーションでは、より広域で、より高精度な成果がもたらされるのは間違いないでしょう。 それだけでなく、新薬や自動車の開発など様々な分野を発展させるでしょう。

 このような発展の可能性を秘めるエクサスケールコンピュータですが、これを完成させるためには大きな壁が沢山あります。

 京を拡張することで簡単に実現できるのではないの?と思われる人もいるかもしれませんが、そうは問屋がおろしません。

 例えば、京の内部には非常に多くの機器が存在します。エクサスケールコンピュータでは機器の数は更に増加すると言われています。故障の観点から見ると機器が多いほど、稼働中に故障してしまう可能性は増加します。

 このことをCPUで見てみると、京(82944個のCPUを搭載)では月あたりの故障率は0.0002%から0.0006%と報告されています※5。すなわち、月に3〜4個のペースでCPUが故障しているといえます。単純に、京のCPUの個数を100倍にしたエクサスケールコンピュータでは、月あたりのCPUの故障数は300〜400個となってしまい、数時間に1つCPUが故障してしまう計算になります。このようなシステムは計算が途中で止まってしまう可能性が高く、信頼性が非常に低いです。また、メンテナンス性も低くなってしまいます。

 そのため、京の拡張だけでは困難なのです。エクサスケールコンピュータの開発には、これまでの経験を活かしつつ、エクサスケールに対応した抜本的な技術を開発しなければならないのです。

 今回は、現在のスーパーコンピュータのランキングと成果、そして、次世代のエクサスケールコンピュータについてお伝えしました。2020年の東京オリンピックも楽しみですが、同時期に登場予定の次世代スーパーコンピュータからも目が離せません。

※1 富士通,スーパーコンピュータ「京」の電力消費はどれくらいですか?,http://www.fujitsu.com/jp/about/businesspolicy/tech/k/qa/k04.html
※2 地震応答解析については、いさぼうネット内の「等価線形化解析と時刻歴応答解析の比較をしてみました」で地盤を対象として実際に計算をしています。
※3 浮動小数点演算とは小数に対する演算処理のこと。
※4 フロップスとは1秒間に浮動小数点演算できる回数のこと。
※5 F. Shoji, S. Matsui, M. Okamoto, F. Sueyasu, T. Tsukamoto, A. Uno and K. Yamamoto, ”Long term failure analysis of 10 petascale supercomputer,” 理化学研究所, http://www.aics.riken.jp/en/wp-content/uploads/sites/2/2015/11/Presentation.pdf

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