前回までに降伏震度、地震波の設定が終わりました。
今回は、実際に計算をしてみようと思います。
4. 実際にニューマーク法の計算をしてみました
降伏震度が決定し、地震波が決定したら、あとは計算するだけです。
ニューマーク法の式に則って時間積分をしていきます。
Excelなどでも計算できますが、スライスの慣性モーメント*などを求めるのが手間ですので、今回は五大開発(株)の PowerSSA Pro を利用しました。
このソフトでは、スライス底面の円弧形状の慣性モーメントもしっかり計算しています。
* 手裏剣、ブーメラン、竹とんぼ。子供の頃、こういったものをよく回して飛ばしていました。形に凝ったり、大きさに凝ったりしました。そういった時、大きいものを回そうとすると回り辛かったし、重いものを回そうとするとやはり回り辛かったと思います。ピザを作る時も大きなピザは難しいですよね。こういった、物の形状や重さによる回り辛さを表す物理量が慣性モーメントです。
ニューマーク法で計算した時刻歴の残留変形量と地震波と降伏震度を表したものがこちらになります。
波形の方を見ますと、降伏震度がマイナス側に表示されています。
これは地震波形の正負の両方で計算したからです。降伏震度がマイナス**というわけではありません。
** 常時安全率Fs=1を下回るような場合には、降伏震度がマイナスになる可能性もあります。例えば、水平震度kh=0.2でFs=1.2を満足するような断面であればそんなことにはなりません。水平震度kh=0の場合に静的安全率が1を下回るような場合に降伏震度がマイナスになります。通常、水平震度khは、Fsを下げる方向に働きます。一方、降伏震度kyはFs=1となる場合の水平震度ですから、安全率が1以下ですと、khによってFsが上昇しないとFs=1を満足しません。このような場合、マイナスの水平震度が作用し、安全率を1にするようになります。その結果、降伏震度がマイナスとなって出てきます。現実的ではないですね。利用したPowerSSA Proでは、降伏震度がマイナスとなるような場合、降伏震度ky=0となっています。すなわち、地震に対する抵抗力が皆無であるということを表しています。
ニューマーク法では、地震波の正値の部分が斜面を滑らせる方向に作用するようになっています。
とはいえ、必ずしも地震が正方向に作用するとは限りません。
正負反対の地震波を用いるとどうでしょう?同じ地震でも正負で分けて考えると、その波形の形は全く違いますので、最終的に違った結果になる事が多いです。
そこで同じ地震波形の正負両方の波形を使って計算をしています。計算結果を見て、より変形が大きい方を選択しています。
(参考: 『NEXCO 設計要領 第一集 土工編 6-26』)
さて、今度は得られた残留変形量の値についてみてみましょう。
今回用いた地震波形では地震後に残留変形量***が2.5m程度でてしまいました。
こうなりますと『鉄道・耐震標準 解説表14.4.2、14.4.3』の分類ですと【復旧に長期間を有する被害】になり、地震後に緊急車両が通過できないなどの問題があります。
あるいは、ため池堤体や河川堤防の場合、H.W.Lより下に天端がくるようなことになれば越流の危険性があります。大変、危険です。
では、どのようにすれば被害を軽減できるのでしょうか?
*** ニューマーク法の残留変形量は回転角θが小さいとしてδ=Rθで定義されています。本来はδ=Rsinθである所を変形が小さいためδ=Rθという形で定義しています。
5. どうすれば残留変形量が小さくなるのだろう?被害を軽減できるのだろう?
降伏震度が大きいと、それだけ地震に対して強いという意味になりますので、降伏震度をあげることが考えられます。
降伏震度をあげるためには、安全率をあげれば良いのです。
地震時の変形量を軽減するための1つの方法として、地盤改良があります。
今回は、路体部を改良土とする事を想定します。
どの程度改良すれば良いかが問題となってきますので、試しに粘着力C=5kN/m2、10kN/m2、20kN/m2の3つのケースで考えてみました。
なお、上図のように強度定数を変更して、再度、最小降伏震度を計算しますと、前回とは違う円弧が最小降伏震度の円弧になることもあります。
違う円弧が最小降伏震度となった場合には、そちらを選択して計算する事もできます。
それは残留変形量が最大の円弧を採用することを意味しています。
改良によって最小安全率のすべり面が変わったことを意味します。
変化した円弧を採用する場合、たとえば、
① その円弧を用いて残留変形量を求めます。
② その値がまだ想定より大きい場合には、更に改良土の強度定数を変化させます。
③ 再度、降伏震度を計算します。
④ 降伏震度が最小の円弧を選択します。
⑤ ①に戻ります。
こういう操作を繰り返すことで、残留変形量が最大の円弧を得る事ができます。
すなわち【この想定地震では、変形量が一番大きな円弧でも〇〇cmとなります】という言い方ができるようになります。
ただし、今回は、話を分かり易くするために同じ円弧を選択して計算しています。
計算結果です。
粘着力C=0、5、10、20 kN/m2とした場合の残留変形量をグラフにしたものがこちらです。
改良前に比べると、どの場合でも残留変形量が低下しているのがわかります。
ただし、『鉄道・耐震標準 解説表14.4.2、14.4.3』を参考にしますと、
C=5kN/m2の場合には、約50cmの残留変形量が発生しており、【復旧に長期間を有する被害】となります。
したがいまして、被害程度としては粘着力がC=0kN/m2の場合と変わらず、対策の効果が低いと判断せざるを得ません。
一方、粘着力がC=10kN/m2の場合には12.4cmとなり、C=20kN/m2の場合には1cmとなります。
したがって、C=10kN/m2以上となるように改良を行いますと、『鉄道・耐震標準 解説表14.4.2、14.4.3』でいう【軽微な被害】となり、被害の程度が小さくなります。
今回の計算例では粘着力Cを10kN/m2以上とすることが被害を抑える上で有用な対策となります。