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 『落石対策便覧』:「有意な傾斜」とは、どういった意味か?
2018.12.13

 

 『落石対策便覧』に記載のある「有意な傾斜」とは、どういった意味か? 設計者の中でも見落としてしまうような項目です。 その回答を土木研究所が掲載しておりますので、今回は、その内容について述べてみます。

 新しくなった『落石対策便覧』では、高エネルギー型防護工(特殊製品)に関して、実験による性能検証方法が明記されています。
 これらの内容は土木研究所の研究資料「高エネルギー吸収型防護工等の性能照査手法に関する研究(平成29年3月)」(以下、共同研究報告書)を基に掲載されているものです。ホームページには共同研究報告書に対する質問と回答が公開されており、この内容について解説します。

質問の内容は次の3つです。
Q1.性能3がないのはなぜか
Q2.脚注1にある有意な傾斜とは何か
Q3.ポケット式落石防護網の実験において重錘を捕捉したとしても支柱に有意な傾斜が生じるあるいは支柱が転倒し、ワイヤロープおよび阻止面等も補修が必要な場合、一時的に要求性能3に相当する限界状態と考えてよいのか、あるいは定量的な評価は困難になるのか

 質問だけでは、よくわからないと思います。この3つの質問は、共同研究報告書P154 表2.1および表2.2に示されているもので、『落石対策便覧』では、P159 表5-4 P180 表5-10に示されています。脚注1とは、これらの表に記載されている”支柱基部がヒンジの場合には、有意な傾斜を生じないこと“と示されている定義について質問しています。

これに対しての回答は
A1.落石防護網・柵などの柔構造の落石防護工では性能2と性能3の限界状態にほとんど差がない場合が多いこと、多様な製品のすべてに適合するような限界状態を具体的に規定することが難しいことから表では性能2までの例を記述しています。

A2.補修しなければ性能に影響を及ぼす傾斜です。

A3. 『落石対策便覧』(日本道路協会平成29年12月)147頁によれば、各性能に対応した具体的な限界状態は、落石防護施設の種類や特性、設置位置等によって異なるため、落石防護施設の構造形式、想定される被災パターンと修復の難易、立地条件と周辺への影響、道路の社会的役割等を総合的に勘案して定めることになります。本件の場合においても道路管理者が実験の状態を要求性能に対する限界状態として許容するのかどうかによるものと考えます。

といった回答です。

表2.1 落石防護網の主要構成部材毎の一般的な限界状態(例)
性能水準 阻止面 支柱 ワイヤロープ※2 支柱基礎、アンカー
性能1 損傷が生じない、もしくは損傷が軽微で部材交換を要しない限界の状態 力学特性が弾性域を超えない限界の状態※1 力学特性が弾性域を超えない限界の状態 力学特性が弾性域を超えることなく、支柱基礎またはアンカーを支持する地盤の力学特性に大きな変化が生じない限界の状態
性能2 損傷の修復を容易に行いうる限界の状態 力学特性が弾性域を超えない限界の状態※1 損傷の修復を容易に行いうる限界の状態※3 副次的な塑性化に留まる限界の状態
※1:
落石が支柱を直撃したときに損傷や変形が生じるのはやむを得ないが、支柱の損傷が全体系の崩壊等につながらないとともに、比較的容易に修復が可能でなければならない。
支柱基礎がヒンジの場合には、有意な傾斜を生じないこと
※2:
緩衝装置を装着した防護網においては、各性能水準に対して各緩衝装置に設定されている変形量・移動量以内であること。
※3:
例えば、ワイヤロープの締め直し等で復旧が可能な状態であること。

表2.2 落石防護柵の主要構成部材毎の一般的な限界状態(例)
性能水準 阻止面 支柱 ワイヤロープ※2 基礎
性能1 損傷が生じない、もしくは損傷が軽微で部材交換を要しない限界の状態 力学特性が弾性域を超えない、もしくは有意な傾斜を生じない限界の状態※1 力学特性が弾性域を超えない限界の状態 力学特性が弾性域を超えることなく、基礎を支持する地盤の力学特性に大きな変化が生じない限界の状態
性能2 損傷の修復を容易に行いうる限界の状態 力学特性が弾性域を超えない限界の状態※1 ※1
損傷の修復を容易に行いうる限界の状態※1 ※3
力学特性が弾性域を超えない限界の状態※3
損傷の修復を容易に行いうる限界の状態※4
副次的な塑性化に留まる限界の状態
※1:
落石が支柱を直撃したときに損傷や変形が生じるのはやむを得ないが、支柱の損傷が落石防護柵全体系の崩壊等につながらないとともに、比較的容易に修復が可能でなければならない。 また、支柱基礎がヒンジの場合には、有意な傾斜を生じないこと
※2:
摩擦系の緩衝装置を装着した防護柵においては、性能2に対して許容すべり量以下であること。
※3:
支柱に塑性化又は主たるエネルギー吸収を考慮する場合
※4:
ワイヤロープに塑性化又は主たるエネルギー吸収を考慮する場合

 一般的にポケット式落石防護網の支柱は、ヒンジ形式のものが多く、防護柵の支柱は固定されている製品が多いため、ポケット式落石防護網について解説します。

①落石の捕捉性能について
 ポケット式落石防護網の支柱は、落石を捕捉するための高さが必要です。支柱の高さは落石の規模や跳躍量、横ワイヤロープの垂下量によって決めていますが支柱の傾斜までは考慮していません。傾斜すると落石が捕捉できなくなることに繋がるため、落石が衝突した場合でも支柱の傾斜が全くないというのが設計者にとっては理想です。

有意な傾斜とは? 画像01
(『落石対策便覧』P157〜P158)より

A支柱の損傷が全体系の崩壊等につながらないとともに、比較的容易に修復が可能でなければならないようにすることが前提
 これは、支柱の補修規模を想定していると言えます。落石が支柱に衝突した際、支柱が損傷したとしても補修が容易であれば良いということです。これについては、何本の支柱を取り替える必要があるのか?また、どのくらいの日数が必要になるのかを確認することになると思います。イニシャルコストだけでなく、補修費用や日数なども考慮した比較が必要になるかもしれません。

③従来型ポケット式落石防護網は?
 ちなみに、従来型の場合は、「支柱が1本ないし2本破損したとしても・・・支柱および横ロープが比較的蜜に配置されていることもあり、このような場合においても全体的な崩壊には至っていない事例が確認されている。」(『落石対策便覧』P156①)の記載があるように従来型については、支柱の損傷評価については、問題にならないようです。

 特殊製品(ここでは、高エネルギー吸収型)については、回答3にあるように発注者が「その性能でいいよ」と了解があれば、その限りでないということになります。ただし、その判断材料は、回答にもあるように様々な視点で捉える必要があります。便覧が改定されたばかりであることから事例も少なく、議論が長引く可能性もあることから、特に指定が無い場合は、「有意な傾斜を生じない」ようにすることが良いかもしれません。

国立研究開発法人土木研究所HP:https://www.pwri.go.jp/
寒地土木研究所 研究内容と成果:http://kouzou.ceri.go.jp/profile/04.html

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