落石対策工を設計する上で、「落石対策便覧」は必須の参考書です。
その落石対策便覧が17年振りに改訂されました。皆さん相当長く待たれたのではないでしょうか。
この間に新たな法令が定められたり、本文にも記載がありましたが、ゲリラ豪雨といった用語も17年前には無かったものが反映されています。
17年の間に落石対策関連の工法や製品が多様になりました。特に、高エネルギー吸収対応型の製品が増加し、「落石対策便覧」では、説明できないものも増えてきたと感じています。
今回、新落石対策便覧を斜め読みして、目立った追加事項や変更内容を11項目挙げてみました。
<「落石対策便覧」主な追加・変更点>
1.落石予防工に「ロープ伏せ工」が追加されました。
2.落石予防工に「覆式落石防護網工」が明記されました。
3.「落石対策施設の要求性能」が明記されました。
4.覆式落石防護網の計算方法(横ロープの張力)が変わりました。
5.ポケット式落石防護網が3つに分類されました。
6.ポケット式落石防護網の作用位置、余裕高が明記されました。
7.ポケット式落石防護網の構造細目について金網が追加されました。
8.落石防護柵の余裕高に関する内容が追加されました。
9.落石防護柵の端末支柱の設計方法が追加されました。
10.基礎における柵支柱根入れ部のかぶりの照査が変更。
11.実験による性能検証に関する内容が追加されました。
その中には、高エネルギー吸収対応型の製品について、実験方法などを定めております。もちろん詳細については、実際にご購入頂き、確認してください。
今、設計している方への留意事項としてご覧頂ければ幸いです。なお、内容については今後、間違いとして、道路協会から発表されることも考えられますので、最新情報に十分注意して頂くようお願いいたします。
▽「落石対策便覧(H29改訂版)」(日本道路協会)
http://www.road.or.jp/books/index5.html
※図書の購入をご希望の方は、上記URLを参照頂き、丸善さんのホームページより購入できます。
1.落石予防工に「ロープ伏せ工」が追加されました。
ワイヤロープを格子状に組むなどしてネット状にしたもので浮石や転石を覆い、ワイヤロープの交点にアンカーを打設し斜面上に固定させるものである。ワイヤロープの間隔を狭めることで、比較的小規模な浮石、転石を固定することも可能となる。
落石対策便覧より
表: いさぼうネットで該当する工法
※いさぼうネット独自調べ
今までは、“伏工”、“密着型安定ネット工”といった呼び方でした。治山関連ではロープネットと呼ばれている場合もあります。これらは、落石対策便覧では「ロープ伏せ工」となります。
2.落石予防工に「覆式落石防護網工」が明記されました。
落石の発生を防止するため、落石の発生が懸念される斜面全体を金網とワイヤロープで覆うもので、万一落石が発生した際には金網と地山との間で落石を誘導し斜面下方に導くものである。その際、網裾まで誘導した落石が道路空間の安全性を侵さないようにしなければならない。小規模の落石が発生しやすい斜面または基礎岩盤から岩塊がはく離、はく落しやすく、落石の危険性がある斜面に適した工種である。
落石対策便覧より
今までは、落石防護網工として表現されていましたが、覆式は防護工なのか予防工なのかとよく議題として挙がっていたと思われます。新便覧では、予防工として適用されました。
3.「落石対策施設の要求性能」が明記されました。
予防施設 |
供用中に点検等により変状等が生じた場合には必要に応じて通行規制や補修・補強等が行われることを前提に「3-2-3落石予防工の種類と特性」を踏まえ適切な工法を選定し、過去の経験に基づく慎重な設計を行うことで、所定の性能を満足するものと考えてよい |
防護施設 |
落石の作用に対する防護施設の安定性や部材の郷土、変形等について、防護施設の状態が要求性能を満足することを照査する。 |
4.覆式落石防護網の計算方法(横ロープの張力)が変わりました。
旧便覧でのTは、新便覧ではTA、TBになりました。w=5.0,l=4.0mで計算すると,旧の値は25.000(kN),新の値は26.926(kN)と旧に比べ僅かに大きな値となります。そのため、新便覧で計算すると安定度を下回る可能性がありますので注意が必要です。
5.ポケット式落石防護網が3つに分類されました
(1)従来型ポケット式落石防護網 |
「5-5-6慣用設計法」に示す適用範囲、仕様で設計されるポケット式落石防護網 |
(2)高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網 |
緩衝装置や緩衝機構を組み込んだり、支柱間隔を大きくとって構造全体系でエネルギーを吸収すること等により、従来型の適用範囲を超える大きな落石エネルギーに対応するもの。 |
(3)その他のポケット式落石防護網 |
(2)のように適用範囲は大きくはないが、(1)の従来型とは使用材料や構造等の一部が異なるもの。 |
6.ポケット式落石防護網の作用位置、余裕高が明記されました。
阻止面上端は落石の最大跳躍量(落石衝突高)に落石半径以上、かつ少なくとも0.5m程度の余裕高を確保した位置とするのがよい。
7.ポケット式落石防護網の構造細目について金網が追加されました。
金網の線径は最低でもφ3.2mmを用い、落石外力が大きめ、ないしは腐食しやすい環境の下ではφ4.0mm程度を用いるのがよい。
従来型の防護網は、金網・ロープのコンビネーションが定まっていることが多く、金網の線径だけを変えた場合、市場単価を用いることができるかどうか。また、一部の部材仕様だけ変更できるのかを予め確認する必要があります。変更できない場合は、金網の線径に見合ったワイヤロープを用いることになります。
8.落石防護柵の余裕高に関する内容が追加されました。
落石衝突高に落石半径以上、かつ少なくとも0.5m程度の余裕高を設けるのがよい。
9.落石防護柵の端末支柱の設計方法が追加されました。
10.基礎における柵支柱根入れ部のかぶりの照査が変更
旧 |
新 |

h:柵高 |

h2:基礎天端からの作用高 |
今までは、作用位置は柵高の2/3でした。落石の衝突位置と計算に用いる作用位置が異なるといった問題がありましたが、新便覧では作用高を用いるようになっています。これにより、落石の衝突位置に見合った計算結果を得ることができます。
11.実験による性能検証に関する内容が追加されました。
ポケット式落石防護網、落石防護柵の実験で証明している製品(特殊製品)については、条件などが詳しく記載されております。ここでは、その内容を簡単に記しました。
|
ポケット式落石防護網 |
落石防護柵 |
供試体 |
実物大を原則とする。 |
実物大を原則とする。 |
支柱本数、支柱間隔、阻止面の高さは任意とするが、それらを現地に適合する場合の最低構成とする。 |
検証対象の構造体の3スパン(支柱4本)を標準とする。支柱間隔は任意としてよいが、供試体の延長を現地に適用する場合の最低設置延長とする。 |
落石エネルギーレベルに応じて、構造体の仕様が複数用意されているような場合には、原則としてそれぞれに対して性能検証を実施する。 |
落石エネルギーレベルに応じて、構造体の仕様が複数用意されているような場合には、原則としてそれぞれに対して性能検証を実施する。 |
供試体の個数は、1体以上とする。 |
供試体の個数は、1体以上とする。 |
実験方式 |
斜面滑走式、転落式、振り子式等、任意とする。 |
斜面滑走式、転落式、振り子式、鉛直落下式等。 |
重錘形状・材質 |
多面体、コンクリート、密度2,300〜3,000kg/m3を基本とする。 |
多面体、コンクリート、密度2,300〜3,000kg/m3を基本とする。 |
衝突速度 |
25m/s以上を標準とする。 |
25m/s以上を標準とする。 |
入射角度 |
阻止面に対し垂直を基本とする。 |
阻止面に対し垂直を基本とする。 |
載荷位置 |
水平方向にはスパン中央、鉛直方向には設計上の落石衝突位置とすることを基本とし、実験精度等を踏まえ設定する。 |
水平方向にはスパン中央、鉛直方向には設計上の落石衝突位置とすることを基本とし、実験精度等を踏まえ鉛直中央高さから最大衝突高さの間で設定する。 |
衝突前データ |
重錘重量、阻止面高さ、防護網の形状寸法、使用材料のミルシート等 |
重錘重量、阻止面高さ、防護網の形状寸法、使用材料のミルシート等 |
衝突時データ |
衝突直前の重錘速度、阻止面への重錘入射角度、阻止面の最大変形量、その他各ロープ張力等、設計に必要な項目 |
衝突直前の重錘速度、阻止面への重錘入射角度、阻止面の最大変形量、その他各ロープ張力等、設計に必要な項目 |
衝突後データ |
阻止面高さ、供試体の損傷状況、緩衝装置類の動作状況等 |
阻止面高さ、供試体の損傷状況、緩衝装置類の動作状況等 |
その他 |
緩衝装置を用いる場合においては、その性能の安定性等に関する室内衝撃試験等を別途行う。 |
緩衝装置を用いる場合においては、その性能の安定性等に関する室内衝撃試験等を別途行う。 |
重錘速度は25m/sより遅い衝突速度でしか実験できない場合には、その速度を適用現場における落石の適用最大速度としています。供試体については、実験した構成が最小となるよう制限を設けています。3スパンで実施した場合は、2スパンの計画が保証されないということになりますので設計時には注意する必要があります。
▽「落石対策便覧(H29改訂版)」(日本道路協会)
http://www.road.or.jp/books/index5.html
※図書の購入をご希望の方は、上記URLを参照頂き、丸善さんのホームページより購入できます。
|