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(公社)日本地すべり学会「第63回研究発表会」参加レポート |
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2024.09.26 |
今年の日本地すべり学会は、9月17日(火)から9月20日(金)にかけて、宮城県仙台市、青葉山ふもとの仙台国際センターをメイン会場に開催されました。関東圏からアクセスのよい仙台市での開催のため、一般参加者も多く(630名超)、口頭発表プログラムも昨年よりも多い、132件ありました。
特別セッションとして企画された「令和6年能登半島地震」を中心に、40代土木技術者目線での注目点をレポートします。
口頭発表プログラム
地すべり機構 |
15件 |
地すべり調査 |
14件 |
地すべり計測 |
14件 |
斜面安定 |
12件 |
事例報告 |
25件 |
対策施設維持管理 |
14件 |
特別セッション1:日本の斜面対策工の歴史 |
4件 |
特別セッション2:地すべり地形のリスク評価法の新展開-AHP評価の再考 |
9件 |
特別セッション3:令和6年能登半島地震 |
15件 |
特別セッション4:英語発表セッション |
10件 |
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132件 |
注目点その1 特別セッション:令和6年能登半島地震
令和6年能登半島地震の地震動で能登半島を中心に深刻な被害が発生するとともに多数の地すべりや崩壊等の斜面変動が発生しました。今回の地震を受け斜面変動の特徴や、被災状況、さらにこれまで能登半島で発生してきた地震のメカニズム等について最新の知見を共有するために特別セッションが企画されました。
当セッションでは15件の口頭発表と総合討論がなされました。また、ポスター発表でも、能登半島地震に関連した発表が2件ありました。地震発生から9カ月余りと短期間であることから、今回の発表では現地踏査を中心とした被災事例報告と今後の展望、また航空レーザデータや空中写真、衛星データを活用した広域的な斜面変動調査が多い印象でした。
@ 大規模地すべり
特に、能登半島地震の中で規模が大きく注目の地すべりとして、輪島市の市ノ瀬地区、輪島市大久保地区を対象とした研究報告が複数ありました。現在、各機関により災害復旧の一環として詳細な地質調査が進められています。今後、これらの調査結果を踏まえた、大規模地すべりの発生要因や機構解析が進められることが、大いに期待されます。
A 地震特有の地すべり的広域地盤変状(まだ、名前はない?)
今回の能登半島地震では、典型的な地すべり変状(明瞭な滑落崖と末端押し出しがあり地盤変位が大きく被害も大きなすべり)とはやや形態が異なる、大規模な地すべり的な地表面変動が生じたことが報告されました。日本応用地質学会グループは、輪島市と珠洲市の境界部に位置する太郎峠西方地すべりを報告しました。当地すべりは、変動ベクトル解析により、東西約1.6km、南北約1.1kmにおよぶ広域な変動域を有すること、変動量は5mを超えること、全体として南向きに変動していること、さらに現地調査により頭部には小崖地形、陥没地形、段差地形が生じ、末端では不自然な斜面の押し出し地形が認められることを明らかにしました。比較的平坦な丘陵地が1kmオーダーで、向斜構造に直交する方向に層理面に沿って地すべり的変状が生じたものと考えられます。
今回の能登半島地震では、震災後の高精度な航空レーザ成果が広域的に提供されたことで、尾根を含む広域地盤変動や尾根部でのグラーベン状の亀裂の発生等、どうも地震地すべりに特徴的な変状現象が各所で発生していることが、複数の研究者より指摘がなされました。今後、ケーススタディの積み重ねにより、その発生メカニズムの解明が進むことが期待されます。
B 高精度地形データの活用
能登半島地震では、地震後に各航空測量会社により航空レーザ測量が迅速に実施されたことで、災害復旧や不明者捜索に大きな力を発揮した事例の報告がなされました。また、本年4月から、国土地理院と林野庁が共同で能登半島全域の航空レーザ測量および地形解析が進められています。
地震前の令和2年〜令和5年にかけて、石川県全域の森林地域の航空レーザ測量成果が石川県森林部局により整備されていました。震災後の1月末に、オープンデータとして石川県が公表したことで、震災前後の高精度航空レーザ成果を用いた地形差分解析が多くの研究者、企業で進められました。これらの解析結果を活用した研究発表が多くなされたのが、今回の特徴でした。
地震前後の高精度地形差分解析が広域的かつ迅速に実施されたのは、能登半島地震が初めてかと思います。大規模かつ広域災害における空中写真、航空レーザデータ、衛星データ等の威力を再確認するとともに、これらのデータを平時からオープンデータとして整備することの重要性を強く感じました。
注目点その2 広域三次元解析の試み
斜面安定セッションでは、広域的な斜面三次元解析の研究が、東北大学および群馬大学、それぞれの研究チームから発表がありました。また、群馬大学のチームでは、能登半島地震セッションにおいて、今回の能登半島観測地震動を用いた大久保地すべりの三次元動的FEM解析の研究発表もあり、討論を含め大いに盛り上がりました。これまで、三次元による極限平衡法やFEM解析は、斜面単位、地すべりブロック単位に限られていました。広域的な取り扱いが可能となったのは、コンピューターの計算能力の向上や土木分野での並列計算の導入によるところが大きいと感じます。まだ、研究段階ではありますが、どこの斜面が崩れやすいか、地すべりが生じやすいかといったハザード評価、さらには降雨を考慮したリアルタイムなハザード評価といった社会実装に向けた第一歩を感じました。若い研究者を中心に進められていることにも、将来性を感じ、大いに刺激を受けました。
来年の研究発表会の開催地は奈良県です。能登半島地震に関する新たな知見に、今から期待が高まります。
ポスターセッション会場(45発表)
新技術セッション会場(40ブース)
意見交換会
THE SENDAI