「津波防災地域づくり法案」の全容が判明しました。東日本大震災を受け国土交通省がまとめたもので、政府は今臨時国会での同法案の成立を目指すようです。
津波防災法案の骨子は以下の通りです。
一、都道府県は基礎調査を行い、浸水区域と津波の高さを想定。国は広域的な調査を実施
一、知事は「特別警戒区域」を指定し、建物の移転を勧告できる。高齢者や子供がいる施設などを無許可で建築した場合には罰則を科す
一、「警戒区域」では、病院や社会福祉施設に避難計画作成を義務付け、市町村が民間の避難スペースを直接管理する仕組みを導入
一、市町村が定める「推進計画区域」では、区画整理事業や容積率緩和など特別措置を適用
一、堤防など津波防護施設の敷地に工作物を建てる場合は許可制
この法案は、臨海部での警戒・避難体制の整備に関し、首長に強い権限を持たせるのが柱で、地域の事情に即した津波対策を進めることを基本としています。津波からの警戒・避難体制の整備が必要だと判断した地域を、知事の権限で、「津波災害警戒区域」を新設・指定できるとしています。そしてこの先には「津波災害特別警戒区域」の指定地内では、住民や業者が住宅などを建築しないよう、知事が区域内で開発・建築行為を制限できるとしたものです。また自力避難が難しい病人や高齢者を守るため、病院や社会福祉施設などの床の高さについて、予想される津波の高さ以上にするよう事業者に求めるとしています。
この法律は、今回震災で津波被害にあった東北3県だけでなく、西日本で懸念される「東海地震・東南海地震・南海地震」及びそれらの連動した巨大地震に関しても津波の危険性がある区域が海岸線沿いに広い範囲で指定されるはずです。被害を受けていない地域では、現状で生活している土地に住めなくなることも考えられます。その判断を知事に任せようという法案です。
この法案はわれわれ土木の技術者にも大きく関連してきます。対津波のハード対策、ソフト対策だけでなく、都市計画をはじめとする様々な範囲で、地域色というものが重要視され始める、そのきっかけになりそうです。法律制定の動向に注目です。
国交省/津波防災地域づくり法案/警戒区域で開発・建築制限、水防活動も強化
H23.10.26 |
東日本大震災を受け、全国で津波に強い街づくりを進めるための制度整備が本格化する。国土交通省は「津波防災地域づくり法案」の概要をまとめた。都道府県知事が2段階の警戒区域を指定し、特に危険な区域での開発・建築行為を制限できるようにする。同法の施行に合わせ、関係法制度の改正も実施。ハード・ソフト施策を組み合わせた多重防御の津波防災体制の構築を急ぐ。政府は今臨時国会での同法案の成立を目指す。
国交省が民主党国土交通部門会議に示した法案の概要によると、国交相が策定する基本指針に基づき、都道府県知事が津波で浸水する恐れのある区域と想定される水深を設定、公表する。知事は警戒避難体制(ハザードマップの作成、避難施設の指定・管理協定など)を重点的に整備する地域を「津波災害計画区域」に指定。さらに同区域のうち、津波災害から住民を守るために一定の開発、建築行為を制限する区域を「津波災害特別計画区域」に指定できるようにする。
市町村は、基本指針と津波浸水想定を踏まえ、津波防災地域づくりを総合的に推進するための計画を作成。推進計画区域内では、▽津波防災住宅等建設区域の創設▽津波避難建築物の容積率規制の緩和▽都道府県による集団移転促進事業計画の作成−などの特例措置を講じる。このほか、被災地の復興拠点となる市街地整備を円滑に進めるため、一団地の津波防災拠点市街地形成施設を都市計画法に基づく都市施設に位置付け、特例措置を設ける。知事または市町村長は、盛り土構造物や閘門など津波防護施設の新設、改良を行い、施設管理者として地域の防御機能の向上により主体的に取り組めるようにする。津波防護施設の位置付けや警戒区域の規定などに関連する水防法や建築基準法、土地収用法、都市計画法も改正する。
自治体の水防活動などについて定めた現行の水防法は、洪水や高潮に対する警戒や被害軽減を目的としており、新たに「津波」を対象に加える。また、水防活動は通常、都道府県と市町村が行うが、大規模な水災害が発生した場合は国が自治体に代わって「特定緊急水防活動」を行えるよう改正し、対策を強化。国交相が水防上、緊急に必要と認めた場合は、洪水や津波、高潮により内陸に浸入した水の排除などに当たれるようにする。
(日刊建設工業新聞) |
津波対策 知事力アップ 政府・地域づくり法案 2011年10月5 |
東日本大震災の被災地を含む全国で津波対策を強化する政府の「津波防災地域づくり法案」の全容が四日、判明した。都道府県知事は海沿いの低地で甚大な被害が予想される「特別警戒区域」を指定でき、建物の移転を勧告する権限も認める。高齢者や子供がいる施設などを無許可で建築した場合は罰則を科す。「警戒区域」では病院や社会福祉施設に避難計画の作成を義務付け、民間施設の避難スペースを市町村が直接管理する仕組みを導入するなど、規制強化で避難対策を徹底する。
一方、危険エリアの周辺や高台で区画整理事業の特別措置を認めるなど、安心して暮らせる市街地を確保する。法案は月内に召集予定の臨時国会に提出する。
法案によると、都道府県は沿岸部の地質に関する基礎調査を実施し、浸水区域や津波の高さを想定。国は広域の調査を行い、都道府県に調査費用の一部を補助する。
一定の被害が予想されるエリアは、知事が「警戒区域」に指定。市町村が民間と協定を結んでビル屋上などの避難スペースを管理できるようにし、売却などで所有者が代わっても協定の効力を維持する。社会福祉施設や病院などは「避難促進施設」とし、避難計画の作成を義務付ける。
被害が一層大きいと予想される「特別警戒区域」では、知事が建物の所有者らに移転を勧告できる。高齢者や子供がいる施設などを無許可で建築した場合、一年以下の懲役か五十万円以下の罰金を科す。
市町村は推進計画を作成し、堤防整備などで安全な居住地域を確保。「推進計画区域」では、区画整理後、現在とは離れた場所に代替の宅地を設定したり、市町村主体の集団移転事業について都道府県が事業計画を作成したりすることができるよう特例を適用する。
建物の容積率規制を緩和して備蓄倉庫や自家発電施設の整備を促進。自治体が一定範囲の用地をまとめて強制的に買収できる事業も導入する。
海岸や港の堤防などは「津波防護施設」として管理を徹底。施設付近に工作物を建てたりする場合は許可制とする。
■津波防災法案骨子■
一、都道府県は基礎調査を行い、浸水区域と津波の高さを想定。国は広域的な調査を実施
一、知事は「特別警戒区域」を指定し、建物の移転を勧告できる。高齢者や子供がいる施設などを無許可で建築した場合には罰則を科す
一、「警戒区域」では、病院や社会福祉施設に避難計画作成を義務付け、市町村が民間の避難スペースを直接管理する仕組みを導入
一、市町村が定める「推進計画区域」では、区画整理事業や容積率緩和など特別措置を適用
一、堤防など津波防護施設の敷地に工作物を建てる場合は許可制(東京新聞) |
津波防災まちづくり法案:避難ビルの建設促す 容積率緩和 2011年10月2日 |
国土交通省が次期臨時国会への提出を目指している「津波防災まちづくり法案」(仮称)の概要が判明した。高台に逃げるのが難しい住民が緊急避難する「津波避難ビル」を建てやすくするために容積率を緩和する特別措置を新たに設ける。甚大な浸水被害が想定される地域を都道府県知事が「津波災害警戒区域」や「津波災害特別警戒区域」に指定できる制度も創設し、安全に避難できない場合は病院などの建築を制限できるようにする。
国交省によると、従来の津波対策は、堤防などのハード整備に主眼が置かれていたが、東日本大震災の大津波で大規模に決壊、崩落したため、堤防だけで津波を防ぐ方針を転換。高台への避難路や津波避難ビルを整備して備える「多重防御」によるまちづくりを進めることにした。
法案では、市町村が津波の被害想定を基にして津波防災まちづくり推進計画を作成。津波避難ビルを建てやすくするため、容積率を緩和して最上階に避難場所や備蓄倉庫を余分に造れるようにする。
また、知事が指定する「津波災害警戒区域」では、市町村が避難路や避難施設を指定するなどして避難体制を強化。さらに重大な被害の恐れがある「津波災害特別警戒区域」に指定されると、津波に耐えられる建物がないなど安全を確保できない場合、病院などの建築制限をかけられる規定も盛り込む。
法案提出と並行して国交省は、津波避難ビルの強度基準を緩める方針だ。現行基準は、想定される津波の3倍の高さの波に襲われた際の水圧に耐えられなければならない。しかし、同省の委託を受けた東京大生産技術研究所が被災3県の建築物を調査した結果、防波堤などの遮蔽(しゃへい)物がない場合、浸水の高さの1・5倍の水圧に耐えられない建物が壊れたとのデータが得られた。同省は基準を引き下げる方向で検討する。
津波避難ビルは昨年3月時点で全国で1790棟が指定されている。地域によってばらつきがあり、国交省の担当者は「基準の緩和で避難ビルを指定しやすくなる」と話している。【樋岡徹也】
(毎日新聞) |
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