近年、線状降水帯※1による集中豪雨が日本各地で頻発し、甚大な被害をもたらしています。気象庁は、2023年5月23日より線状降水帯の発生が確認され、災害の危険性が高まっている事を伝える情報(顕著な大雨に関する気象情報)について、予測の段階で発表するように運用の基準を変更しています。
今回、いさぼうネットでは線状降水帯に関する気象庁の取り組みについて紹介したいと思います。
顕著な大雨に関する気象情報(線状降水帯発生情報)
顕著な大雨に関する気象情報とは、大雨によって土砂災害や洪水などの災害発生リスクが高まっている中で、線状の降水帯によって非常に激しい雨が同じ場所で降り続く状況を線状降水帯というキーワードを用いて解説する情報を指します。この情報は警戒レベル相当情報を補足する情報として、警戒レベル4相当以上の状況で発表されます。発表の基準は以下の通りです。
【顕著な大雨に関する気象情報が発表される基準】
現在、10分先、20分先、30分先のいずれかにおいて、以下の基準をすべて満たす場合に発表。
- 前3時間積算降水量(5kmメッシュ)が100mm以上の分布域の面積が500km2以上
- 1.の形状が線状(長軸・短軸比2.5以上)
- 1.の領域内の前3時間積算降水量最大値が150mm以上
- 1.の領域内の土砂キキクル(大雨警報(土砂災害)の危険度分布)において土砂災害警戒情報の基準を超過(かつ大雨特別警報の土壌雨量指数基準値への到達割合8割以上)又は洪水キキクル(洪水警報の危険度分布)において警報基準を大きく超過した基準を超過
(出典:気象庁 線状降水帯に関する各種情報https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/kishojoho_senjoukousuitai.html)
顕著な大雨に関する気象情報は、昨年の5月より運用の基準が変更されており、以前は、実際の雨量などの「観測データが基準を満たした段階」で発表されていましたが、「予測で基準を満たすことが判明した段階」に変更され、これによって最大30分早く情報が発表されるようになりました。今後は発表の早期化を課題として研究を進め、2026年には2〜3時間前に発表する事を目標に掲げています。
線状降水帯による大雨の可能性を半日程度前から呼びかけ
気象庁は2022年6月から「線状降水帯による大雨の可能性を半日程度前から呼びかけ」を実施しています。この取り組みは、線状降水帯が発生すると災害発生の危険度が急激に高まる可能性があるので、心構えを一段高める事を目的として実施しているとの事です。
今までは日本全国を11のエリアに分けた地方単位で呼びかけがなされていましたが、今年の5月28日からは、府県単位まで絞り込み呼びかけがなされるようになっています。
今後は、線状降水帯による大雨の可能性を伝える範囲を段階的に狭め、2029年には市町村単位で危険度の把握が可能な危険度分布形式の情報を半日前に提供する事を目標に掲げています。
線状降水帯の発生状況
気象庁では、2022年度以降、線状降水帯の発生実績評価についても発表しています。線状降水帯の発生は、「顕著な大雨に関する気象状況」の発表基準と同じ条件で発生実績を評価しています。2022年以降の発生事例数は下表のとおりです。今年は比較的少ない傾向ですが、これまでのデータからは、梅雨が明けても9月までは気が抜けないことが分かります。
線状降水帯の発生事例数
出水期 |
2024年 |
2023年 |
2022年 |
6月 |
2事例 |
5事例 |
― |
7月 |
― |
6事例 |
3事例 |
8月 |
― |
6事例 |
5事例 |
9月 |
― |
6事例 |
3事例 |
事例数:地方予報区単位
線状降水帯による大雨の半日程度前からの呼びかけと実際の状況等(気象庁)より編集部まとめ
さらに気象庁では、「線状降水帯による大雨の可能性の半日前からの呼びかけ」と「線状降水帯の発生」との関係性について、“適中”か“見逃し”かを、イベントごとにしっかり検証しています。現在の技術では、「線状降水帯による大雨の可能性の半日前の呼びかけ」では、適中は4回に1回程度、見逃しは3回に2回程度と想定されており、概ね想定内の実績評価が得られているようです。気象予測技術が年々向上している中でも、線状降水帯の発生予測が難しいことが分かります。いずれにせよ、線状降水帯の発生条件を満たしていなくても、大雨となる可能性は高いため、「線状降水帯による大雨の可能性の半日前の呼びかけ」がなされた際には、厳重な注意警戒と準備がかかせません。
梅雨終盤ですが、出水期はまだ折り返し地点。台風シーズンにも線状降水帯は発生していますので、まだまだ気が休まりません。ご安全に。
令和5年度の実績
令和5年のイベント実績(7月まで)
令和5年度出水期の実績(気象庁)
※詳細については、下記の気象庁のページをご覧下さい
※1
気象庁が天気予報等で用いる予報用語の1つであるが、気象学的に厳密な定義が存在しないために専門家の間でも様々な定義が用いられている。気象庁用語集での定義を確認すると『次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50〜300km程度、幅20〜50km程度の強い降水をともなう雨域。』となっている。 (出典:気象庁『降水』雨に関する用語 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kousui.html)
<参考リンク>
▽「気象庁が天気予報等で用いる予報用語(2024年3月現在)」(気象庁) https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/mokuji.html
▽「大雨事例等における防災気象情報の精度検証と発表基準の改善」(気象庁) https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jirei/index.html
▽「キキクル(警報の危険度分布)」(気象庁) https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/riskmap.html
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