SpaceX社は、「Starlink Mini(スターリンクミニ)」の日本での販売を開始した。従来型の「Starlink(スターリンク)」と比較すると、Wi-Fiルーターが内蔵した上でA3用紙程度まで小型化されており、バッテリー駆動も可能となったため、どこでも大容量通信が行えるようになった。
「Starlink」は、宇宙に打ち上げられた数千機もの低軌道衛星を基地局として利用する仕組みであり、非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)と呼ばれる技術の1つである。
非地上系ネットワーク(NTN)とは、地上の基地局に依存せず、人工衛星や無人航空機を利用して空や宇宙からの通信を実現することで、山間部や海上など地上の通信網では対応できない範囲をカバーするネットワークシステムである。土木分野でも既に活用が進んでおり、場所に依らず安定した通信を行えるようになることで、大規模災害時の迅速な状況把握や、施工の遠隔化・自動化など、今後も活躍が期待されている。
非地上系ネットワークの基地局は配置された高度によって下記の3種に分けられる。
1. 静止軌道衛星(GEO:Geostationary Earth Orbit satellite)
静止軌道衛星または静止衛星と呼ばれ、非地上系ネットワークでは最も高い高度に配置されており、赤道上空の約3万6千kmで地球の自転と同じ周回周期を持つため、地球上からは赤道上空に静止しているように見える。高度が高いのでカバー範囲が広く、3〜4基ほどで地球全体をカバーできると言われている。その一方で、地上から離れているのでデータ送信時に遅延が発生しやすくなり、加えて機器が大型になるので打ち上げの際に使用するロケットの規模が相応に求められるといったデメリットがある。現在は、主に災害時の緊急連絡手段や通信インフラがあまり発達していない地域での連絡手段として衛星電話のサービスが提供されているが、運用コストが高く、大容量通信を行う事は困難である。
2. 低軌道衛星(LEO:Low Earth Orbit satellite)
高度数百〜2千kmに配置された人工衛星を指し、前述の「Starlink」もこちらに分類される。静止軌道衛星と比較すると、小型・軽量の機器が多く、低コストで生産・打ち上げが可能であり、こちらは地球の自転と同期していない。静止軌道衛星よりも高度が低いのでカバー範囲が狭く、地球の自転と同期していないので、地球上から見て常に同じ位置にいるわけではないため、通信を行うために複数の低軌道衛星を運用してネットワークを構築する必要がある。(「Starlink」は低軌道衛星の分類範囲内で更に3階層分けて6,000基以上を打ち上げており、2020年代中頃までには約12,000基の展開を計画している。)
3. 高高度プラットフォーム(HAPS:High Altitude Platform Station)
日本では高高度プラットフォーム、高高度基盤ステーション、成層圏通信プラットフォームと呼ばれており、高度約20kmの成層圏を飛行しながら通信基地局の役を担う無人航空機(気球や飛行船の形状も存在する)を指す。この高度は気流や天候が比較的安定している上に空気抵抗が少なく、エネルギー消費を抑えて運用できる。通信カバー範囲は半径100km程とされており、地上からの距離も比較的近いのでデータ送信時の遅延も発生しにくい。加えてロケットの打ち上げが伴う先の2種よりも技術リスクやコスト面に優れ、宇宙空間での運用ではないため、着陸時にメンテナンスや最新技術の導入などを行えるのが強み。半面、成層圏は各国の領空内となるため、慎重な運用が求められる。
HASPは運用に向けた技術開発が進められており、国内ではNTTが2026年のサービス提供開始を目指している旨の発表があった。
(出典:「非地上系ネットワークの現状と将来像」(第1回 宇宙通信アドバイザリーボード委員会))
現在、携帯電波の届かない山間部での大容量通信は、専用アンテナ設置が必要な「Starlink」が主流である。 近い将来、HAPSサービスの実用化が進めば、手持ちのスマホで、ユーザーが特別な準備をすることなく、上空20kmの基地局経由で大容量通信可能になり、”圏外”という言葉が過去のものとなるかもしれない。
<参考リンク>
▽国立研究開発法人情報通信研究機構 ワイヤレスネットワーク研究所センター 宇宙通信システム研究室
https://www2.nict.go.jp/spacelab/
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