2013年11月20日
台風30号(アジア名: Haiyan)に襲われたフィリピン中部の被害が甚大だ。被害はレイテ島を中心に広がっていて、「まだその全容は掴めていない」と伝えられている。フィリピン政府の発表に依れば、8日未明に上陸してから10日経った18日18時現在、犠牲者の数は3,976人に達し、加えて1,602人が未だに行方不明だという。伝えられている死者・行方不明者の数は、まだ増え続けている。また、日本の外務省に依れば、日本人26名の安否も確認できていないらしい。この台風によって400万人以上が住居を失ったというが、これらの被害状況からも、今回の台風の猛烈さが分かる。
兎に角この台風は記録ずくめだった、と言って良い。上陸時の中心気圧は895ヘクトパスカルと、これまで聞いたことも無いような低さだ。気象庁に依れば、最大風速は秒速64メートル、最大瞬間風速は90メートルにも達し、気象庁アジア太平洋気象防災センターが統計を開始した1951年以降で、最強クラスの台風だったという。確かにそうだろう。最大瞬間風速60メートルはたまに聞くこともあるが、90メートルなどという凄まじい突風は、殆ど記憶にない。
これほど猛烈な台風が発生するのも、やはり地球温暖化の影響なのだろうか。恐らく、これまでの台風の中で、最低気圧を記録した台風に違いない。そう思って気象庁のデータを調べてみた。ところが、どうやらそうでもないらしい。表1は、同庁ホームページの「台風の統計資料」(http://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/statistics/index.html)に掲載されている、海上で観測された中心気圧が低い台風の中から5位までを抜粋したものだが、今回の30号で観測された895ヘクトパスカルを凌ぐ台風ばかりだ。
中でも、第1位の「昭和54年台風第20号」は、海上における観測史上世界で最も低い中心気圧を観測した台風だという。今回よりも25ヘクトパスカルも低い。しかも、今から40年も前だ。良く見ると、表中の台風は何れも29年以上前のもので、今より地球温暖化の影響が少ない時代の台風だった、と言える。となると、今のところ、台風の中心気圧と温暖化の関係は明瞭ではない、と考えられる。では、今回の尋常ならざる台風の要因はどう考えたらいいのだろう。そこで、次に、「上陸時の気圧」について整理してみた。次の表2が、上陸時に中心気圧が低かった5位までの台風である。
表2を見ると、表1の台風が軒並み顔を出していないのが分かる。加えて、900ヘクトパスカルの気圧を下回る台風は、ひとつも無い。しかし、いずれも日本に甚大な被害をもたらした台風だ。日本に上陸または近づく台風は、洋上で最も発達して、日本に近づく頃には勢力が衰えるのが一般的だ。南方の洋上に比べ日本近海の海水温が低いからだが、因みに、表1で第1位だった「昭和54年台風第20号」は、和歌山県白浜町付近に上陸した時には965ヘクトパスカルに衰えていたという。恐らく、日本近海の海水温が、最低気圧を記録した沖ノ鳥島南東海域よりも、かなり低かったのだろう。
そこでもう一度、表1の観測地点を良く見て頂きたい。掲載された7個の内4個がフィリピン東方である。その他の3個も、その近くの海域である。この辺りから北上することなく、そのまま西に移動すれば海水温の低下はさほど無い、と思われる。すると、勢力は衰えないままフィリピンを直撃することになる。しかも、この周辺の海水温が上昇すればするほど、台風の勢力は強大化していくことになる。
ただ、地球規模で海水温上昇が言われているものの、台風発生数に関しても、今のところ影響は読み取れない。次図に示す様に、60余年間のデータでは顕著な傾向がないのだ。
ところが、この海水温の上昇、今回の30号では大きく影響しているらしい。「今回は高潮が被害を大きくしている」と報じられていて、気圧の低さと猛烈な風、レイテ湾の地形、そして地球温暖化による海水面の上昇、これらが絡み合って5mを超す高潮が被災地を襲った、とみる学者もいる。海水面の上昇は、太平洋に浮かぶ島嶼国に深刻な被害を与え始めているが、確かに、台風時には高潮が強大化して一層被害を拡大することになる。
そんな影響も視野に入れてのことだと思うが、将来、日本もこれまで経験したことがないような猛烈な台風に襲われる可能性も否定できない、と指摘する学者もいる。勿論、このまま地球温暖化を阻止できなければ、の話しだと思っているのだが…。
なお、今回の四方山話は「台風と温暖化」に焦点を当てたが、この台風で記録した凄まじい風に関して、当「いさぼうネット」では、「通達、業界ニュース」の中で「最大瞬間風速105メートルの世界」(http://isabou.net/Convenience/aviso/news_20131112.asp)のタイトルで話題提供しているので、是非そちらも一読して頂きたい。
最後になりましたが、被災されたフィリピンの皆さんに、心よりお見舞い申し上げます。そして、一日も早く平穏な生活が戻ることを願ってやみません。
【文責:知取気亭主人】
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イチイの赤い実
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