いさぼうネット
賛助会員一覧
こんにちはゲストさん

登録情報変更(パスワード再発行)

  • rss配信いさぼうネット更新情報はこちら
知取気亭主人の四方山話
 

『過去の災害に学ぶ』

 

2018年7月18日

18日の日本経済新聞朝刊によれば、西日本豪雨による死者は223人にも上る。避難者もいまだに4,890人もおり、住宅被害は33,011棟にも及ぶという(いずれも、警察庁と総務省消防庁の発表から集計したもの)。今回の豪雨災害は、西日本の14府県と極めて広い地域に渡っているのが特徴だ。中でも特に被害が甚大だったのは、広島県と岡山県そして海を隔てた愛媛県の3県だ。亡くなった方も、広島県の112人を筆頭に、岡山県の61人、愛媛県の26人と、他府県に比べて圧倒的に多くなっている。

台風7号が日本海に抜け梅雨前線が南下・活発化した当初は、これほど甚大な被害になるとは誰も予想しえなかったと思う。しかし、冷静になって考えてみると、今回ほどではないにしても大雨による土砂災害や洪水被害などは毎年のようにどこかで発生していて、「また今年も甚大な被害が発生してしまった」との思いが強い。

災害が多いのはそれこそ災害列島日本と言われる所以だが、これほど科学技術が発達し予報精度も格段に進歩した上に、情報の伝達スピードも半世紀前とは比べ様もないくらい早くなったのに、「過去の経験が生かされ、被災は最小限に食い止められた」とはあまり聞いたことがない。「人間は過去の歴史に学ばないものだ」とはよく言われるが、たびたび甚大な被害に見舞われている日本では、「水に流す」とか「のど元過ぎれば…」などの諺に代表されるように、嫌な記憶は早く忘れるに限る、そんな考え方を潔しとするようなところがあるからかもしれない。決して褒められる考え方ではないが、土木や砂防分野の技術が未発達であった明治の頃までであれば、“ある意味それも仕方がないこと”とも言える。

しかし、昭和の高度成長期に入り、人口が増え都市部に人々が集中し始めると、元々人が住んでいなかった災害危険地域も住宅地として開発されるようになっていった。その結果、自然災害を受ける危険性が高い地域が、全国的に増えてしまったのだ。必然的に、被災の危険性が高い地域に住む人が、昔に比べると増えていることになる。そうした現状を考えると、 “仕方がない”と簡単に諦めることはできない。また、多少防災に関わる仕事をしている人間としては、今回の豪雨災害に関連して、一言物申してみたい。

今回特に被害が甚大だった広島県と岡山県、そして愛媛県の被害の特徴を端的に言い表せば、広島県は土砂災害、岡山県は浸水災害、愛媛県は洪水被害、と言うことになるだろうか。岡山県では、倉敷市真備町の浸水被害がひどい。ニュースで見た、湖かと見間違うほどの浸水面積の広さと、4mを超す水深(テレビでは4.7mもの水深があった所も)が、その凄まじさを物語っている。高梁川に合流する小田川が溢れた訳だが、恐らく付近一帯は、以前にも似た様な浸水被害を経験しているのだと思う。

どうしてそう思うかと言えば、小田川は吉備高原を北西から南東に向かって下った後、井原市付近から吉備高原の山麓を東流して真備町付近で高梁川に合流しているのだが、高校の地図帳からも読み取れるように、東流の間は平地を流下しているため河床勾配が極めて緩い事が分かる。したがって、流速が出ない為、川の水を流す能力はかなり低く、本流である高梁川の水位が高くなれば、極めて溢れやすい川だと言えるのだ。そういう観点からすると、今回浸水被害が発生した地域は古くから浸水被害に悩まされてきたことが容易に想像される。

一方、広島市坂町小屋浦地区に見られる凄まじい量の堆積土砂は、当時の濁流のもの凄さを如実に物語っている。地区上流にあった、70年ほど前に建設された砂防ダムが決壊したことが原因だと報道されているが、ダムに堆積していた土砂が一挙に土石流となって流れ出たのでは堪らない。新しい砂防ダムができる計画だったらしいが、今回の災害には間に合わなかった。この渓流は明治時代にも土石流が発生してる、とニュースで伝えていたが、災害のタイプは違え、この小屋浦地区も過去に災害に見舞われていたのだ。

二つの地区を例に出したが、日本各地には過去に自然災害の洗礼を受けたことがある地域が点在しているにもかかわらず、そうした災害の史実は、その土地に住む人々に伝わっていないのが現状だ。それこそが今回のような甚大な被害を生む、一つの要因になっているのではないかと思う。「雨の降り方が尋常ではない」とか「これまでに経験したことがない豪雨」など、異常気象が災害の誘因であることは間違いないが、被害を最小限に食い止めるには、自然の猛威に抗わなければならない。

しかし、力ずくでは難しい。力ずくで抗うことができなければ、知恵で抗うしかない。その知恵と言うのが、過去の災害に学ぶことである。もっと分かり易く言えば、小学校、中学校の授業で、自分たちが住む地域の地質や地形、そして災害などの自然史を徹底して学ぶことだと思う。その教育が、将来の自然災害から自分の身を守ってくれる筈である。

例えば、手前味噌にはなるが、いさぼうネットの「いさぼうコラム」で一般財団法人砂防フロンティア整備推進機構の井上公夫氏が執筆している、「歴史的大規模土砂災害地点を歩く」では、過去に起こった大規模土砂災害の事例を詳細に述べている。こうした災害事例に学ぶのだ。折しも4月に公開した「46.広島安佐南区・八木地区の災害伝説と大正15年(1926)災害 」は、広島における今回の災害を学ぶにはもってこいの教材である。

また、コラム1から30までを1冊の本にまとめた、『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(丸源書店刊、2018)も出版されている。是非、過去の災害に学んでほしいものである。

【文責:知取気亭主人】

歴史的大規模土砂災害地点を歩く 「歴史的大規模土砂災害地点を歩く」

【著者】井上 公夫
【出版社】 丸源書店
【発行年月】 2018年6月
【ISBN】 978-4990445959
【頁】 263ページ
【定価】 6,480円(税込)
いさぼうネットからご注文いただきますと、価の20%OFFの
5,184円(税込)
でご購入いただけます。 (詳細はこちらから)

Copyright(C) 2002- ISABOU.NET All rights reserved.