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2024年12月11日
酒好きには何とも嬉しいニュースが飛び込んで来た。凡そひと月前に、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の評価機関が日本の「伝統的酒造り」を無形文化遺産へ登録するよう勧告したと報じられていて、今か今かと舌なめずりしながら待っていたのだが、日本時間の12月5日、やっとそれが正式に登録されたのだ。日本特有の伝統的な酒造りの知識や技術が文化的な意味を持ち、酒そのものが祭りや神事などの伝統的な行事に必要不可欠になっているのに加え、地域社会の結束に貢献しているとも評価されたらしい。喜ばしいことだ。
確かに、元旦の地震で大きな被害を受けた能登半島にも地元の人達に愛された酒蔵が幾つもあるし、規模の大小を問わなければ日本各地に酒蔵はあって、酒造りも造られたその酒自体も、地域社会には欠かせない役割を果たしている。それは、今回の震災で再認識させられたところだ。村祭りや漁船の進水式、或いは地鎮祭など、伝統的行事に日本酒は付き物だ。また、酒を酌み交わせばもう仲間、となるのが酒好きの良いところで、酒は仲間意識の醸成に一役も二役も買っている。
ところで、今回登録されたのは、日本の「伝統的酒造り」であって、日本の酒造りと聞いてパッと思い浮かぶ日本酒だけではない。呑兵衛としてはどれにも目がないのだが、嬉しいことに“本格焼酎”や“泡盛”も入る。そして今回の件で初めて知ったのだが、料理専用だと思い込んでいた“本みりん”も酒の分類に入るのだという。何故かと言えば、その“本みりん”を含めここに挙げた何れもが、カビの一種である麹菌(こうじきん)の力を借りて、蒸した米やイモなどの原料を発酵させる日本古来の技術が使われているからだ。登録された日本の「伝統的酒造り」とは、こうした技術・技法や地域との関わり方など、酒造り全般が認められたのだ。国や人種の数ほど酒造りの技法はあると思われるが、その多くは、例えばブドウの果糖など糖分(ブドウ糖)を発酵させて酒を造っている。しかし日本の伝統的酒造りの殆どはこれらと違い独特で、まず澱粉を発酵させてブドウ糖にして(糖化)、更にこのブドウ糖を発酵させてアルコールを醸造しているのだ。これを並行複発酵と言う。
こうしたことを知ったのは、約19年前の当四方山話の第100話『第100話』(2005年5月20日付け)で紹介した、杜氏である能口尚彦氏の『魂の酒』(ポプラ社 2003)という本からだ。現代の名工にも選ばれた能登杜氏(のととうじ)の能口(のぐち)氏が言うには、日本酒ほど複雑な発酵形式を採っているものは無いだろうと言う。今回の無形文化遺産への登録で、日本酒造りの工程を簡単に紹介する映像が各局で流されていたが、見るからに複雑だ。その複雑さの一端を『第100話』でも述べているので、少し引用してみる。
農口氏によれば“杜氏一代酒屋一代”というらしい。一人の杜氏が造る味は次の人に味を渡せない。つまり、『あの蔵の酒がうまい』と言うよりも、『あの杜氏が造る酒はうまい』と言った方が当を得ていることになる。しかも、同じ杜氏が造っても毎年同じ酒ができるわけではなく、千変万化なのだそうだ。原料となる米も、水も、麹も、そして管理される温度も湿度も日本酒の味に大きく影響する。本当に奥が深いのだ。
知取気亭主人の四方山話 第100話『第100話』 より引用
この様に能口氏は日本酒のことを語っていたが、同じ様に伝統的酒造りで造られた焼酎も泡盛も本みりんも、皆同じことが言えるのだと思う。だからこそ、深く味わって飲まなければ失礼にあたる、また飲んで消費拡大に貢献しなければこの伝統的酒造りを守れない、と秘かに心に誓っているのだ。呑兵衛にとって何よりの応援を得た、とも思っている。日本の伝統的技法で造られた酒をこよなく愛する呑兵衛諸兄は、今回登録された無形文化遺産を守り続ける、という崇高な使命を帯びたことになるからだ。これで大手を振って飲める、と一人にんまりとしている。そんなご同輩も多いことと思う。
ところで、前述した“本みりん”だが、調べてみると確かにれっきとした酒であることが分かる。「本みりん研究所」のホームページに掲載されている、『みりん(本みりん)の起源と歴史について』と題するコラムによれば(https://honmirin.net/archives/368)、戦国時代から甘いお酒として飲用される様になり、江戸時代になると高級な甘いお酒として親しまれていたという。元々はお酒として飲用されていたのだ。辛党としてはあまり得意な方ではないが、甘いのであれば、食前酒として合うのかもしれない。
気になるその作り方だが、まず原料として日本酒に使われる“うるち米”ではなく“もち米”を使うところと、本格焼酎と一緒に仕込むところが、日本酒と決定的に違うところだ。したがって、日本酒など他の酒と違ってアルコール発酵しないらしい。その分、糖化されたブドウ糖が残り甘くなる、という寸法だ。上品な甘さなのかもしれない。アルコール度数も約14%あるというから、日本酒とさして変わらない。飲んでみる価値はありそうだ。
さて、今年も残すところ3週間となった。諸兄もこれから酒を飲む機会が増えるだろう。ビールも旨いし、ワインも良い。しかし、せっかく日本の伝統的酒造りがユネスコの無形文化遺産に登録されたのだ。是非これを祝い、この伝統的酒造りを守り続けていく為にも、日本の酒を飲もうじゃないか。暫くは大手を振って飲めますぞ!多分…?
【文責:知取気亭主人】
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「魂の酒」
【著者】 農口 尚彦
【出版社】 ポプラ社
【発行年月】 2003/12/1
【ISBN】 9784591078532
【頁】 256ページ
【定価】 1,815円(税込)
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