前回の『速報!「落石対策便覧」の主な追加・変更点』(以降、前回記事)に引き続き、「落石対策便覧」の変更点を取りまとめてみました。
最も大きな改定内容としては、性能照査に関する項目が記載されていることだと思われます。
ただ、同時に慣用設計法として従来通りの設計法も併記されており、当面の設計はこちらの方を多く用いられることと思われます。
そこで、今回の技術ニュースでは慣用設計法についての変更点を工法ごとに挙げてみました。
<覆式落石防護網>
(1) 金網の下端が法尻から50cm程度高くしていると記載されました。(ポケット式も同様)
(2) 横ロープ端部に掛る張力の計算式が変更になりました。(前回記事4参照)
<ポケット式落石防護網>
(3) 落石の衝突角度は阻止面に直角とすると記載されました。(防護柵も同様)
(4) 阻止面上端について余裕高の記載が変更されました。(前回記事6参照) (防護柵も同様)
(5) せん断力で抵抗させるアンカーボルトの許容せん断応力度については短期の7割程度とすると記載されました。
(6) 構造細目に金網の項目が追加されました。(前回記事7参照) (防護柵も同様)
<落石防護柵>
(7) 落石荷重の作用高さが柵高の2/3から最大跳躍高に変更されました。これによって、「支柱の塑性ヒンジを形成する力」と「支柱根入れ部のかぶりの照査」が影響を受けます。
(8) 積雪地帯では積雪荷重を考慮すると記載されました。
(9) 端末支柱の設計方法が追加されました。
<落石防護擁壁>
(10)許容回転角θaの算出式が削除されました。
(11)極限支持力の計算式は変更がありませんでした (最新の道路橋示方書の計算式ではない) 。
<覆式落石防護網>
(1) 金網の下端が法尻から50cm程度高くしていると記載されました。(ポケット式も同様)
覆式落石防護網の設置時には、堆石の除去等の維持管理上ないし下端横ロープ等の腐食抑制の観点から、金網の下端は50cm程度法尻位置より高くしている事例が多い。
(引用:「落石対策便覧(平成29年12月)」(公社)日本道路協会 P.131)
(2) 横ロープ端部に掛る張力の計算式が変更になりました。(前回記事4参照)
旧 |
新 |


(引用:「落石対策便覧(平成12年6月)」(公社)日本道路協会 P.135) |


(引用:「落石対策便覧(平成29年12月)」(公社)日本道路協会 P.134)
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旧便覧でのTは、新便覧でははTA、TBになりました。
w=5.0、l=4.0mで計算すると、旧の値は25.000(kN)、新の値は26.926(kN)と旧に比べ僅かに大きな値となります。
そのため、新便覧で計算すると安定度を下回る可能性がありますので注意が必要となります。
<ポケット式落石防護網>
(3) 落石の衝突角度は阻止面に直角とすると記載されました。(防護柵も同様)
衝突位置は、高さ方向には落石の最大跳躍高さとする。
また、横断方向については、支柱間中央とする。落石の衝突方向は斜面角度および斜面の表面形状によって異なるが、阻止面に直角とする。
(引用:「落石対策便覧(平成29年12月)」(公社)日本道路協会 P.157)
旧 |
新 |

θ0:ネットの傾斜角

(引用:「落石対策便覧(平成12年6月)」(公社)日本道路協会 P.139) |


(引用:「落石対策便覧(平成29年12月)」(公社)日本道路協会 P.157) |
旧便覧では落石防護網の傾斜θ0を考慮していましたが、この傾斜を考慮しない考え方に変更になりました。
よってsin2θ0を考慮しない分、新便覧の方が落石のエネルギーEWは大きくなるため注意が必要となります。
(4) 阻止面上端について余裕高の記載が変更されました。(前回記事6参照) (防護柵も同様)
阻止面上端は落石の最大跳躍量(落石衝突高)に落石半径以上、かつ少なくとも0.5m程度の余裕高を確保した位置とするのがよい。
(引用:「落石対策便覧(平成29年12月)」(公社)日本道路協会 P.157)
(5) せん断力で抵抗させるアンカーボルトの許容せん断応力度については短期の7割程度とすると記載されました。
せん断力で抵抗させる場合のアンカーボルトの許容せん断応力度については、施工の不確実性や衝撃的な荷重作用などを踏まえ、構造用鋼材および鋳鍛造品の許容応力度(短期)の7割程度とする。
(引用:「落石対策便覧(平成29年12月)」(公社)日本道路協会 P.168)
旧 |

(引用:「道路橋示方書・同解説U鋼橋編(平成14年3月)」P.143) |
新 |

(引用:「道路橋示方書・同解説U鋼橋編(平成24年3月)」P.150) |
許容せん断応力度の出典元である道路橋示方書・同解説U鋼橋編において、平成14年版から平成24年版に改定された際にアンカーボルトの許容せん断応力度がSS400:60→80(N/mm2)と増加しています。
この増加の要因として解説文を読み解くと「施工の不確実性や計算外の力を受ける機会が多いために70%程度の値としていたが、この安全余裕は使用条件などにより個別に規定する」ためとされています。
つまり、旧道路橋示方書で許容せん断力応力度(SS400)=80×0.7≒60としていたものが、新しい道路橋示方書で70%を省いた値=80に変更になったため、落石対策便覧で「7割程度とする」と記載された形となっています。
(6) 構造細目に金網の項目が追加されました。(前回記事7参照) (防護柵も同様)
金網の線径は最低でもφ3.2mmを用い、落石外力が大きめ、ないしは腐食しやすい環境の下ではφ4.0mm程度を用いるのがよい。
(引用:「落石対策便覧(平成29年12月)」(公社)日本道路協会 P.170)
従来型の防護網は、金網・ロープのコンビネーションが定まっていることが多く、金網の線径だけを変えた場合、市場単価を用いることができるかどうか。
また、一部の部材仕様だけ変更できるのかを予め確認する必要があります。変更できない場合は、金網の線径に見合ったワイヤロープを用いることになります。
<落石防護柵>
(7) 落石荷重の作用高さが柵高の2/3から最大跳躍高に変更されました。
これによって、「支柱の塑性ヒンジを形成する力」と「支柱根入れ部のかぶりの照査」が影響を受けます。
旧 |
新 |
設計における落石の衝突位置は、下図に示すように支柱間の中央で柵高の2/3の位置とし、落石の衝突方向は柵に直角とする。

(引用:「落石対策便覧(平成12年6月)」(公社)日本道路協会 P.152)
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設計における落石荷重の作用位置は、下図に示すように支柱間の中央で最大跳躍高の位置とし、落石の衝突方向は柵に直角としてよい。

(引用:「落石対策便覧(平成29年12月)」(公社)日本道路協会 P.178) |

(引用:「落石対策便覧(平成12年6月)」(公社)日本道路協会 P.155) |

(引用:「落石対策便覧(平成29年12月)」(公社)日本道路協会 P.185) |

(引用:「落石対策便覧(平成12年6月)」(公社)日本道路協会 P.161)d>
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(引用:「落石対策便覧(平成29年12月)」(公社)日本道路協会 P.190) |
「支柱の塑性ヒンジを形成する力」
支柱の塑性ヒンジを形成する力:Fyの計算式は変更されていませんが、h2(落石荷重の作用高さ)が上記の通り変更されているため計算結果は影響を受けます。
「支柱根入れ部のかぶりの照査」
支柱の曲げモーメント:Mの計算式が変更されています。
(8) 積雪地帯では積雪荷重を考慮すると記載されました。
当該斜面が積雪地帯であり積雪荷重の影響を無視できない場合にはこれを考慮するものとする。
積雪荷重と落石荷重は同時に考慮しなくてもよい。
(引用:「落石対策便覧(平成29年12月)」(公社)日本道路協会 P.178)
(9) 端末支柱の設計方法が追加されました。
端末支柱は、落石防護柵に落石が衝突した時にワイヤーロープ設置方向への張力をそのまま受けるので、控え材(斜材)を設けて補強することが多い。
(引用:「落石対策便覧(平成29年12月)」(公社)日本道路協会 P.188)
<落石防護擁壁>
(10)許容回転角θaの算出式が削除されました。
設計で想定した落石が衝突することにより擁壁に過大な回転角や転倒等が生じないことを保証するために、擁壁に生じる最大回転角の許容値を設定する必要がある。
許容回転角θaは2〜3°以下を目安とする。
(引用:「落石対策便覧(平成29年12月)」(公社)日本道路協会 P.209)
旧便覧では「許容回転角:θa=μ・θy」と記載されていたものが削除されています。
(11)極限支持力の計算式は変更がありませんでした (最新の道路橋示方書の計算式ではない) 。
擁壁背面の落石荷重位置に作用する落石による水平力を変化させると、擁壁自重を含む擁壁底面中心のモーメントMにより擁壁底面の支持地盤が極限支持力となる状態がある。
(引用:「落石対策便覧(平成29年12月)」(公社)日本道路協会 P.208)
ご存知の方もおられると思いますが、道路橋示方書・同解説の最新版が平成29年11月に発売されています。
ここで、極限支持力を求める計算式が鉛直荷重に対する式に変更されており、偏心傾斜の影響を考慮しない形となっています。
今回改定された、落石対策便覧は平成29年12月に発売されており、この平成29年11月版の道路橋示方書・同解説よりも発売が後である事から、新しい極限支持力での検討が必要かと思われました。
しかし、落石防護擁壁が記載されている章末の参考文献には「道路橋示方書・同解説T〜X,2012.3」と記載されており、従来通りの偏心傾斜を考慮した計算式で設計を行えばよいことが分かりました。
前回の『速報!』と重複する部分もありますが、設計の際にはこれらの点にご注意頂ければと思います。
今後、「落石対策便覧」の正誤表が発表されることが予想されますので、そちらの方にも気を配っておく必要が有るかと思われます。
また、当いさぼうネットの特集アーカイブスで掲載している「~特集~ 落石」についてのページも便覧改定に合わせて落石対策の概要や選定フローなどをリニューアルしておりますので、そちらもご参照ください。
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