1 はじめに
自然災害などを題材とした小説を皆さんは何冊位読まれていますか。防災対策がかなり進んだ現在では、家族を含めて自然災害で被災する可能性は少なくなっています。しかし、地球の温暖化によって、豪雨災害が激化している面もあります。実際に自然災害に直面したときにどう対応したらよいのでしょうか。豪雨・地震・火山噴火・融雪・天然ダム決壊などを誘因として、世界各地で土砂災害・洪水災害は頻発しています。これらの土砂災害をモチーフとした小説を読むことによって、災害対応を疑似体験できます。
土砂災害が発生しても、土砂の移動領域に居住地がなければ、災害は発生しません。自然災害は単なる自然現象ではなく、土砂災害と被災者との位置関係と、背景としての社会状況や防災力と関連して発生します。自然災害に直面した時、私たちはどのように対応すればよいのでしょうか。
2 自然災害などを題材とした小説(アンケートのお願い)
土木情報サービス・いさぼうネットの『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』のシリーズコラムは、2015年4月から開始され、現在までにコラム79まで公開しました。これらのコラムでは、大規模土砂災害の事例を説明するとともに、これらの災害に関する小説を紹介してきました。
いさぼうネットの教育支援の
「いさぼうアンケート」では、2009年1月29日と2014年7月3日に災害情報に関するアンケートを実施して頂きました。これらのアンケートの結果は、いまでもいさぼうネットの教育支援で閲覧できます。
2009年のアンケートでは、投票者数207人、総投票数491冊で、最も読者数が多かったのは、小松左京(1973)『日本沈没』(上・下)の78人で、2番目は石黒曜(2002)『死都日本』の55人、3番目は大木正次(1967)『黒部の太陽』の34人でした。
2014年のアンケートでは、投票者数100人、総投票数389冊で、最も読者数が多かったのは、新田次郎(1977)『剣岳・点の記』の36人、2番目は小松左京(1973)『日本沈没』(上下)の28人、3番目は吉村昭(1967)『高熱隧道』の25人でした。
井上は、3年ほど前まで20年間、首都大学東京(都立大学)都市環境学部・地理環境コースの非常勤集中授業で「災害論」を担当していました(東京農工大学,立正大学などでも実施)。最初の授業で今までに読んだことのある自然災害関連の小説の作者・題名の一覧表を示し、読んだことのある小説に〇を付けてもらい、集計しています。しかし、20歳前後の学生たちはほとんど小説を読んでいませんでした。
授業では、歴史的大規模土砂災害の事例を紹介すると同時に、これらの小説などを紹介し、読むようにすすめています。最後のレポート課題として、「授業で紹介した小説などを読み、主人公(または著者)が自然現象と災害をどのように捉えていたか、あなたの感じ取ったことを書いて下さい」という課題を出しています。若い学生たちですから、自分や家族に被災体験はほとんどありませんが、小説を読むことにより、さまざま自然現象と被災事例との関係、その後の涙ぐましい復興への努力についての感想を書いてくれます。20歳前後の学生のレポートには参考になることが多くありました。
また、一般市民や技術者を対象とした講習会などでも同様の災害小説の一覧表を示し、読んだことのある本の左欄に〇を付けてもらい集計しました。また、応用地質学会誌(2016)57巻5号でも「地質アラカルトのジオ・メリット」(30)で、「自然災害などを題材とした小説は読まれているか」という記事を投稿しました。
拙著(2018,2019,2020)『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(T,U,V)では、出版時にまとめられている「自然災害を題材とした小説の著者・書名、読者数」を示しています。そのTの一覧表では、2018年3月6日現在で、117冊、学生レポート744冊、講習会(一般)8641冊となっています。そのVの一覧表では、2020年2月14日現在で、118冊、学生レポート800冊、講習会(一般)9339冊となっています。
表1は、2022年3月27日現在で集計した自然災害を題材とした小説の著者・題名の読者数順の一覧表で、赤字は学生レポートの読者数、黒字は講習会でのアンケートによる読者数です。その結果、集計された小説などは128冊で、学生レポート800冊、講習会9827冊、計10627冊となりました。
表1 自然災害を題材とした小説の著者・題名の読者数順の一覧表
いさぼうネットの教育支援では、3度目の「
いさぼうアンケート」をコラム80の公開に合わせて行います。このアンケートの一覧表は年代順にしたものです。この表の左欄には著者の前に、
□欄があります。
この□欄にレ点を入れて頂くと、自動的に集計されます。12月末頃までに回答して頂けると幸いです。表1にない小説などで興味ある書籍があれば、著者,発行年、題名、出版社などを教えて下さい。
アンケートの集計結果は、いさぼうネットのコラムでお知らせします。
3 災害小説のアンケートの集計結果
読者数の多かった10冊の著者と題名、学生レポートと講習会の読者数を記します。
1 小松左京(1973)『日本沈没』,学生R 92人,講習1019人,計1111人
2 石黒曜(2002)『死都日本』,学生R 78人,講習430人,計508人
3 新田次郎(1977)『剣岳・点の記』,学生R 17人,講習491人,計508人
4 幸田文(1991)『崩れ』,学生R 69人,講習437人,計506人
5 宮沢賢治(1931)『グスコーブドリの伝記』,学生R 23人,講習442人,計465人
6 谷崎潤一郎(1939)『細雪』,学生R 3人,講習369人,計372人
7 吉村昭(1967)『高熱隧道』,学生R 6人,講習331人,計337人
8 木本正二(1967)『黒部の太陽』,学生R 7人,講習328人,計335人
9 石黒曜(2004)『震災列島』,学生R 34人,講習255人,計289人
10 三浦綾子(1977)『泥流地帯』,学生R 56人,講習228人,計286人
いずれも有名な小説なので、読まれた方も多いと思います。
表2は、表1をもとに、10年毎の年代順に災害小説の発行数と読者数を整理しました(2022年3月27日現在)。図1は表1をもとに、10年毎の小説などの発行数を円グラフとしたものです。10年毎で発行数が最も多かったのは、2000年代で42冊(32.8%)、次に多かったのは1970年代で25冊(19.5%)です。
表2 10年毎の災害小説の発行数と読者数(2022年3月27日現在)
図1 災害小説の10年毎の発行数(2022年3月27日現在)
図2は学生レポート、図3は一般(講習等)による読者数(2022年3月27日)を示しています。学生レポートでは2000年代が307冊(38.4%)で最も多く、次に1970年代が225冊(28.1)となっています。それに対し、一般(講習等)では1970年代が3510冊と最も多く、次いで2000年代が2260冊(23.0%)、3番目に1960年代が1360年代が1326冊(13.5%)となっています。20歳前後の学生は古い時代の小説はあまり読まず、新しい小説を手に取って読んでいるようです。
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図2 学生レポートによる10年毎の読者数
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図3 一般(講習等)による10年毎の読者数 |
(2022年3月27日現在) |
上記の表3や図1〜3などを参考にして、災害小説のアンケートに回答して頂けると幸いです。