内閣府の復旧・復興支援本部会議が2月1日より半月に1回、開催されています。関連省庁の被害の概要と復旧・復興の方針が簡潔でわかりやすくまとめられています。震災全体の状況把握にはオススメです。
令和5年災害より、国土交通省が全国で試行として導入している、“市町村向けの”新たな災害査定方式です。令和6年能登半島地震では、石川県の輪島市、七尾市、珠洲市、かほく市、内灘町、志賀町、穴水町、能登町、富山県の射水市、計9つの市町が適用対象となっています。
なお、今回の震災で“石川県”の災害査定は、下図の『設計図書の一部簡素化』が適用されます。『早期確認型』は、市町村限定のしくみです。市町でも、早期復旧の優先度等に応じ、『早期確認型』と『一部簡素化』を使い分けていくようです。石川県および石川県内自治体では、令和6年中の査定申請完了を目標に、被害調査、査定設計、詳細設計を進めています。
さて、「早期確認型」は、従来の災害査定と何が異なるのでしょうか。先日、弊社職員が輪島市の「早期確認型査定」の“前査定”に同行しました。そのときの様子も交えながら、紹介していきます。
「早期確認型査定」では“前査定”と“後査定”の2回、査定を受ける点が、従来査定との大きな違いです。
2-1. 前査定
「早期確認型査定」では査定申請時に査定設計・積算が不要であることが、「従来査定」あるいは「設計図書の一部簡素化」との大きな違いです。
前査定は、“現地”で行います。立会者は、国交省査定官、市町担当者、県担当者、必要に応じその他関係機関担当者、設計担当者です。現地では査定官が進行しながら、被災状況を立会者とともに確認していきます。
前査定のメリットは、査定官の技術的な助言を現場で直接、受けれらることです。実際、輪島市の前査定の際には、災害箇所の被災状況確認後、それぞれ起終点、復旧工法、採択要件、関係機関との調整、応急復旧の技術的助言、申請時の留意点などについて、査定官が箇所ごとに分かりやすくまとめて、市町担当者へ助言していました。
事前の資料準備が必要最低限で済むこともメリットです。輪島市の事例では、TEC-FORCE(国土交通省緊急災害対策派遣隊)による被災状況調査資料をもとに前査定を受けています。また、“現地”で行うため、写真の準備も不要です。実際には、事前に撮影したドローン全景写真や動画、3Dモデルをタブレットに持参して説明しています。また、前査定実施後、すぐに地質調査・測量・詳細設計に取り掛かることが可能なため、スピードアップが図れます。
2-2. 後査定
詳細設計、積算資料を基に受検します。基本的には、現地確認済であることから、WEBで受検することされています。(改めてレポートできたらと思います)
参加した弊社職員に聞いてみました。
Q:前査定はどんな雰囲気でした?
A:査定官も親身(とても相談しやすい雰囲気)になって被災状況について確認されていてました。また。最終的な箇所ごとの取りまとめは、査定官が行っていたのですが、市町の担当者、その他関係機関の担当者、設計担当者としっかりコミュニケーションを取った上で取りまとめた上で市町担当者へ助言されていましたので、非常に安心して前査定を受けることができました。
Q:現地での起終点の決め方は?
A:市町担当者が起終点を提案し、査定官が決定する流れで、比較的サクサクと決めていきました。その場で、赤スプレーをして起終点を明示していきました。
Q:自治体職員目線では、どんなメリットがあると感じました?
A:心理的な安心感。現地へ査定官が同行し、諸々アドバイスを頂くことで、職員の方は現地で方針が決まり、安心感を得ることができます。実際、前査定終了後、輪島市職員さんは、相談(前査定)できてよかった〜っとおっしゃっていました。
Q:前査定は良いことばかり?
A:前査定案件は、詳細設計を急ぐ必要があります。我々設計業者のみならず、調査業者、測量業者もフル稼働のため、優先的に早く進めることができるかが心配です。
2-3. 市町村における災害復旧事業の円滑な実施のためのガイドライン
さて、このような「早期確認型査定」方式は、どのような背景で導入が進められようとしているのでしょうか。
国土交通省では、令和4年5月に「市町村における災害復旧事業の円滑な実施に係る支援方策のあり方」を公表しており、以下の4点を課題として挙げています。
【災害復旧事業の円滑な実施に係る市町村への支援方策の方向性】
(1)大規模災害における更なる査定の効率化・簡素化の検討
(2)復旧の優先順位を踏まえた災害査定の実施
(3)ガイドラインを活用した平時からの取組強化や災害対応力の底上げ
(4)民間事業者等による地方公共団体が行う災害復旧を支援する仕組みの普及促進
この一環として、「早期確認型査定」の試行が行われているところのようです。
また、令和4年3月に「市町村における災害復旧事業の円滑な実施のためのガイドライン【第1稿】」を、さらに令和5年4月には【第2稿】を公開してます。地方自治体向けのガイドラインではありますが、災害復旧事業に携わる技術者の方々には、一読をオススメします。
3. 能登地区の道路・ライラインの応急復旧状況
―まだ上下水の復旧には至らず−
今回の震災では、道路やライフラインの応急復旧がなかなか進まないことが課題とされています。ここでは、道路、上水道、下水道の復旧状況を整理しました。
はじめに能登地域について簡単に説明します。下図には、石川県の市町の分布を示しています。能登半島の先端部分、能登北部(奥能登)の4市町が、最も震源に近く、被害が大きい地域です。
石川県の市町の分布(石川県HPに加筆)
能登半島は南北に長く、三方を海に囲まれており、そのため風光明媚な観光地となっています。昭和40年代以降、自動車専用道である『のと里山海道』や『能越自動車道』などが順次整備されたことで、金沢市から輪島市までは車で2時間半、珠洲市までは3時間程と、現在では日帰り圏内となりました。さらに、2015年の北陸新幹線金沢開業のタイミングで、それまで石川県道路公社管理の『能登有料道路』は、『のと里山海道』と改名して無料化されたこともあって、能登半島を訪れる観光客も増えていました。このように、能登地区にとって能登半島を南北に貫く“道路”の存在は、その地域振興に大きな役割を果たしていました。
3-1. 道路
下図には、令和6年能登半島地震 道路復旧見える化マップをもとに、主要道路の緊急復旧状況を時系列で並べました。白地が緊急輸送道路、青線が応急復旧完了した路線です。■は到達点および作業箇所になります。
1月12日には、半島北側の海岸沿いを通過する国道249号の道路啓開に着手したところです。1月20日には、半島北部の国道249号の啓開が進み、孤立集落の解消が進みました。1月31日には、志賀町付近の東側海沿いを通過する国道249号の通行が確保されました。1月末の段階で、緊急輸送道路の約9割の緊急復旧が完了しました。
最新の3月8日では、半島北側の国道249号の被害規模の大きい箇所で不通となっている以外は、概ね通行が確保されています。
自動車専用道路である『のと里山海道』や『能越自動車道』は、順次緊急復旧が進められています。3月15日13時には、通行止め区間の『のと里山海道』越の原IC〜穴水IC間の通行止めが解除され、輪島方面へは全線で通行可能となります。同時に、これまで実施されていた日中の一般車両通行規制も解除となり、能登地区へのアクセスが改善されます。
ただ、徳田大津IC〜のと里山空港IC間は、当面は輪島方面の一方通行のみの開通で、40km/hに速度制限もされています。震災前よりも、アクセスに時間がかかる状況は、まだ続きそうです。
能登半島の主要道路の復旧状況(道路見える化マップデータをもとに作成)
3-2. ライフライン
令和6年能登半島地震では、ライフライン、その中でも特に上水道の被害が大きく、またその復旧に時間がかかっています。内閣府、石川県、国土交通省、厚生委労働省発表の被害情報をもとに、経時的な復旧状況をグラフ化しました。
上水道
グラフは横軸に発災からの経過日数、縦軸に通水率を示しています。通水率0%は、全域で断水、100%は復旧していることを示します。
震源から近い、能登北部(奥能登)の珠洲市・輪島市・能登町・穴水町と能登中部(中能登)の志賀町・七尾市の6市町では、発災直後、全域で断水が生じました。このうち、穴水町と志賀町では、約2か月で断水が解消しました。七尾市も、70日経過で通水率86%と、復旧が進んでいます。一方、震源に近い輪島市、珠洲市、能登町では、まだ復旧半ばです。特に珠洲市においては、通水率はまだ5%程度、市役所や市民病院のある飯田町でさえ、3月10日に断水が解消し、水が使えるようになったところです。
奥能登地区では、上道管を埋設する道路が多所で被災していること、道路が被災したため、高台にある水道施設になかなか到達できないことなどが、上水復旧に時間がかかっている一因となっています。さらに珠洲市では、市街地中心部に水道を供給する基幹浄水場において、導水、浄水、送水のいずれもの施設も被災したことで、さらに長期化しています。
下水道
グラフは横軸に発災からの経過日数、縦軸に被害なし・流下機能確保された管路延長の割合(機能回復率)を示しています。0%は全域で機能不全、100%は応急復旧完了していることを示します。
概ね、上水道の通水率と同様の傾向を示しています。震源に近い能登北部の4市町、珠洲市、輪島市、能登町、穴水町で被害が大きく、とりわけ上水道同様に珠洲市が最も深刻な状況です。
上水道復旧状況の比較
上水道の被災状況について、平成28年熊本地震、平成23年東北地方太平洋沖地震と比較してみました。
上図は横軸に発災からの経過日数、縦軸に断水戸数を示しています。下図は、横軸に発災からの経過日数、縦軸に断水率(=断水戸数/最大断水戸数)を示しています。それぞれ、各県ごとに集計した値です。
断水戸数は、令和6年能登半島地震・石川県で10万戸弱であり、平成28年熊本地震・熊本県の43万戸、平成23年東北地方太平洋沖地震での宮城県45万戸、福島県32万戸、岩手県11万戸と比べると1/3〜1/4程度です。そもそも戸数が少ないのは、世帯数(人口)が少ないこともあります。
断水率の経時的な減少に着目すると、熊本地震では発災後7日間で断水率は急速に低下しています。東北地方太平洋沖地震では、津波による家屋損壊や本震後もM7クラスの余震が複数回発生しており、やや複雑な減少グラフとなっていますが、発災後10日〜20日で断水率が急速に低下している傾向があります。能登半島地震では、発災から7日程度で急速な減少傾向が見られますが、断水率60%程度で高止まりし、それ以降の減少が緩やかとなっています。同じ内陸型L2地震である熊本地震と比較すると、その差は明らかです。今回の能登半島地震では、断水戸数は、これまでの大地震よりはるかに少ないものの、復旧がなかなか進まず、被害が長期化していることが分かります。
建物被害と併せて、水がないために多くの宿泊施設はまだ再開できていません。そのため、地区外からの復旧事業者やボランティアが現地に十分入ることができない状況が続いています。被害が深刻な珠洲市は、石川県で最も北に位置するため、金沢市から車で3.5〜4時間程度かかります。日帰り通勤しても、作業時間が限られてしまうのネックとなっています。
◆今月の1枚
輪島市 鴨ヶ浦塩水プール(登録有形文化財)
輪島市街地近傍の鴨ヶ浦海岸にある水泳用の屋外プール。岩礁を縦25メートル横13メートルに削孔し、縁縁辺部をコンクリートで整える。南北に設けた取排水口から海水が自然に流出入する仕組み。立地特性を生かした類例稀なスポーツ施設。昭和10年(1935)頃から整備され、昭和24年(1946年)頃までに、現在の大きさの原形となる。2022年7月23日放送のブラタモリ「輪島」のオープニングロケ地。
令和6年1月1日の能登半島地震に伴う地殻変動(地盤隆起)により、海水の流出入が不能となる。
被災前の姿はこちら 輪島たび結び 鴨ヶ浦塩水プール (輪島市観光協会)
<参考リンク>
●1.「令和6年能登半島地震から10日」 [2024.01.11公開]
●2.「令和6年能登半島地震から30日」 [2024.02.08公開]