自然回復緑化の基本的考え方
これまでの法面緑化では外来牧草類やマメ科低木類が広く用いられてきましたが、これらの植物の多くが、環境省が2015年に発表した「生態系被害防止外来種リスト」に記載されています。
また、近年は、このリストに掲載されている種の代わりに、外国産在来種が法面緑化で多く用いられるようになり、国内の同種との交雑の可能性が高いことや、意図しない外来種が混入されるなど、遺伝的地域性への影響が懸念されることから、日本緑化工学会から2019年に外国産在来種の利用禁止が提言されています。
自然回復緑化は、土木工事等で造成された法面に対し、周辺の二次的自然と調和のとれた植物群落・景観の回復・復元をはかること、と定義されています。斜面樹林化工法は、国内産在来種の木本植物を主体に用いて、早期に法面の樹林化(木本植物群落の形成)をはかる技術で、種子の採取・調整・貯蔵から設計・施工に至る一連の流れを統合した播種工による地域生態系と生物多様性に配慮した自然回復緑化手法です。
【緑化の開始ステージの違いと植生遷移】
【急速緑化と自然回復緑化の比較】
緑化方式 |
急速緑化(市場単価) |
自然回復緑化(斜面樹林化工法) |
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使用植物 |
外来牧草類
外国産在来種 |
国内産在来種
(地域性系統) |
植生回復 |
導入した一次植生が持続するため
植生遷移が進みにくい |
先駆樹種と遷移中後期樹種を
混生させて植生遷移を早める |
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法面景観 |
単純な草本群落は
周辺の森林環境と調和しない |
複数種が混生した木本群落は
周辺の森林環境と調和する |
炭素固定能 |
草本類はすぐに分解されて
CO2を放出してしまう |
木本類はCO2を幹に炭素
(リグニンやセルロース)
として固定できる |
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- 斜面樹林化工法は、メンテナンスフリーで斜面防災効果の高い木本群落を形成し、自然(森林)を再生できることから、グリーンインフラ(GI)、特に生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)技術として有効です。
斜面樹林化工法 【2層吹付システム】NETIS:QS-980148-VE(登録掲載期間終了)
- 国内産在来種の木本植物を主体に用いて、早期に法面を樹林化(木本植物群落の形成)する工法です。
- 外来生物法や生態系被害防止外来種リストに対応した自然回復緑化が可能です。
- 施工事前に種子の早期発芽力検定法を実施し、品質の明らかな種子を使用します。
- 木本植物群落の形成により自然環境・景観の回復、斜面の防災機能向上がはかれます。
- 2層吹付システムは、種子供給機を用いて出芽可能な基盤表面2cm部分にのみ種子を混合し、コストダウンを実現しました。
- 貴重な国内産在来種子を有効利用できます。
施 工 地:山口県岩国市
施工年月:2002年3月
地 質:砂岩(一部モルタル吹付面:穿孔工併用)
勾 配:1:0.8
使用植物:ヤブツバキ、ネズミモチ、アカメガシワ、ヌルデ、アキグミ、ヤマハギ、コマツナギ、TF、CRF |
2年2ヵ月後:赤枠内が樹林化工法(ヤシャブシが優占)、その他は外来草本類による急速緑化 |
5年6ヵ月後:樹林化施工区は法枠工が完全に遮蔽され、周辺環境と調和している |
16年7ヵ月後:急速緑化と比較して自然回復のスピードが大きく異なることがわかる |
|
※法枠工が遮蔽され、自然回復が進んでいます。 |
●2層吹付システムの施工プラント
- 種子は、吹付機に投入する生育基盤とは混合せず、種子供給機に入れます。この際、種子の破損を防止する種子保護材と、種子+生育基盤層の判別と種子なし生育基盤層との接着効果を高める識別材を混合します。
- これらの材料は種子供給用ミキサであらかじめ混合撹拌した後に種子供給機に投入し、材料圧送ホースの途中で
生育基盤と混合されます。
- なお、4cm以下の吹付厚の場合には、従来の1層吹付を適用します。
●生育基盤の材料配合表 (吹付機に投入する材料)
名称 |
規格 |
1m3当たり |
生育基盤材 |
レミマテリアル |
2,000ℓ |
侵食防止材 |
レミコントロール |
60kg |
緩効性肥料 |
(N:P:K=10:18:15) |
4kg |
※緩効性肥料は「ハイコントロール085」を標準とします。 |
●種子と種子保護材の配合表 (種子供給機に投入する材料)
名称 |
規格 |
現場配合
(50m2当たり) |
種子保護材 |
レミマテリアル(Reme Material) |
40ℓ |
ゼオライト(0.8〜1.9mm) |
20kg |
識別材 |
再生セルロース繊維(15mm) |
1kg |
配合調整種子 |
レミディシーズ(Remedy Seeds)10バッチ仕様 |
1袋 |
斜面樹林化工法 エコストライプ仕様 (播種工+自然侵入促進工)NETIS:QS-150044-VR
- 斜面緑化において、生育基盤を非面的(帯状)に吹き付ける、在来種播種工と自然侵入促進工を組み合わせた工法です。
- 非面的(帯状)に樹林化することにより、群落内に飛来種子が定着できる空間(ギャップ)を作り出し、周辺植物の自然侵入を促します。
- 緑化工事で発生するCO2排出量を従来の全面緑化の約1/2に削減します。
- 2層吹付システムとの組み合わせにより、植生基材吹付工の市場単価と同程度、あるいはそれ以下のコストで在来種による法面緑化を実現します。
タネの貯蔵・出荷 (RSセンター)
- 斜面樹林化工法で使用する国内産在来種子「レミディシーズ」専用の貯蔵・出荷施設です。
- 在来種子は入荷後、独自に開発した技術により適切に調整・貯蔵・管理されます。
- 貯蔵中は定期的に早期発芽力検定法を用いて種子の品質検査を実施しています。
- 斜面樹林化工法で使用する際は、自動種子計量装置を用いて1施工単位ごとに種子を正確に計量し、品質保持材を入れ袋詰、出荷しています。
【RSセンター(種子専用貯蔵施設)】
樹種ごとに最適な条件で貯蔵が行なわれています。
(テクニカルアドバイザー江刺先生技術指導)
【種子調整状況】
入荷した種子は貯蔵に適する状態に調整されます。
【種子計量袋詰設備】
レミディシーズは1施工単位ごとに種子を正確に計量しています。
【袋詰・梱包】
種子と品質保持材を混合して袋詰めし、ダンボールに梱包します。
【レミディシーズ(配合調整種子)】
生物多様性に配慮した緑化工法で使用する高品質な国内産在来種子をお届けします。
【現地採取種子の選別状況】
在来種子の販売と、地元で採取された種子の貯蔵代行をしています。
木のタネの品質検査(早期発芽力検定法)
NETIS:KT-060003-V、H25〜活用促進技術(登録掲載期間終了)
- 独自に開発した、木本種子の品質を休眠の有無にかかわらず1週間前後で検定できる手法です。
- 施工前の品質検査が可能なため、発芽率を種子配合設計に反映でき、より精度の高い播種工が可能です。
- RSセンターで保管される国内産在来種子の採取・調整・貯蔵技術の開発に応用しています。
- 早期発芽力検定法による品質検査の受託を行なっています。
【日本樹木種子研究所】
国内産在来種子の採取・調整・貯蔵技術に特化した研究開発を行ない、斜面樹林化技術協会をサポートしています。
【発芽試験と早期発芽力検定法の相関関係】
早期発芽力検定値は、従来の発芽試験との相関が高く、短期間で発芽率と同等の値を求めることができます。
播種木(タネから育った木)のメリット
- 播種木は立地環境に応じて生育する性質があり、根が岩などの割れ目に侵入して側根も長く伸びます。
- となり同士の樹木の根がからみあい、ネット状になって岩や土砂を緊縛します。
- 斜面防災効果が高い自然回復緑化ができます。
播種木の隣木同士の根系との絡み合い
(ネット状効果) |
側面 |
平面 |
(テクニカルアドバイザー福永先生提供)
一方、植栽木は…
- 地山が硬質だと植穴から外に根を伸ばすことがほとんどできません。
- 斜面防災効果は播種木より大きく劣ります。
植栽木 |
播種木 |
※数字は土壌硬度(mm) (テクニカルアドバイザー山寺先生提供)
●木本植物の導入方法の違いと根系の状況
活きた吸収源 (低炭素社会への貢献)
- 山腹崩壊地や造成された法面へ空気中のCO2を吸収固定できる木本植物を導入することで、活きた吸収源として低炭素社会に貢献します。
- 播種工によりタネから育てた樹木は、施工からおよそ15年で杉の木2,312本相当のCO2を吸収することがわかりました。
- 斜面樹林化工法エコストライプ仕様は、植生基材の吹付面積が従来技術(全面緑化)の半分となるため、CO2排出量の少ない低炭素型工法として、低炭素社会へ貢献します
※CO2排出量は産業関連表による環境負荷原単位データブック(3EID)を用いた算出値です。
※杉の木による本数換算は、CO2吸収量を14kg/本と仮定しています。(出展:関東森林管理局ホームページ)
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お問い合わせ
斜面樹林化技術協会 事務局
〒104-0061 東京都中央区銀座7-12-7 東興ジオテック株式会社内
TEL:03-6845-1526 FAX:03-3456-8752