昨年1月1日に発生した令和6年能登半島地震から1年余りが経過しました。
道路橋示方書や建築基準法(政令)といった設計基準・技術的基準は、1964年新潟地震、1978年宮城県沖地震、1995年兵庫県南部地震といった大地震での被災状況を踏まえ、耐震性に関する設計基準が都度、改定されてきました。
令和6年能登半島地震から1年が経過し、様々な機関で被災状況の整理がなされ、現行設計基準の改定が必要かの議論が進んでいます。今回のニュースでは、道路分野、建築分野、上下水分野について、その議論の概要を紹介します。
また、昨年12月いっぱいで、災害査定が概ね完了し、詳細設計、復旧工事が今後本格化していきます。そこで、令和6年中に発注された石川県内の復旧工事について、動向を分析してみました。
●「道路土工構造物技術基準」「道路橋示方書」の改定動向
国土交通省は、社会資本整備審議会 道路分科会 道路技術小委員会において、令和6年能登半島地震を踏まえた技術基準等の改定に向けた議論を進めています。令和6年12月25日に開催された第24回道路技術小委員会では、「道路土工構造物技術基準」の改定案、「道路橋示方書」の改定の方向性案が示され、関連図書の整備と併せて令和7年度後半に適用予定とのことです。
具体的には、性能規定化の具体化をより進めること、また令和6年能登半島地震から得られた知見が盛り込まれる内容が予定されています。特に注目されるのが、「土工」において要求性能に応じた限界状態を超えないことを性能照査することが盛り込まれており、今後示される解説および関連図書においてより具体的な照査方法が示されるようです。今後の情報に引き続き注視していく必要があります。
【図1.1~図1.3とも:国土交通省 第24回道路技術小委員会 配布資料 【資料1】より抜粋】
・社会資本審議会 道路技術小委員会 (国土交通省)
●「令和6年能登半島地震における建築物構造被害の原因分析を行う委員会」中間とりまとめを公表
令和6年能登半島地震における建築物構造被害の原因分析を行う委員会では、建築構造の専門家、建築設計や建築審査の実務者を委員とし、国土技術政策総合研究所や建築研究所が実施している建築物の構造被害に関する調査に加え、さまざまな機関の調査結果や関連データ等を幅広く収集・整理し、専門的、実務的知見を活かして建築物の構造被害の原因分析を行うとともに、分析を踏まえた対策の方向性を検討しています。その中間とりまとめが令和6年11月1日に公表されました。国土交通省は、本報告を踏まえ、具体的な建築物の耐震性の確保・向上方策について検討することとしています。
建築分野の耐震基準も、大規模な地震被害を踏まえ、改正が進められてきました(図1.4)。図1.5には、令和6年能登半島地震における木造建築物の被害状況の分析結果です。建築年代、すなわち耐震基準の違いで、被害状況に違いがあったこと、特に2000年以降の現行の耐震基準に適合した木造建築物では、倒壊・崩壊や大破したものがごくわずかであったことから、現行規定は、今回の地震に対する倒壊・崩壊の防止に有効であったと結論付けています。
一方、鉄筋コンクリート造建築物では、杭の損傷や移動等に起因すると思われる転倒及び傾斜被害が確認されたものの、まだ十分な調査が進んでいないことから、周辺地盤を含むそのメカニズムは今後の検討課題とされています。
中間とりまとめでは、地震地域係数についても指摘しています。近年の地震では地震地域係数の低い地域においても、過去に建築物の大規模被害が発生した地震動に匹敵するような大きさの地震動が頻発し、今回地震が発生した能登北部も地震地域係数が0.9となっています(図1.6)。新耐震基準導入以降に地震地域係数を用いた構造計算を行い建築されたと考えられる建築物について、地震地域係数を要因とする倒壊等の被害は確認されていないものの、地震地域係数を用いた基準のあり方について検討を行うとしており、今後の議論が注目されます。
【令和6年度 国総研講習会[住まい・まちの地震災害対策の取組]資料より抜粋】
【令和6年度 国総研講習会[住まい・まちの地震災害対策の取組]資料より抜粋】
【令和6年能登半島地震における建築物構造被害の原因分析を行う委員会中間とりまとめ資料より抜粋】
●「上下水道地震対策検討委員会」最終とりまとめを公表
国土交通省は、能登半島地震の被災状況を踏まえ、施設の復旧のあり方を早急に示すとともに、必要な対策方法の見直しや加速化を進める必要があるとして、学識経験者、国土交通省、厚生労働省、地方公共団体、関係団体が参画する委員会を立ち上げ、令和6年9月に最終とりまとめを公表しました。上下水道の取り組みは、令和6年度 国総研講演会においても、詳しい報告がなされています。
水道管路の被害率(図1.7)は、輪島市、珠洲市で高いことが分かります。図1.8の管種別被害率では、未耐震管路で被害率が大きくなっています。下水道管路の被災率(図1.9)、下水道マンホールの被災率(図1.10)では、珠洲市、穴水町で被災率が熊本地震と比較しても極めて高いことがわかります。
検討委員会は、令和6年能登半島地震においては、最大約14万戸で断水が発生するなど上下水道施設の甚大な被害が発生し、耐震化していた施設では概ね機能が確保できていたものの、耐震化未実施であった基幹施設等で被害が生じたことで広範囲での断水や下水管内の滞水が発生するとともに、復旧の長期化を生じさせたと結論付けています。
また、同委員会は、「上下水道施設の本復旧にあたっての耐震指針の適用について」として、上水道、下水道とも現行の設計基準に準拠して設計・施工することが適当であるとの結論を令和6年3月12日に公表していました。
最終とりまとめを踏まえ、各協会、国土交通省は、災害対応に係る各種マニュアルの拡充・見直しを検討しており、令和7年度での公表を目指しているとのことです(図1.11)。
【図1.7~図1.11:令和6年度 国総研講演会[上下水道行政の一体化と能登半島地震での復旧・復興支援]資料より抜粋】
・上下水道地震対策検討委員会 (国土交通省)
能登半島における昨年9月20 日からの大雨による災害は、令和6年能登半島地震からの復旧の最中に、同一地域で再び激甚災害が発生した極めて特殊な災害であることから、複合的な災害と捉え、災害査定の一体的な運用が図られました。能登半島地震災害と同様に、設計図書の簡素化、書面による査定の上限額の引上げ、現地で決定できる災害復旧事業費の上限額の引上げ等により、災害査定が大幅に簡素化されたこともあって、令和6年12月末に概ね完了しました。令和7年は、災害詳細設計が本格化し、順次、復旧工事に着手していく1年となります。
いさぼう編集部では、石川県内で令和6年12月末までに開札された災害復旧工事について集計しました。具体的には、五大開発(株)が提供する“入札ウオッチネット”にて下記の条件の復旧工事を全数検索した結果をもとに、分析を行いました。なお、道路啓開をはじめとした随意契約による応急工事については、工事金額が未公表のため、集計対象外としました。
対象工事:石川県内で開札された災害復旧工事(随意契約を除く)
対象機関:北陸地方整備局、北陸農政局、石川県(土木部、農林水産部)
集計期間:令和6年3月~12月
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図2.1 発注機関別工事件数
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図2.2 発注機関別工事金額(税込み)
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図2.1は発注機関別の復旧工事件数、図2.2は発注機関別の工事金額です。工事件数総数は530件余りで、3/4が石川県土木部の発注です。工事金額の総計は740億円弱で、北陸地方整備局が450億、石川県土木部が250億となっています。
2024年5月時点で石川県発表の公共土木施設の被害総額は8,000億円程と推計されていますので、復旧工事の発注は今後本格化してくことが伺えます。
図2.3には、工事金額ランク別の工事件数を示しています。工事金額ランクは国交省における一般土木工事の等級区分を参考にA~Eの5区分としています。石川県工事においては、地元の建設会社が主に担う、3千万円未満のEランク小規模工事も多数発注されています。一方、北陸地方整備局工事では、7億円以上のAランク工事、3億以上7憶未満のBランク工事が中心で、工事総数は少ないものの工事総額が大きくなっています。
図2.4と図2.5は工種別の工事件数と工事金額を示しています。発災1年目は、やはり道路に関連した復旧工事が件数、金額とも多いことがわかります。早期の交通機能回復のための舗装工事、崩壊防止のための法面工事も先行しています。また、港湾・漁港関連も優先的に復旧工事が開始されています。一方、道路橋・トンネル工事、砂防・急傾斜地・地すべり工事に関しては、相当数の被災があるものの、調査設計に時間を要することから、まだ件数、金額とも限定的であると推察されます。今後、詳細設計が進み、復旧工事が本格化していくものと思われます。農地・農業用施設工事、治山・林道工事についても同様で、今後発注が進むことが予見されます。
以上、令和6年の災害復旧工事について概括してみました。今回集計対象外とした、市町発注の災害復旧工事も今後発注が本格化していきます。奥能登地域の復旧・復興に向けた道のりは、スタートしたばかりです。
●6.「令和6年能登半島地震から300日」 [2024.10.24公開]
●5.「令和6年能登半島地震から半年」 [2024.07.04公開]
●4.「令和6年能登半島地震から100日」 [2024.04.11公開]
●3.「令和6年能登半島地震から70日」 [2024.03.14公開]
●2.「令和6年能登半島地震から30日」 [2024.02.08公開]
●1.「令和6年能登半島地震から10日」 [2024.01.11公開]
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